結局、自分もなんて!「お、おかえんんっ、んぅ」
荒々しくドアを開けて浮奇が帰って来たと思ったその刹那、ずんずんと近づいてきて歯がぶつかるほどの力で口を塞がれた。
唾液を獣のように滴らせながら、舌が咽頭についてしまうのではと思うほど後頭部を強く抑え、舌を奥へ奥へと絡ませてくる。
キスでえずきそうになるなんてことがあっていいのか。
酸欠になりかけてどんどん、と背中を叩いてやっと口が離されて、ずんずんと寝室に腕を引かれていく。
こういう状態になった浮奇はもうどう頑張っても収まらないので大人しくついて行くしか無かった。
浮奇はたまにこういう状態になる。能力を使いすぎた時なんかが特に多い。そんな日は決まってひたすら無言で全てを求めて俺を抱く。いつものドロドロに甘いあの声で優しく、焦らして抱いてくるあの浮奇はどこへ行ったのだろう。
「っぐ、ぅ、ぁは、お、俺は逃げない、から、んっんんぅぅ」
「っは、ぁ……もっと……」
寝室のドアを閉めた途端にまた塞がれる唇。
少し離れたと思えばすぐに舌を絡め、爪で俺の首筋を軽く引っ掻きながら、足で乱暴に俺の身体をベッドに蹴倒した。
ぢぅ、ちゅう、という水音とシーツの擦れる音だけが静かな寝室に響いて倒錯的だとぼんやり思うと同時に、なんだかやられっぱなしも癪に触って、そのまま俺も浮奇の首に回していたその指でうなじをガリガリと強く引っ掻いた。
こちとらいつもは真反対のセックスをしているのだ月に1度ぐらいでくるこの荒々しさが癖にならないわけがない。
どうしてくれるんだとばかりにいざ反抗してみて、俺は直ぐに後悔した。
「っは……何してくれんの……ふーちゃん♡」
やばい。
コンマゼロ秒でやばいと言う言葉しか出てこない。
浮奇は心底楽しそうに先程引っ掻いたうなじを撫でて、恍惚とした表情でこちらを見下ろす。
これは何かのスイッチを押してしまったらしい。
これはあれだ。獣が獲物を捉えて、いたぶる時の見つけた時の目と似ている。違うのはその先に欲情があるかないかだ。
「まっ、ちょ、すまなかった。」
「何に謝ってんの……?俺喜んでるんだけど……やばい、死ぬほど興奮してる」
あ、もうこれは気絶ルートだ、明日動けないどころか1週間俺は動けないのではと確信したその瞬間
ボタ……ボタタ……
「え?」
俺のシャツにじわじわと赤い染みが出来ていく。
見上げるとそこにはダラダラと鼻から血を流し続ける浮奇がいた
「ちょ、おまっ鼻血!」
どくどくと溢れだしてくる鼻血は俺の顔や首筋にも落ちてきて、体全体に広がっていく。
俺に言われて気づいたのか浮奇は鼻のあたりを乱暴に手のひらで拭うとべっとりと血がついた。
浮奇はそれをマジマジと見ている。
「とりあえず鼻血止めろ!シーツまで汚れる!」
そのまま浮奇の方にティッシュ箱を投げつけるとティッシュを二、三枚取って自分の鼻に押し付けて急にものすごい勢いで鼻をかんだ。
「はぁ!?なにしてるんだ!?余計悪化するだろ!」
「……こうやってやった方が元の切れてる毛細血管が出てくるからすぐに鼻血止まるんだよ。まぁたまに悪化するときもあるけど。」
そう言ってティッシュを見せてもらうと言った通りに血管が破れたような塊があった。鼻血ももう出てこないらしい。
「あーあー俺のシャツも汚れた、どうするんだよ」
改めて自分の身体を見ると血まみれであるし顔にもかかっている。まるで殺人現場だ。
「俺、とりあえずシャワー浴びるからってぅお!」
と立ち上がろうとした瞬間また足で体ごと倒される。まだ荒い息と逃す気のない両側についた手が逃すわけがないだろうと言わんばかりだ。
「なんのために強硬手段で今鼻血止めたと思ってんの?しかも血流したら意味ないじゃん……これ、最高にそそる」
「はぁ!?まだ興奮してんのか、っっ!?」
不意に浮奇が腰を寄せてきて今までにないぐらいに硬くて熱くなった浮奇のモノが俺の内腿を擦った。
その感触に思わず身体を跳ねさせると浮奇が楽しそうに口角をあげたのが分かる。
「真っ赤、きれい」
やっぱりふーちゃんに紅は似合うね。と俺のシャツの赤い染みを上から舐め始める。
ギョッとしつつ抵抗できずにいると時折じぅと吸われ、肌に少し刺激が走る
あぁ……浮奇の新しい性癖を開いてしまったかもしれない。
でもそんなやつを受け入れている自分もきっと似たようなもので。そんな思考も身体も全てを投げ出して、目の前の愛しいケモノに明け渡した。