本当にそんなつもりじゃないんだって!!「ヴォックス!?どうしたのその腕」
「あぁ、多分シュウの同業者だろうな。俺を見て直ぐに正体に気づいたみたいだった。避けきったと思ったんだが油断したな」
ヴォックスが帰ってきてから異様な気配にはすぐに気がついた。
あのヴォックスが額に脂汗を滲ませている。腕をきつく抑えていて、足取りも覚束なかったためゆっくりと椅子まで移動させた。
「少し見るから、痛かったら言ってね」
「分かった」
ゆっくりと袖を捲ると明らかに呪術の類で撃ち込まれた針が刺さっていて取り出そうにも深い所まで進行している。ヴォックスにここまで強い呪いをかけられるのは相当強い呪術師のものかもしれない。
「治せそうか?」
「う、ん、できないことはないと思うんだけど……」
目には目を、呪術には呪術でどうにかしたいのだがなんと言っても相手はヴォックスだ。
今回の件のように鬼は前提として呪術で祓われる対象である。
針だけを取り除こうにもその過程でヴォックスの存在自体に何らかの影響を及ぼしてしまう可能性も無くはない。
となる、と
やりたくは、ない、やりたくはないけど!
このままではヴォックスの身に何が起こるかわからない。相手の素性が全く分からない以上取り除くに越したことはないのだ。
「ヴォックス、ちょっと気持ち悪いかもしれないけどごめんね。耐えて」
「シュウ?」
僕はヴォックスの腕をとって、ゆっくりと刻まれた呪印に舌を這わせた。
「ッ!……シュウッ!なっ」
「ほえん、はまんひて(ごめん、がまんして)」
「くッ、は……」
そのままぢぅ、と強く吸い上げるとヴォックスの身体が跳ねるのが痛々しい。舌で針が吸い出せたことを確認して、労りの気持ちも込めてまたその跡を少し舐めてから口を離す。
「ん、ほえは(とれた)」
「……」
「もう痛みは?他に身体に異常はない?」
「ああ、大丈夫だが……今のは?」
吸い出した針を口から手のひらに出して自分の紅桔梗の炎で燃やす。
これで痛みはなくなったはず。
「呪術で取り出そうとするとヴォックス自身に影響するかもしれなかったから……口から異物を吸い出して呪いを除去する方法にしたんだ、この方が安全だったから」
「……ほう?よくやるやり方なのか?」
「やってみたのは初めて。さすがに口でやんなきゃいけないから人選ぶし……気持ち悪かったよね?でももう大丈夫だから。しばらく様子を見て」
よし、これでそのまま、この場を離れれば、と颯爽と後ろを振り返るとギリギリと音がなるほどに掴まれる自分の腕。
「シュウ」
「……なに?」
「ここまで俺をその気にさせておいてそのまま放っておくのか?」
力つよ、てかいった!!さっきまで脂汗かいてたのどこ行ったの!?ってぐらいの力で掴まれて引き寄せられそうになるのを踏ん張って耐える。ほんと、目が本気じゃん!
「いや、分かってるよ、その気にさせるような行動したのは分かってるけど!!そうじゃなくて!!」
「分かってるなら話は早いな、痛みも無くなった事だしちょっとリハビリがてら身体を動かしてみたいんだ。付き合ってくれるな?」
「うわ、ちょっと!!担ぐのはナシ!!待ってってば!!ヴォックス?!」
「HAHAHAHA」
___邪術などのために体内に打ち込まれたとされる異物(針、石、ガラスなど)を口で患者の体内から吸い出したり、手でつかみ出したりする。
引用 コトバンク 『呪術師』