○○になる「それで?最近の調子はどうなの」
心配そうにこちらを見つめるのは、アイク。数日前にヴォックスとボンドになったのを、彼はまだ知らない。
「実は、ちょっと前にヴォックスとボンドになったんだ…」
「そうなの!?よかったね」
ホッとしたように笑って祝福してくれるアイクに、良い仲間を持ったなあと実感する。それと同時に気恥ずかしくもあって、顔が真っ赤になる。
「可愛いなぁ。そっか、だから毛並みが良くなってるんだね」
俺のスピリットアニマルは艶々になっており、金色の宝石の付いた黒色の首輪をつけていた。頭を撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細める。ボンドになって、今まで感じたことのないような幸福感をいつも感じる。
「ヴォックスのガイディングはどうなの?」
「優しいよ。俺に合わせてくれて、凄い安心する」
そうヴォックスは優しい。優しすぎるほどに。何もかも俺に合わせてくれて、ちゃんとしたガイディングを受けられるようになってもまだ恐怖心の残る俺を守ってくれる。だけど、それはどこか物足りなさを感じてしまうんだ。
「ボンドになったってことは、付き合い始めたんでしょ?よかったじゃない」
そう。それなのだ。ボンドになっても、俺とヴォックスの関係が変わらなかった。一般的にボンドになるのは恋愛的な意味でもパートナーである。しかし、自分たちはどうなのだろう。好きと言い合ったわけでもなく、キスやその先の行為をするわけでもない。
「もしかしてヴォックス、俺のことが心配だからボンドになってくれたのかも‥‥」
「ちょっと待ってどういうこと!」
とたんに表情を険しくしらアイク。誤魔化そうと思ったけれど、それはとても難しいことだった…
“いい?ちゃんとヴォックスと話すんだよ”
俺の話を聞いて頭を抱えたアイクは、ヴォックスと話をするように命じてきた。一体全体何を話せばいいんだかと思いつつ、土産のケーキを手に家に帰る。ボンドになったのをきっかけにヴォックスとは同棲を始めていた。
「ただいま」
「お帰り、ミスタ。アイクは元気だったかい?」
夕飯を作ってくれていたらしく、エプロン姿のヴォックスが出迎えてくれる。ケーキを渡せば、デザートにいただこうじゃないかと喜んでくれた。その姿に心がふわっと浮上する。コート置いてくるねと言えば、もうすぐ出来るからすぐにおいでと頭を撫でられる。今でも十分幸せなのに、これ以上を望むのは贅沢なんだろう。
「それで?アイクと何を話したんだい?」
今日もヴォックスの食事は美味しい。頬が落ちてしまいそうだなとか思っていたら、ヴォックスの方から急に切り出されて俺はむせてしまった。ゴホゴホとせき込んでいれば、水の入ったグラスを差し出される。それを一息に飲み干す。冷たい水が喉に染み渡っていくのを感じる。
「急に何?」
「アイクの方からミスタとちゃんと話し合ってねとメッセージが来てな。一体何を話したのか、知りたくなってもおかしくないだろ?」
それは確かにそうだけど。でもこれで恋人にはなれないなんて言われたらどうしよう?そしたら俺間違いなくゾーンアウトしてしまう。
「言いたくないなら別に無理に言わなくてもいいんだ。でもな、俺はお前の事を知りたいんだよ」
そっと手を握られる。ヴォックスのあたたかい手は、それだけで俺の心を包んでくれる。
“大丈夫。悪いようにはならないはずだよ”
アイクの言葉を思い出す。ほんのちょびっと勇気を出してみてもいいかな。大丈夫かな。怖いけど、でもここで黙ってもきっと俺の望んでることは実現しない。
「あのさ、俺たちの関係って何?」
「ボンドだろう?」
「そうだけど、そうじゃなくて」
分かっていなそうな顔をするヴォックス。ああもう直球で言うしかないのか。ええい、男は度胸!ミスタ・リアス行くぞ!!!
「俺はお前のことが好きなんだけど!お前はどうなの!?俺たちってボンドだけど、恋人なの?」
ハーハーと叫んだせいで荒くなった息。ヴォックスの方をキッと見れば、ぽかんとした顔をしていた。
「恋人じゃなかったのか?」
「は?まってどういうこと」
慌てて聞き出せば、ヴォックスはボンドになった時に恋人にもなったつもりだったらしい。だけど俺がそんなかんじゃなかったから、手を出すに出せなかったらしい。
「言葉が足りなかったな。すまない」
申し訳なさそうな顔をするヴォックス。俺はぽかんと開いた口が塞がらない状態だった。
恋人だと思ってたの?じゃあ、俺が1人でこんがらがって不安になってだけ?それってめっちゃ恥ずかしくない?
「ああああああああああ!!もうこの話は、おしまい!!!俺寝る!おやすみ!」
もうこの場から一刻も早く立ち去りたくて、慌てて席を立とうとするけどヴォックスが手を握って離さない。
「ああ、照れてるところも可愛いな。しかし逃げないでくれ。せっかくお前の気持ちを聞けたというのに」
手をムニムニと握られて、顔をのぞきこまれてその黄金の瞳に見つめられればたちまち動けなくなってしまう。
「みないでよぉ」
「嫌だ。全部見せてくれ」
「うぅぅうううう~~~~~~」
唸り声を上げれば、ケタケタと笑ったヴォックスがこちらに近づいてハグしてくれる。
「言葉にしなきゃ通じないからな。ちゃんと聞いてくれ」
ヴォックスのセクシーな唇が耳元に近づいてくる。言われることは分かってるけど、バクバクと心臓が鳴りやまない。
「好きだ、ミスタ」
大好きなヴォックスの匂いに包まれて、好きという一言で天にも昇る気持ちになる。
「俺も」
短い同意に、ヴォックスは幸せそうな顔をする。無駄にすれ違ってしまったけれど、これからはきっと大丈夫。そう確信した。