独白ミスタが死んだ。少し危険くらいの難易度だったはずの依頼で、腹部に銃弾を受けて死んだ。鬼のヴォックスにとってはそれくらい大したことないが、ただの人間のミスタにとってはそれは致命的だった。彼は最後に自分に電話をかけようとしたところでこと切れたらしい。彼の死に際に立ち会うこともできず、警察からの連絡でそれを知ったヴォックスはそれを現実と受け止めることが出来なかった。警察署の霊安室で、ただの死体と成り果てた彼を見た時、ヴォックスは慟哭するのを止めることが出来なかった。ミスタは死体となっても綺麗なままだった。血の気を失い青白い顔。瞼が閉じられ、美しい空色の瞳が現れることは二度とない。ヴォックスの体を突き抜ける、自分の身が張り裂けてしまいそうなほどの悲壮感と喪失感。そっと頬を撫でてやっても、彼はえへと喜びをあらわにしながら笑うことはもう無い。指先から伝わってくる冷たさが、彼の死を鮮明に伝えてくる。そっとキスをしても、手を握っても彼は戻ってくることはない。無駄とは分かっていても、心のどこかで何するんだよと彼が起きてくるんじゃないかと期待してしまうのだ。
あぁ自分はミスタを心の底から愛していたのだと気づいても、それを伝えたい相手はもうこの世のにはいない。無理やり彼の魂をこの世に引き戻すことも考えたが、繊細な彼はそんな状態では長く持たないだろう。せめて彼が撃たれたのが自分の目の前であったのなら、彼の命を守ることもできただろうに。なんて今しても仕方ない、“if”を考えてしまう。彼に出来ることと言えば、かたき討ちくらいのものであった。ミスタを殺した人間は、ヴォックスが殺した。彼と同じように、いやそれ以上の苦痛の中でその人間は死んだ。こと切れた物体は、ミスタと同じ人間とは思えないほど汚らしいものに感じられた。
彼が居なくなってから、ヴォックスは寝なくなった。元々鬼は睡眠を必要としないが、不眠気味であった愛する狐を寝かしつけるために鬼には睡眠の習慣があった。しかし、1人でベッドに寝転んでも寂しさが増すだけ。瞼を閉じてしまえば、彼と過ごした日々が次々と浮かんでは消える。そして目を開き、彼がいないことを実感しては落胆するのだ。無意識にいつもしていた腕枕の姿勢になっていたことに、寂しさが増す。ミスタを腕の中に抱きしめて、彼という存在を感じているあの瞬間こそがヴォックスにとって“幸福”そのものだったのだ。
“ミスタの死”が夢であったならよかったのに。そう思いながら結局鬼は、2人で使っていたベッドに横たわっていた。