ミスタ・リアスはとても困っていた。人生で1番と言っていいほどに困っていた。何故かというと、目が覚めたらなぜか体が縮んでしまっていたのだ。可愛らしいふくふくとした紅葉のような手に、驚いて叫んでしまった。慌ててこれまた短くなってしまった足を必死に動かして鏡の前に立てば、恐らく4歳くらいの男の子が立っていた。
「なんでなんだ‥‥」
訳が分からな過ぎて頭を抱えていたら、ドタドタと複数の足音が聞こえてきた。
「ミスタ!?さっきの叫び声はなに?」
慌てた様子で部屋に飛び込んできたアイクは、俺を見てピタリと止まってしまった。入口で止まったせいで後ろからきていた2人が入れず、アイクの肩口から中の様子を見ようとする。そして2人もアイクと同じように、動きが止まってしまった。
「あ、あいく?しゅう?るか?う“ぉっくす?」
回らない口を必死に動かして名前を呼べば、4人はハッとしたように動き始めた。
「ミスタ?ミスタだよね?なんで小さく?」
「呪いの痕跡は見当たらないんだけど‥‥」
「特に怪しい力も感じないな」
ペタペタと心配そうに、体のあちこちを触って無事を確認される。体小さくなってしまったこと以外は、いつもと何も変わらないのだ。
「おれはだいじょうぶだよ。なかみはおとなのまま」
そう言っても心配そうな表情はぬぐえなかった。
大人の時のパジャマは今の俺には大きすぎて、ずるっと肩から滑り落ちてしまう。必死に元に戻そうとしたら、ルカが俺の事を抱き上げてきた。ぶかぶかのズボンは地面に落ち、シャツだけがでかいワンピースのようになっている。ルカがずれを直してくれて、知っている体温と匂いに包まれればドキドキした気持ちが落ち着いていく。
「とりあえず服を買わないとだね!どうやってミスタを元に戻すのかも分からないし」
ルカの言葉に、3人がそうだねとその場でスマホをいじり始める。
「こんなのはどうだ?」
そう言って見せてきたのは、可愛らしいオレンジ色のワンピースだった。
「おんなのこのやつじゃん!」
何てものを着させようとしてるんだこの悪魔は。うげぇと顔をしかめれば、ダメかとシュンとしてしまう。それはそれでなんだか悪いことをしたようで申し訳なくなる。謝ろうと口を開こうとしたら、アイクが目でそれを制してきた。
「今のはヴォックスが悪いからね。これとかどう?」
そう言って見せてきたのは、いいとこのお坊ちゃんのようなジャケットに半ズボンスタイルの服だった。ヴォックスのより100倍マシだが、こんないいもの俺に似合うだろうか?
「それもいいけど、これは?」
シュウが出してきたのは、着物のようなものだった。聞けば甚平というものらしい。動きやすそうでいいけど、これも俺に似合うかな?
「これは?」
ルカがいつの間にか調べていたらしい洋服は、大きめのパーカーにズボンという、普段の俺の格好似たものだった。
「これがいい!」
「良かった。もう部下に頼んであるんだ」
俺の言葉ににっこりと笑うルカに、いい案だと思ったんだけどなぁと肩を落とす3人。元に戻れなかったら、シュウとアイクのやつは着てもいいよって言えば約束だよと頭を撫でられた。
「うわ~ミスタ可愛いよ~」
ルカの部下の人が持ってきてくれた服は、多分そうとう良いやつで、大人の時の俺が着ているのよりもしかしたら高いんじゃないかってくらい触り心地が良かった。パシャパシャと写真を撮るシュウとアイクに、次はこれはどうだと真剣な顔で相談するルカとヴォックス。起きた時はフアンだったはずなのに、気づけばこの訳が分からない現状ですら楽しんでしまっている。でも俺の背が縮んでしまったせいで、普段より皆の顔が見れない。それがなんだかとっても寂しくて、寂しいことに気づいてしまったら涙がぽろぽろと落ちてきた。子供の体は涙腺が緩くなっているみたいだ。
「どうしたの!?」
シュウが慌てて抱きしめてくれれば、近くなった顔にホッとする。ぎゅーっとシュウの首元に抱きついて、皆が遠くて寂しいと普段だったら絶対口にしないような本音をこぼす。
「大丈夫だよ。僕たち皆、ミスタのそばにいるから」
そう言ってアイクが頭を撫でてくれて、ルカがチュッと頬にキスをくれる。ヴォックスもシュウごと俺を抱きしめてくれる。
「えへへへへ」
皆に愛されているようで、嬉しくて頬が緩んでしまう。お返しにチュッと俺も頬にキスを送れば、顔をでろでろに溶かした皆が崩れ落ちた。
((((可愛すぎる))))
ミスタの体を元に戻す方法は今だ分からない。小さいミスタと4人の共同生活は、まだ始まったばかりである。