香水ある昼下がり。花曇りの空は苦手な日差しを遮っていた。
「凛月、よく来てくれたの」
「ごめん、待った…?」
「いいや」
おいで、と手を伸ばされて手を繋ぐ。寮生活の中、たまにこうして2人だけの秘密のデートをする。もちろん、変装のためにメガネも帽子もつけるけど、手はやっぱり恋人繋ぎをする。
いつも特別だけど、今日は俺にとっては少し、もっと少し特別。
ほんのちょっと距離を詰めて、隣を歩いてみる。
「おや、……シャンプーでも変えたのか?」
「…ううん」
俺の変化に聡い兄者が好き。
「香水…この匂い、わかる?」
「凛月、もしかして」
実家に昔、お兄ちゃんが置いてけぼりにしたナイトテーブルの上のもの。懐かしくって、でもちょっぴり恥ずかしかったけど、
「俺が前に付けてたやつ…」
「似合って、ない?」
まだ及ばないけど、隣を歩けるくらい、成長したから。
またすこし、背伸びをしてみた。
「ううん……すごく似合っているよ」
照れくさそうな顔に思わずほっぺが緩んだ。