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    みゃこおじ

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    【ドライヌ】ワードパレット9番「結婚・不滅・永遠の愛」

    玄関のドアを開けると、少し気が緩んでしまったのかぐらりと視界が揺れる。痛む頭を押さえながら玄関の電気をつけ、鍵を閉める。男ふたりで暮らす部屋はシンと静まり返り、初夏を迎えつつある室内は少しだけ蒸し暑かった。
    ヘベレケになるまで飲んだのは久しぶりのような気がする。フラつく足取りでリビングに足を踏み入れ、年季にはいった皮張りのソファーにどかりと腰をおろす。近所のコンビニで買ってきた栄養ドリンクを一気に飲み干し、ミネラルウォーターをグビグビと喉を鳴らしながら飲み込んだ。干からびた砂漠に降った雨のように染みわたる。吐き出す呼気も礼服もアルコールの匂いが染みついているような気がするが、着替えるのが億劫だった。
    どうせクリーニングに出してしまうのだからと乾はソファーにごろりと横たわる。今日はパーこと林田春樹の晴れの日だった。元東卍メンバーの中でいの一番に結婚した林田は終始緊張した面持ちで式に臨み、新婦である幼馴染の女性と永遠の愛を誓った。
    式が終わると二次会になだれ込み、林田は龍宮寺を筆頭とした元東卍メンバーに浴びるように祝酒を注がれ、そのまま三次会に連行されていった。乾も酔っ払った一虎と三ツ谷に絡まれ、若干二次会の記憶が危うい。トイレに行くフリをして酔っ払いの集団と距離をとり、どうにかこうにかバレずに逃げ出すことはできたものの、明日は二日酔いだろうなと深いため息をつく。
    でも、と脳裏に焼きついた溢れんばかりの笑顔を思い出し、自然と頬が緩む。あの会場では誰もが満面の笑みに包まれていたし、夫婦になったふたりの門出を全員が祝い、自分のことのように幸せを願っていた。新婦が感謝の手紙を読んでいるとき、なぜか林田が新婦の両親よりも号泣していたのは恐らく、これから元東卍メンバーの中で語り継がれる伝説になるだろう。いい式に参加できたと思うし、初めて参加した晴れの舞台はきっと、一生の思い出に残るはずだ。
    ふと、ブーブーとポケットの中でスマホが震える。もぞもぞと引っ張り出して画面を確認すると、龍宮寺からどこいった?とメッセージが入っていた。もう家と素っ気なく返すと、既読だけついて返信はない。画面に表示されている時刻はそろそろ終電が危ない時間だ。あのままオールナイトで林田を連れ回して、帰ってくるのは夜が明けてからだろうと乾は欠伸を噛み殺しながら目を閉じた。
    素晴らしい式だった。しかし、乾には縁遠い世界でしかない。もしかすると、子供の時の頃の方が身近な存在だったのかもしれない。自分が誰かを好きになることなんて想像したことすらなかったが、一番身近にいた幼馴染みは乾の姉と結婚したいと望む程恋心を抱いていた。それは叶うことはなかったけれど、もし、あの凄惨な火事がなければ、林田と新婦のように永遠の愛を誓っていたのかもしれない。ガラにもなく緊張した面持ちの幼馴染みと、それを見て嬉しそうに笑みを浮かべる姉の姿は想像するに容易い。しかしそれは、まやかしでしかないし、姉の顔なんてほとんど思い出せなくなってきている。
    自分に似ていることはわかっている。けれど、最早記憶には霞がかかっていて、はっきりと思い出すことはできない。姉の写真は全て火事で燃えてしまい、遺影は親戚が撮影した幼い頃の写真で、16歳という短い人生を終えた少女の姿ではなかった。
