トんじゃいそうなくらい「そういえば、一緒にお酒飲むの久しぶりだね」
「そうだったかもな」
なかなか無くならない酒に口をつけて喉を鳴らしてから、チリソースとチキンのラップをそのまま手に取って齧る。ごまの香りと甘辛いタレがまた食欲をそそる。
浮奇が久しぶりに家に来たいと言うので来るついでに夕飯になにか食べ物を買ってきて欲しいと何気なく言ってみたのだが……自分の好物であるそれを外さずに買ってくることにむず痒さを覚える。
「これ美味しいね、ふーちゃんよく食べてるし。」
「ん、そう、お前返事よこさないから気づいてないのかと思った。」
「ごめん、その連絡来てすぐラップがあるお店調べたりしてたら忘れてた」
そんな会話をしながらまた口に運ぶ。さっきよりも少し大きい口で噛み付いたからか、トルティーヤの端から漏れたソースが口の端にべっとりとついて、それを舐め取ろうとした時に急に浮奇に腕を掴まれた。
そしてそのまま顔が近づいてきて、ろくに抵抗もできずソースで汚れたであろうそこをべろりと舌で拭われる。
突然の行動と、熱く濡れた感触につい身体が強ばった。
「ちょっ、お前何してんだ。」
「だって、勿体ないでしょ、せっかく理由づけてふーちゃんに触れる機会なのに。」
鼻先にちゅ、と軽く口付けられ、指では首筋をなぞってを繰り返す動きに鳥肌が立つ。
「ん、きもっ、ちわる。」
思わず身を引こうとすれば、ぐっと体を抑えていた腕に力が込められて、そのまま指の動きは止まる気配がない。
「うそ、いつもこれやりながらだと締まるの知ってる。」
「……言い方が変態臭い。」
「ふーちゃんだってあんま変わらないじゃん。」
浮奇はそのままうなじの方まで指を回すとすり、すり……とゆっくりと指で弄び、ついには首筋を舐めてきたので変に腰の辺りに熱が燻り始める。
これはよくない、非常によくない。
と気づいて身をよじるとそれを止めるかのように首筋に鋭い痛みが走る。
「っ!?……」
「だめ、逃げないで。」
「……その位置、見えるだろ」
「じゃあ見えないところにならしてもいい?」
そう聞いてくる上目遣いの顔に自分は弱い自覚があった。勝手に跡をつけて来て、そのままなし崩しにしようとしてきた癖にそんな顔をするな。
その顔に絆される自分も自分だが。
「そうともいう、かもな」
「……へへ。」
「ニヤニヤするなばーか。」
だらしなく下がった眉毛と目尻に悪態をついてみたがもう聞いていないらしく、ねっとりと舌で嬲って、薄い皮膚を吸っては軽く噛んで歯型をつけていく。
自分のことをまるで飴を口で転がすように味わいながら愛でる姿に、不意に加虐心が湧いた。
「浮奇」
「……?ん、ぅ」
浮奇の顔を上に向かせて唾液で濡れた唇を指で撫でる。それを甘受していた口に指を突っ込んで、ぐちぐち、と動かして浮奇の舌を引き出してやる。
「う、えっ。」
歪ませた表情に自分の口角が上がるのを感じて、親指をいれたままにして口を開かせる。
まだ困惑した様子で無防備に口を開けてこちらを見る浮奇にそのまま自分の舌を捩じ込んだ。
口の中に残った酒とラップの味を探す。その舌の動きを追いかけるように舌が重なってきて絡め取られた。
粘膜を擦り上げて、粒ぞろいの歯を一つ一つ確かめるように蠢く。
酷く興奮して、頭がクラクラしながらゆっくりと口を離せば銀の糸がひいてプツンと切れる。
「っは……なに?興奮したの?」
ニヤニヤしながら聞いてくるその態度がなんかムカつくのでおでこを小突く。
「いたい。」
「わざわざ聞くな。」
大して痛くもないくせにそんなことを言う。
なんだか見透かされてるみたいで気分が悪く、意趣返しも含めてさっきまで浮奇の口に突っ込んでた自身の親指を今度は見せつけるように自分の口に含む。
少し浮奇の味が残っていて先程まで自分の首に行われていた手順を自分で繰り返して見せれば、浮奇の顔が雄臭く、発情したものにみるみる変わっていく。
舌を這わせて、口に含んで、関節の部分をチロチロと舐めて、また唾液を塗りつけて。
浮奇の指のように体温も柔らかい感触もない機械のそれ。
ちぱ、という音をたてて、唾液をより多く指に絡ませてから取り出せばすぐにそれを舐め取られた。
「はは、なに、興奮したか?」
「ほんとマジでさ……勘弁してよ。」
「ふははっ」
「俺の負け。」
「じゃあ勝った俺にはなんかあるのか?」
「ん……わかった。して欲しいこと素直に言っていいよ?」
なんでも聞いたげる、ね?
と頬に手が添えられて目尻を親指でなぞられる。本当に、こいつは狡い。負けたくせにこっちに言わせるなんて。
浮奇の背中に手を回して肩に顔を乗せる。そして浮奇だけに聞こえるように小さく、はっきりと呟いた。
「もっと、キス。ちゃんと口に。」
「……世界一叶えやすいお願いだね。」
ぎゅっと抱き締め返されてそのまま口付けられる。あぁもうなんだって、こいつは。俺の欲しいものを常に与えてくれるんだろう。この温かさも、俺だけに。
唇が離れて、お互いの額をこつん、と合わせる。
「それだけでいいの?」
浮奇の問いにピンと来ず、小首を傾げれば次は耳元に口が寄せられる。
「今、まさにして欲しいこと、本当に他にない?」
「……お前ってそういう所あるよな。」
「だってきっと同じこと考えてるよ。」
嬉しそうな顔をする恋人に、俺もとことん甘いのだ。
「浮奇に、抱かれたい。」
「うん、俺も、ファルガーを抱きたい。」
どちらからともなく唇を重ねて服の下から手が滑り込んでくるのが分かる。その体温に身体を跳ねさせれば、それを宥めるようにもう片方の手で頭を撫でられる。
さらさらと髪を撫でるその手からも、触れ合った箇所の全てからじんわりと熱が伝播していく。
あぁ、直接この口に注がれているこの身体を犯していく媚薬だったのだろう。
そこまで考えて、口の中を蹂躙するもう1つの熱に小さく歯を立てた。