薄暗い室内をオレンジ色の照明が照らす。何度か聴いたことのあるバラードを水が勢い良く溜められていく音が邪魔をする。
逸る気持ちを抑え切れないのか落ち着きなく水の溜まり具合を確認してはアルジュナの座っているソファーと透明なガラスで区切られたプールを行ったり来たりを繰り返すアシュヴァッターマンにクスリと笑みを溢す。
アルジュナの視線に気付いた彼は、恥ずかし気に笑って隣に深く腰を下ろした。
「一週間くらい前か? 泳ぎに行きたいって言ったのは俺だけどよ、まさかラブホに連れて来られるとは思わなかったぜ」
「たまには良いでしょう?」
悪戯が成功した子供みたいに得意気な表情をしたアルジュナがゆったりと優雅な動作で脚を組む。
「悪くはねぇな! でも、夕方に俺の家に来て泳ぎに行きましょうなんて急じゃねーか。海で夜間寒中水泳でもすんのかと思ったぜ?」
「そんな危険な事はしません。死にますよ」
「だよな? で、お前の車に乗って着いてみればラブホだしよ。白いシーツの海で泳ぎましょう、とか言い出したらどうすっかなって」
「ハハッ! なんですかそれは…」
「お前言いそうじゃねえか」
「私をなんだと思ってるんですか?」
「あー…、テレビでも見るか?」
あからさまに話題を変えようとリモコンに手を伸ばす。電源を入れると家のテレビの何倍も大きなサイズの画面に裸の女の胸がドアップで映る。
「久々にAVを見た気がします」
「ふーん。お前も見たりするんだな」
「嫉妬ですか?」
「好きに受け取れ」
「貴方って人はこれだから」
口付けをしようと頰に触れればスルリと避けられた。立ち上がって舌を出したアシュヴァッターマンがお預けだとばかりに背を向けて歩き出す。
キュッと蛇口を閉める音が聞こえて水音が止む。
白いタイルの床が裸足になった爪先を冷やす。
そそくさと服を脱ぎ捨て、一人先に水と戯れるアシュヴァッターマンに急かされるまま全裸になって飛び込んだ。二人は大きな水飛沫を浴びて声をあげて笑った。
水面を照らす人工的な光は底までは届かない。どちらともなく潜り、抱き合って水中でキスをした。冷たい水に奪われた体温がぬるくお互いを暖め合う。我慢出来ずに口を小さく開き舌を挿れると空気が逃げて丸い泡となり水面を目指して歪んで割れた。アシュヴァッターマンの熱くて柔らかい舌を捕らえて愛撫する。息が保てなくなる前に離れようと腰に添えた手を離せば、手を引かれて逃げるなとばかりに再びキスされた。握られた手を強引に剥がして酸素を求める。底に沈んだままの真紅の髪が水に漂う。
「っぷは!はぁ、はぁっ」