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    ゆきは

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    ゆきは

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    アルハイゼン不在のゼン蛍

    ティナリ、セノ、コレイ、旅人がガンダルヴァー村でお喋りする話です。

    #ゼン蛍

    サーバルの疑問、フェネックと金狼と議論「た、たびびと、こここ、恋人ができたって聞いたんだけど、」
     本当か!? と前のめりに聞くコレイに本当だよ、と答えつつ、どっちだとその背後に立つ獣の耳をもつ青年たちに目を向ける。
     あはは、と苦笑して目を逸らしたティナリに、どこから聞いたの、と蛍は尋ねる。
    「アルハイゼンから。この間シティで会った時にね」
     ややげんなりとした様子で告げるティナリにセノも頷いた。おそらく同じタイミングでセノも聞いたのだろう。
    「師匠は悪くないんだ。あたしが娯楽小説を読んで恋人の話を聞いてしまったから……」
     しょぼ、とするコレイ。その発言でおおよその事情は分かった。
    「隠していることでもないし、気にしないで。知ってるとは思わなかったから驚いちゃったの」
     ごめんね、と伝えるとコレイはぶんぶんと首を振る。その目はいつぞや見た二人の少女のようにキラキラと輝いていた。
    「……いつ頃から恋人になったんだ? 告白はやっぱりアルハイゼンさんからだったのか?」
     予想通りの言葉に、ちらりとティナリを見る。パトロールの時間になったら教えに来るね、と言って彼はセノを連れて去ってしまった。



    「……やっぱり小説とは違うところが多いんだな……」
     質問の種が尽きた頃、コレイはぽつりと言った。
    「がっかりした?」
    「ううん、そんなことはない! ただ、恋をしている二人より、結婚をした二人に雰囲気が近いような気がして……」
     蛍の問いかけをコレイは否定する。続けられた言葉に今度は蛍が疑問を抱いた。
    「――そろそろ時間だよ、コレイ」
    「あっ、もうそんな時間か」
     部屋の外からしたティナリの声に、コレイは慌てて立ち上がり、またな、と手を振って出ていった。入れ替わりに入ってきたのはティナリとセノで、二人は適当な椅子を引き腰かける。
    「まずはおめでとう、かな?」
    「ありがとう」
    「おめでとう。ではとっておきのジョークを――」
    「ごめんセノ。それはもう少しとっておいてくれる?」
     分かったと頷くセノにティナリは小さく息を吐いた。
    「それで、二人は今どんな感じなの?」
    「……ティナリまで聞いてくるとは思わなかった」
    「そう? 仕事以外で一番気になってることなんだけどな」
    「俺も興味がある。旅人、アルハイゼン、どちらも恋愛事に興味があるようには見えなかった」
     セノの言葉はもっともだ、と蛍は感じた。自分もアルハイゼンも恋愛からは遠い位置にいると感じていた。
    「……私自身、恋愛は自分には関係のないことだと思っていたよ。だから二人に聞きたい」
     ティナリとセノが顔を見合わせた。
    「そもそも恋愛って何なんだろう?」
     頬杖をついた蛍とは対照的に、ティナリは口元に手を当て、セノは腕を組んだ。
    「……率直な言い方をするなら、生殖本能の現れだよね」
     子孫を残したい、そのために優秀な異性を選びたい。それは生物の原始的な本能だ。
     生物学者らしく説明するティナリに蛍は頷く。その考え方は当然頭に入っている。
    「当然、それだけが目的ではないけどね。単に、好きだと感じた相手が自分のことを好きだった。それで恋愛関係成立、くらいの認識で良いんじゃない?」
    「だいぶ雑になったね」
    「解明しようとするだけ無駄だっていうのが大体の人の見解だろ?」
     背もたれに顎を置いたティナリが学者としての説明を投げて、ざっくりとまとめる。
     やはりそう考えるしかないか、と蛍が頷きかけると、黙っていたセノが口を開いた。
    「スメールにおいては学術的に有用であると判断した際、双方合意の上で愛情はなく信頼関係のみで夫婦になる事例がある」
     さして珍しいことでもない、と目を伏せたセノはその目を蛍に向けた。
    「お前たちはそうではないな?」
    「……恋愛が何なのかは分かっていないけれど、それらしいものはある関係性だと思う」
    「なら、お前たちの恋愛はそれなんだろう」
     その言葉がすとんと腑に落ちた。定義できるものでないのなら、事実が自分たちにとっては真実だ。
    「ありがとう、セノ。ティナリも」
     役に立てたなら何よりと答える二人に、折角だからとコレイと話していて生まれた疑問を言葉に乗せる。
    「コレイに【恋をしている二人より、結婚をした二人に雰囲気が近い】と言われたの。なんでだと思う?」
     真剣な顔で尋ねた蛍に、ティナリがそんなこと、と笑った。
    「君たち二人の感情が激しくないからだよ。娯楽小説だと恋をしてる二人の感情が大げさに書かれるからね」
     単純明快な回答に、蛍は深く納得した。たしかに、娯楽小説で表現されているほど激しい感情を抱いたことはないように思う。
     そういうことか、と頷く蛍に、セノがん? と何かに気づいたような声を上げた。
    「旅人はそうかもしれないが、ティナリから聞いた話や先日の様子を考えるに、アルハイゼンは――」
     ティナリがばか、と言いながらセノの口を塞ぐ。アルハイゼンは? と蛍が訊くと、ティナリはセノの頭と口を固定しながら答えた。
    「……これを言うと僕たちはアルハイゼンに酒場で高い酒を奢らされる羽目になるから、聞かなかったことにしてもらっても良い?」
     疑問形なのに有無を言わせない聞き方に、蛍は訳も分からずにこくこくと頷いた。
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