秘め事ズキズキと痛む頭によって目を覚ました。目覚めとしては最悪で、二日酔い独特の気持ち悪さを感じる。オエっと吐きそうになりながらのろのろと体を起こす。見慣れない天井だったのでここはどこだろうと周りを見れば、そこは見知らぬホテルの一室であった。酔って暑くなって脱いだのか洋服が床に脱ぎ散らかしてある。パンツなんて裏返しになって丸まっている。酔ってホテルに入ったかぁと思って、とりあえず水でも飲もうかと思った時横からお寝息が聞こえてくるのに気が付いた。女でも買ってしまっただろうかと恐る恐る横を見た瞬間、時が止まった。なぜなら裸の自分の横で裸のヴォックスがスースーと寝息を立てていたのだ。
「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!????????」
とんでもなく大きな声が出た。その自分の声で頭痛が更に酷くなったが、今はそれどころではない。とりあえずユサユサとヴォックスを揺すり起こす。
「おい、ヴォックス、起きろって!」
「んん、うるさいぞミスタ…」
眠たげに目をこすりながら、2度寝につこうとするヴォックス。それは困るのだとぺちぺちと頬を叩いた。
「ちょっと!起きてってば!」
めいっぱい体を揺すれば流石に起きた。ベッドから体を起こしたヴォックスは、自分の状態と俺の状態、そして部屋の散乱具合を確認すると、とんでもなく真剣な顔でミスタに詰め寄った。
「腰は大丈夫かい?残念ながら記憶はないんだが、ミスタは覚えているかい?」
「なんで俺がbottomって決め付けてるわけ?俺が抱いたかもしれないだろ!腰は痛くないよ!」
「お前が俺を抱けるわけがないだろう。そうか、腰は痛くないか…」
ヴォックスが考え込んだせいで、シーンとした静寂が室内を満たす。一体全体昨日の夜に何があったというのだ。
昨日はヴォックスと楽しくバーで飲んでいたはずだ。たわいもない日常の話から、配信での困ったことについてなど本当に色んなことを話したのを覚えている。そこまではいいんだ。健全だし、裸になるような事態になるなんて全く想像が出来ないから。問題はなぜバーからホテルに移動したのか、そして裸なのかということである。腰が痛いとかそういうことがあれば、逆に揺るぎない事実なので受け入れるしかない。しかし腰は痛くはないが両者揃って裸である場合、どうしたらいいのだろう。気まずい静寂だけがこの小さいホテルの一室に存在していた。
「あ~、ミスタ。昨日と今日の事は忘れよう。何もなかった。いいね?」
美人の真顔は怖いというのは本当らしい。まじまじとこちらを見つめるヴォックスの圧迫感に、俺は頷くしかなかった。この謎はもう墓まで持っていこう。そう決めた2人は黙って服を着て、ホテルを後にした。