鈍痛「あれ、零くん首元どうしたの?」
明るい髪色の相棒が、自分の首の付け根を指さして言う。それがワイシャツの襟からはみ出ているのに気付いた零は、慌てて襟元を隠した。
「猫にでも引っ掻かれた?」
「まぁ……そんなとこかの」
仰々しいくらいに貼られたガーゼ。目を凝らすとほんのり朱が見える。
「痛そう」
顔を顰める相棒を横目に、零はどうしたものかと首を傾げた。
それが付けられたのは昨夜のことだった。情事中、抱きしめていた愛し子がガブリと首筋に喰らいついた。突き刺さる牙の鋭い痛みに、思わず顔を歪めると、その子は顔色を一瞬で青くして、すぐさま口を離した。
「ご、ごめんっ…」
「大丈夫……」
自分の血の匂いが鼻をつく。思わずえづきそうになるが、何とかこらえて、よしよしと頭を撫でた。
「ごめんなさい…」
「なに、気負うことはない。いいんじゃよ」
ぺろぺろと傷口を舐める顔がどこか寂しそうだった。
「……にしても、いつもはせぬのに、一体どうしたんじゃ」
行為を終え、シャワーを浴びて2人でベッドに横になりながら聞く。柔らかな髪を梳く度、ふんわりと揃いのシャンプーの匂いが香った。
「……さっきの?」
無意識に自分の真似をしてくれているのか、凛月が零の襟足をくるくると指先で弄ぶ。大きな赤い瞳が上目遣いをする。
「でも、失敗しちゃったし…」
「しっぱい?」
つん、と唇を尖らせる姿が愛らしい。
「兄者…いつも俺にこれ、してくれるでしょ?」
ほっそりとした指先が髪を離れ、自身の鎖骨の、紅く染まった印を、撫でる。
シャツを着たら隠れるか隠れないかの、印されたスリル。
「ああ」
再び離れた指が、今度は噛まれた零の首筋を撫でる。
ずきり、鈍く痛みが走った。
「……俺もね、兄者に付けたかったの」