入浴を済ませ部屋に戻ろうとしたところ、キャッキャッと楽しそうな声が聞こえてきた。おそらくいおとテラが晩酌でもしているのだろう。
「えっ!?猿川くんって男と付き合ったことあんの!?」
「うん、前に聞いたことあるんだけどね」
「おい!バカ!何垂れ込んでやがる!」
晩酌の気分では無かったのでスルーしようとしていたが自分の話題、しかも内容が内容だ。を無視出来ずにいおへの強めのチョップと共に押し入った。ありがとうございますじゃねぇ。
「ごめん猿ちゃ〜ん!流れで」
「流れ」
「「うん。流れ」」
悪びれもせずに言う二人にイラつきながらどかりとソファーに座ると、椅子に座っていた二人が寄ってきて両端に座る。
いつの間に持ってきたのかいおから渡された缶チューハイをクッと呷る。わくわくとした表情を隠しもしないいおとテラに勝手にアレコレ話されるよりマシだと腹を括った。
「で?猿川君はゲイなの?」
「それは違うんじゃないかな。女の子とも付き合ってたし」
「いお!お前は黙ってろ!」
「ふぅん。じゃあ男はその人だけなの?洗いざらい白状しちゃ絶対にダメだよ!」
「おう!なんでも答えてやる!かかってこい!男はそいつだけだ」
「そうだよね!でも僕どんな人かまでは知らないんだけど」
「そこまでお前に教える必要ねぇだろ!」
「どんな人なの?てかまだ付き合ってたりする?」
「三日で別れた」
「三日!短っ」
そういういお、お前だって多分そんくらいで別れたヤツいるだろ。なんならテラだってそうだろ。
「「で、どんな人なの?」」
「どんな人っつーか…」
「え、なになに僕知ってる人!?」
「知ってる人っつーか…」
「えっまさかテラくんも知ってる人だったり?」
「あー…」
「もしやここの住人だったりする!?誰々!?天彦っ!?」
「天彦じゃねぇよ!…ふみやだ」
「「えーーーーーーっっっ!?!?!?」」
うるせぇ。両脇からの絶叫で耳がキーンと鳴る。そこまで驚くか?
「なんでっ!?どうしてっ!?いつっ!?」
「うるせっ!服引っ張んな!」
「これはテラくんも気になるよ!」
「どうしてって言われても、ノリ?としか言いようがねぇんだよ。ここに住む前でアイツの歳も知らなかった頃だし」
なんとなく盛り上がってキスして、そのまま…、それで起きてから付き合う付き合わないみたいなことで揉めて、あの三日間はバカだったなーってだけの笑い話のつもりだ。
「じゃあなんで別れちゃったの?」
「別れんだろ。付き合ってる方がヤベェ」
「うぅ〜ん、まぁ、伊藤ふみやだもんね」
「えっ?盛り上がってるから見に来たけど俺の話?」
タイミング良く顔を出したふみやに次の犠牲者が移ったのを察してニヤリと笑う。
「ねぇ、ふみやさん!猿ちゃんと付き合ってたって本当ですか?」
「あ、言ったの?うん。付き合ってた。でも別れたよね?」
問いに無言で頷く。多少の気まずさを無視して缶チューハイを流し込んだ。
「いやー猿川くん、心配になるくらいチョロいからね!良かったね!別れて!」
「本人の前でそれ言っていいの?」
「だって気にしないでしょ君」
「まぁ」
「ほらね!猿川くん、もう伊藤ふみやみたいな男を好きになったり付き合ったりしたらダメだよ?心配!」
「あっ!?テラさん、まずいよこの流れは!」
「ふみや、好きだ!俺と付き合え!」
「マジ?いいけど」
「はい!じゃあ今から俺たちは付き合いましたー!」
立ち上がってふみやの胸ぐらを掴んでキスをする。酒のせいかこの状況のせいか楽しくなってきた。
「ホラっ!ほらねー!テラさん!どうすんの!?」
「ヤダッ!テラくん知らない!!」
「うわー!! こんなとこでそんなキスしないで!!別のとこでやって!!」
「ン、じゃあ慧、俺の部屋くる?」
「ふざけんな、お前が俺の部屋に来い」
「うん。じゃ、二人共おやすみ」
「おやすみ、お前らもはやく寝ろよ」
連れ立って俺の部屋に向かう。腰に添えられた腕になんでこうなったとは思うが、一度付き合ったら二度も三度も変わらないだろ。
扉を閉めて、甘ったるいキスに目を閉じた。
「「お、おやすみ…」」
「行っちゃった…。見た?伊藤ふみや、出てく時に口パクでありがとうって僕に」
「確信犯ってことですか!?」
「そうかも。だからテラくんは悪くない!無罪!!」
「やばー…」