呪と祝「シュウ!お誕生日おめでとう!」
「んへへ、ありがとう!」
5月2日0時になった瞬間、みんながシュウを祝福してくれる。
正直自分の誕生日にあまり興味はないが、大切な人からお祝いされるのは嬉しいものだ。
「シュウ、みんなからプレゼントを用意しているんだ。」
ヴォックスのその言葉に、ぞろぞろとみんなが綺麗に包装された品を差し出してくれる。
「わぁ、ありがとう!あけてもいい?」
「もちろん。」
ヴォックスからはオシャレなワイン。
ルカからは小さな花束。
アイクからは気になっていた小説の本。
ミスタからはいい匂いのするシャンプー。
「みんな、ありがとう。」
そのままいつものように、5人で会話を楽しむ。
その間にも色んな人からお祝いのメッセージで溢れかえっていた。
呪は幸せそうで、良かった。
闇の中で、少し寂しそうに笑うもう一つの影。
自分は彼と対の存在だから。
呪が幸せならそれでいいのです。
『おめでとうございます、呪』
精神の中で、表にいる呪に届くように祝福を伝えると、なんだか寂しさに胸が苦しくなってくるので、それを忘れてしまおうと祝は眠りにつこうとした。
深く深く眠ってしまいたい。
存在を、消してしまいたい。
とぷりと闇に潜り込もうとしたその時、ぐっと精神が引っ張られる。
「な、に・・・?」
ふと気づくと眩しいほどの明かりが自分を照らす。
「シュウ!お誕生日おめでとう!」
パン!とクラッカーが鳴らされる。
その音にビクリと身体を跳ねさせる祝。
「え・・・?」
目の前には、呪の仲間たちの姿。
何故か自分が表に入れ替わってしまったようだ。
「すみません、みなさん、少し待ってください。私、光ノです。何故か入れ替わってしまったようで。すぐ闇ノと変わりますので。」
わたわたと状況を目の前の彼らに伝える。
闇ノ、早く、変わりなさい。
精神に呼びかける。
しかし呪は、んへへ、とイタズラに笑うだけ。
何をからかっているのです・・・─
外から見たら一人で突っ立っているだけの自分に、ルカが口を開く。
「君もシュウだろ?だからお祝いしてるんだけど・・・」
迷惑だった?と眉を下げてこちらを見るガタイのいいマフィア。
なんと可愛らしい姿なんでしょう・・・じゃなくて。
彼は、私を、呼んだのでしょうか。
ぽかん、とルカを見ていると、続々と声がかかる。
「光ノ、お前のことを祝ってんだよ?」とミスタ。
「君にもプレゼントがあるんだよ。」とアイク。
「お誕生日おめでとう、祝。」
ヴォックスのその言葉に、祝の視界が揺れる。
信じられない。
自分が、祝福されているなど。
ただの、呪の内側にいるだけの存在なのに。
それでもみんなからの言葉が嬉しくて、涙が止まらない。
すると、精神から呪の声がする。
『僕の大事な祝。ずっと一緒に居てくれてありがとう。生まれてきてくれてありがとう。大好きだよ。』
なんですか、それ。
あなた自分のことは全然興味ないくせに。
同じ自分のくせに。
私のことはそうやって嬉しそうに祝うのですね。
でも、ありがとうございます。
祝は嬉しそうに微笑んだ。
みんなから祝に向けてのプレゼントを受け取り、まだ止まらぬ涙を他所に、アイクとヴォックスが何やら話している。
「祝、すまないが少し呪と変わってくれないか?」
「あ、はい・・・」
涙でぐしゃぐしゃすぎて恥ずかしかったところだ。
しばらくナカで落ち着こう。
そう思って呪と入れ替わった。
「さてシュウ。最後に君たち二人に、私とアイクからサプライズを用意してみたんだが、披露してもいいかな?」
ヴォックスはシュウに話しかける。
「えっ、サプライズ?何だろ。楽しみ!」
目をキラキラさせて喜ぶシュウ。
そもそも祝へのお祝いが出来たことに本人も喜んでいるようだった。
「君の式神を貸してくれないか?」
「ん?式神?いいけど、はい、どうぞ。」
「シュウ、そのままそれ持ってて」
式神を持ったシュウの手に向かって、ヴォックスとアイクがチカラを込める。
ブワリ、と空気が揺れる。
ピカ!と眩しい光に包まれ思わず目を閉じる。
ゆっくりと目を開けると、そこには、光ノが立っていた。
「え・・・?」
実態をもつ二人が鏡合わせのように向かい合って立つ。
何が起こっているのかわからずポカンとしている。
「少しの間だけだけど、式神に祝の魂を移動させてみたよ。」
アイクがふぅ、とため息をつきながら説明してくれる。
そんな。
精神の中では繋がっていた彼が、今目の前にいる。
そ、と震える手で祝に触れてみる。
温かい人肌を感じる。
思わず涙が溢れる。
「祝、会いたかった」
「・・・私もです」
ぎゅ、と抱きしめ合うシュウ。
シュウにとって、最高の誕生日プレゼントであった。
式神の効果が切れるまで、6人でシュウの誕生日を祝い明かした。