    乾と幼馴染みの人生を狂わせてしまったあの日から、20年近い年月が経とうとしている。乾がしてきた行いを清算することなんてできないし、あの火事がきっかけで幼馴染みの人生は破滅してしまった。今でも、闇の世界から抜け出すことができずにもがいている。
    酩酊感というものは思考を鈍くする。普段考えないようなことを考え始めてしまえば、メビウスの輪のように出口のないことばかり考えてしまう。あの時自分が姉の代わりに死んでいれば、きっと、こんなことにはならなかったはずなのに、と。
    争いごとのない人生は平凡で刺激なんてなかったが、とても安らかで、充実していた。行き場をなくした乾を拾い上げてここまで手を引いてくれた大切な相棒もいるというのに、どうしても、幼馴染みのことばかり考えてしまう。
    眠くて仕方ないのに、頭は冴えていた。遠くの方で人がいる気配がしたような気がしたが、もしかしたらそれは夢なのかもしれない。夢現の狭間を木の葉のように揺蕩い、心地よい眠気に身を任せる。イヌピー、と呼ばれた気がして薄目を開けると、懐かしい顔が、覗き込んでいるような気がした。
    「コ……コ?」
    「おいおいイヌピー、寝ぼけててもそれはねぇんじゃねぇの?」
    サラサラと黒髪のカーテンが眼前で揺らぐ。ゴシゴシと目を擦ると、ようやく焦点があってきて、呆れ返ったような龍宮寺が目の前にいた。キッチリと結ったトレードマークの弁髪は解かれていて、三つ編みの癖でグネグネとウェーブがかった毛先が頬をくすぐる。
    「先帰んなら一言くらい言えって。どこいったか心配すんだろうが」
    「……水さしちまうと思って」
    「ま、ちゃんと帰れたならいいよ。三ツ谷が駅の方に行くの見たって言ってたし。アイツも少し飲ませすぎたって反省してたしな」
    アルコールで火照った大きな手が頬を撫でる。むず痒さに身動ぎしていると、少し緩めていたノットに長い指が伸びてきてしゅるりとネクタイを奪われた。
    「イヌピー、マジで飲み過ぎんなよ」
    「あ…?今日は三ツ谷と羽宮のせいだろ?」
    「わぁってるけどさ、お前、酔っ払うとエロくなんだよ」
    「はぁ?って、おい、ドラケ…!」
    何を言っているんだと抗議しかけていた唇を塞がれ、ずっしりとした重みにのし掛かられる。ぬるついた舌が口内に滑り込み、上顎を丹念に舐め上げ、逃げ惑う舌を絡め取る。ジュッと舌先を吸い上げられ、口腔がジンジンと痺れた。
    性急に下肢に手が伸び、器用にベルトが外される音がする。どうにか龍宮寺の縛めから逃げ出そうとしても、自分よりも上背のある獣を押しのけることなどできず、どんどん意識が混濁していく。ジンジンとした痺れは少しずつ全身に広がり、体の奥底の小さな種火を燃え上がらせる。乾の股間を刺激するように太ももを押しつけられ、じわじわと焼かれるような熱が這い上がってくる。しかし、しこたまアルコールを摂取したせいか、ぐるぐると熱がとごるだけで、一向に兆す気配はない。
    「ん、ぁ…だ、め…」
    「あぁ?勃たなくてもイけんだろ?」
    「そ、いう問題じゃ…!」
    「イヤか?」
    ぬらぬらと唾液で濡れた唇が禁断の果実のように赤く見える。欲情の火を灯した双眸で見つめられ、ぞわりと背中が震えた。
    「…イヤ、じゃない」
    鼻先が触れ合う距離にあった頬を両手で挟み、啄むようなバードキスを贈る。瞬間、ふわりと体が持ち上げられ、乾は咄嗟に龍宮寺の首に腕を回した。ズンズンと大股で寝室に連行され、優しくベッドに転がされる。暗がりで垣間見えた龍宮寺は、どこか剣を帯びているように見えた。
    身代わりにされていることには慣れているはずなのに、今日はいつもよりも息が苦しいような気がした。
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