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    raimu612

    @raimu612

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    raimu612

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    To0さんの吸血鬼パロsykgがあまりに好きすぎたのでそれをもとに書かせてもらったもの。

    吸血鬼パロsykg「よいか、ショウ。ひとつだけ言っておくことがある。満月の夜には此処に訪れてくれるな」

     ――そういえば、そんなことを言われていたな、と。
     すっかり記憶の彼方に追いやられていた忠告の理由を、ショウはその夜、身をもって知ることになったのだ。


     振り返ってみれば。
     調査に熱が入ってしまい、あちこち駆けずり回って疲労困憊、腰を下ろして携帯食を平らげてから少しだけと目を瞑ったのが間違いだったのだろう。
     ハッと目を開いた時には既に陽は落ちきってしまっていた。
    「……やっちゃった」
     夜行性のポケモンには獰猛で加害性が強いものが多い。それに加えて単純に暗く見通しが悪ければ、ただ移動するにしてもありとあらゆる危険性が高くなる。たとえ今日が満月で月明かりが眩くとも、まだこの時代の地上の闇すべてを照らし出すには足りない。
     長距離を移動するのは愚策。コトブキムラは遥か遠く、ならば近くのベースキャンプへ向かおうと脳内で地図を開いた結果、古の隠れ里が最も近い安全地帯なことに気付く。
     コギトの住む隠れ里は、そこだけぽっかりと空いた空白のように危険なポケモンも寄り付かないのだった。
     さすがに約束もなくこんな夜更けに訪ねるのは非常識だとは思ったが、背に腹はかえられない。庵の外で構わないから一晩置いてもらおうとショウは辺りに気を配りつつ向かうことにしたのだ。
     そしてなるべく音を立てないようにしてようやく辿り着いた先、見慣れた庵の前に佇む人影を見つけてショウは足を止めた。
    「――え、」
     月明かりに浮かび上がる輪郭だけを見れば、それはこの隠れ里の主人であるコギトに相違ない。
     ショウを戸惑わせたのは、コギトの放つこれまで感じたことのないプレッシャーだった。
     今まで見てきたオヤブンの猛々しい威圧感とはまた違う、静かな、腹の底に重く沈むようなそれ。
     そして、もうひとつ。なによりも目を引いて異なるのは、コギトの瞳だった。普段は落ち着いた銀色が、今は鮮やかなあかいろに染まっている。
    「コギト、さん……?」
    「こんな時間に気配がすると出てみれば……はぁ」
     ショウの呼びかけには答えず、コギトは深々と溜息をついた。その途端、瞳の色はそのままに発していたプレッシャーだけが霧散していく。
    「……本当に仕方のないやつじゃのう、おぬし」
     こんな時間にやって来た、駆けずり回った後のくたびれたショウの姿を見て、なにもかもを察したのだろう。
    「来てしまったものはどうしようもない。ほれ、そんなところに突っ立っておらんで入るがよい」
     視線でも入れと促すようにして、コギトは庵の中へと消えていく。慌ててショウはその背中を追った。


     天井部分から光を取り込むようになっているおかげか、庵の中は思っていたよりは暗くはない。
     とりあえず座るといい、と用意された椅子にショウが座るとコギトもまた向かいにあるベッドへと腰を下ろした。
     そのまま何かを待つように黙っているコギトに、意を決してショウは声を掛けることにした。
    「あの、コギトさん、その目の色……」
    「……そうじゃな、見られてしまったからには話すとしよう。あたしにはな、いわゆる吸血鬼と呼ばれるものの血が流れておる」
     吸血鬼、と口の中で転がしてショウは少し口籠った。
     突飛な話だと思う一方、不思議と素直に信じて納得してしまっている自分がいる。
     普段のコギトからして浮世離れした感はあったし、何よりもつい先ほど感じた人外のプレッシャー、今も赤い瞳はコギトの話を裏付けるに足る真実味があった。
    「……じゃあコギトさんも、人間の血を吸うんですか」
     いいや、とコギトは首を振った。
    「吸血鬼の血ももうだいぶ薄れて普段はただのひとと大差はない。寿命が違うくらいじゃな。これまでそなたが見ているようにひとと同じ食事で事足りる。特別血を飲まなければならない理由はないんじゃがな」
     コギトは憂鬱そうに息を吐き出した。
    「ただ、そう、こんな満月の日には薄れたはずの血が疼いての。少し、そちら寄りに近くなる」
    「ああ、だからその瞳の色も」
    「そういうことじゃな」
     頷いてみせるコギトにショウもまた得心した。
     以前言われた「満月の夜は訪れてくれるな」という言葉の理由。
     そしてそれはコギトがどこの集落からも離れて一人きりで隠れ住んでる理由のひとつでもあるんだろうか。
     薄闇の中、いよいよ目が慣れてはっきりと見えるようになったコギトの表情、仕草。
     やはりいつもとは少し雰囲気が違うように感じられて――
    「コギトさん、血、飲みたいんですか?」
     思わず溢れでたショウの言葉に、ゆっくりとコギトは眉根を寄せた。
    「……別に飲まなくても問題ないと言ったつもりなんじゃが」
    「でも、疼いてるんですよね……?」
     苦虫を噛み潰したような沈黙をショウは肯定と受け取る。
    「あの、死なない程度なら、別にわたしの血でよければ差しあげますよ?」
    「は?」
     過去最大に顔に正気か?と書いてあるコギトと至極真面目な表情のショウが見つめ合い、数秒。
    「――いらぬ。不味そうじゃ」
     ふいと視線を逸らしてコギトがきっぱりと断る。ショウはその言われように「ぇえー、ひどい!」と不服そうな声を上げた。
    「突然こんな夜更けに押しかけちゃってるんですし、少しでもお礼になればとか! ほら、わたし血の気が多い方ですし少しくらいなくなっても大丈夫ですから」
     立ち上がりながらマフラーをほどき、首元をあらわにくつろげてショウはコギトへと歩み寄った。
    「来るなって言われてたのに来ちゃったのもありますし……」
     数歩分を空けて立ち止まり、ショウはコギトの返答を待つ。
     言い出したら曲げない瞳を見上げ、コギトは一度、観念するかのように瞼を閉じた。
    「……わかった」


