未完成「ごめん」
伝えたい相手がいない部屋に向かって、1人呟く。しんと静まった空間に俺の言葉だけが響いて、それが妙に哀しさを呼び寄せた。
“俺がこう思う資格なんて無いのにな”
センチメンタルになっている自分に乾いた笑いが出る。このままこの部屋にいたらせっかくついた決心も揺らぎそうだと思い、振り切るように荷物を持って部屋を出た。
「俺のことは忘れて、生きて」
それが俺のたった1つの望みだから。
ヴォックスから離れようと思ったのは、自分の中に到底抱いてはいけない所有欲と独占欲があることに気づいたからだ。物や人に対しての欲求は弱い方だと思っていたのに。
「ミスタ」
俺のことを呼ぶヴォックスの声が好きだ。
「好きだ」
愛を伝えてくる時の、蕩けるような黄金の瞳が好きだ。
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