     ――ち、近いめっちゃ近い!
     今、この瞬間、かつてないほどにショウは動揺していた。
     深く考えないままそうしたのだが、首筋を差し出して血を吸ってほしいという事は、これ以上ないほどに密着するということだと今更ながらに思い知ったのである。
     ふわりと鼻腔をくすぐるコギトの香りにくらくらする。
    「ではいくぞ……」
     肩にコギトの指が掛かり、さらりと流れる銀髪がショウの視界を埋める。
     幽かに差し込む月明かりに濡れるそれにショウが目と意識を奪われてる間、突き立てるための具合の良い場所を探すように牙が柔肌を這う。
     ぞわぞわと背筋を走る悪寒にも似た感覚にぎゅっと目を瞑ってショウは堪える。
     やがて、ぷつ、と薄皮を破る音。
    「――っ、く」
     ショウは悲鳴を噛み殺し、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
     覚悟し、想像していた痛みは長く続かなかった。

     冷たいのに熱い。
     痛いのに心地良い。

     代わりにショウを襲ったそれは、未知の感覚だった。
     牙が食い込んだ肌から溢れる血を吸い上げる、微かな水音が耳に届く。ず、じゅる、と響くそれがコギトによるものだと思うと眩暈さえするようだった。
    「――は、っ、……ぁ」
     抑えようと思ってもどうしても声が漏れる。縋るものを求めてショウの掌は無意識にコギトの背に回った。
     息継ぎのためだろうか、わずかにコギトの唇が肌から離れる。
    「……ふ、」
     鋭敏になったショウの感覚は、肌を掠める吐息もこくんとコギトが喉を鳴らす音さえも拾い上げてしまう。
    「――――…ッ」
     ことここに至って初めてショウは自らの考えのなさを後悔していた。
     血を吸われるということがどういうことなのか、ようやく実感した。
     このままだとまずい――ヒスイの地で鍛えられた危機察知能力が警鐘を鳴らすのをショウは遠く聞く。
     今までヒスイの地で数限りない傷を負ってきたショウだ。失血がひどくて気を失いかけたことだってある。その時と似て非なる感覚に小さく震え、力が抜けてしまいそうになる身体。
     恐怖からではない。
     陶酔、恍惚――血を奪われる代わり、牙を突き立てられた箇所から蕩けてしまいそうな快楽が注ぎ込まれているようで。
     もっともっとと委ねてしまいたくなる――抗わなくては、という頭の片隅をよぎる考えすら一秒ごとに擦り消えていく。
     だが、ショウの頭が真っ白になる寸前、コギトの唇がまるで終わりの合図のように軽く首筋を食み、離れていく。 
    「――ン」
     すっ、と。
     それまでの重みが嘘のようにコギトが体を引くのを視線だけで追いかけ、ショウは言葉を失った。
     コギトの唇の端から滴り落ち顎までつたう赤い跡。
     闇に浮かび上がるようなコギトの白い肌に赤い雫はよく映えた。美しいコギトの口元を汚しているそれが、他でもない自分のものだと思うとショウの背中にぞくりと甘い痺れが走る。
     どこかぼんやりと、まるで名残惜しそうに指先で濡れたままの唇をなぞるコギトはゾッとするほど妖艶だった。
     魅入られたようにその様子を見つめていたが、やがて血を失っただけでない理由でくらくらする頭を軽く振って、ショウはなんとか意識をはっきりさせる。
    「ど、どうでした?」
    「うん?」
     声をかけられてようやく、コギトは夢から覚めたような瞳でショウを認めた。ふむ、と口元をハンカチで拭いながら澄ました顔で言う。
    「……まあまあじゃな」
     その、満更でもなさそうな様子にショウは安堵の息をはいた。 
     まだ血の止まりきらない、じんじんと微かに疼く首筋に手を当ててショウはじっとコギトの目を見つめる。
     これだけは言っておかないとと、思った。
    「……もう、わたし以外から血をもらわないでくださいね」
     絶対ですよ!とショウが強く念を押せば、心底意外なことを聞いたとばかりにコギトはきょとんと目を丸くし――く、と喉を鳴らした。
    「まったく、本当にそなたときたら……」
     心配せんでもそんな物好き他にいるはずないじゃろうが、莫迦もの。と、目を細め声に出さずにくしゃりとコギトは笑った。
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