君だから放課後、ミスタに一緒に遊びに行かないかと彼女の教室に行く。そしてミスタを一目見た時にああ“アレ”なんだなって分かった。姉と妹という“女性”が身近にいるからか、女性が定期的に苦しめられるそれは他の男性よりも身近なものだった。腹痛に苦しむ姉には湯たんぽと白湯を持っていき、イライラが酷くなる妹に対しては適当に相槌を打ちつつ話に付き合う。慣れていなかったころは2人にどうやって接すればいいのか分からなくてキレられたりもした。でもそのおかげで、今こうやって大事な人を目の前にしてビビらないでいられる。
「ミスタ、大丈夫?」
大丈夫じゃないのは分かっているけれど、ひとまず声をかける。色白の肌は血の気を失って真っ青になっている。ぎゅうとお腹の辺りを抑えてうずくまっているミスタは、僕の声にゆっくりと首を横に振った。姉妹たちよりも恐らく症状が重いのだろう。ここまで苦しんでいるのを見るのは初めてだった。
「ごめんね。あとで文句は聞くから」
とりあえず保健室に行こうと、ミスタを横抱きにする。僕よりも身長が20㎝ほど小さいミスタは羽のように軽かった。
「シュウ、私歩ける…」
「僕が運んだ方が早いから。それに立てないくらいお腹痛いんでしょ。無理しないで」
そう言えば反抗するのは諦めたのか、僕の首元に回った手の力が強くなった。
あいにく保健室の先生がいなかったので、とりあえずミスタをベッドに寝かせて勝手に戸棚を物色する。レンジでチンするタイプの湯たんぽが見つかったのでそれを温める。
「ミスタ、薬は飲んだの?」
「うん、でもあんまり効かないんだ…」
痛みに呻きながら帰ってきた返事に、眉をしかめる。薬を飲んでいるのにあそこまで苦しむなんて。経験することは出来ないから、僕もきちんと理解しているわけじゃない。でも好きな人というのを抜きにしても、目の前で苦しんでいる大事な友人に何かできないのかと悔しさを覚えた。
「はい、これ湯たんぽだよ」
湯たんぽを差し出せば、いそいそと腹部に当てるミスタ。腹部が温まったことで痛みが和らいだのか、眉間のしわはすこしほころんだ。
「他に僕に出来ることはある?」
「大丈夫。ごめんねシュウ」
「謝らないで。大事な友達が苦しんでるのに放ってはおけないよ」
「シュウは優しいね」
「ミスタだからだよ」
「え?」
確かに目の前で苦しんでいる人がいたら、僕は手を差し伸べるだろう。でも保健室に運ぶのに横抱きしないし、何か出来ることはないかって焦ることもないだろう。
「私だから?」
「うん。ミスタだから」
「そうかぁ。私だからかぁ」
何故だか急にえへへと笑い始めたミスタは、布団に顔を隠してしまった。
「ミスタ?どうかしたの?」
「なんでもな~い!それよりシュウは授業終わってるんだから帰りなよ」
「こんな様子のミスタを返すのは心配だから、一緒に帰るよ。だから少し寝な。顔まだ真っ青だよ」
僕を帰らそうとするミスタを押しとどめる。気まずそうな顔をするので、持ってきていた鞄から本を取り出して居座る姿勢を見せればミスタは諦めたように目を閉じた。数分もすればスースーと穏やかな寝息が聞こえてくる。本から目を上げて眠るミスタを見れば、顔色が酷い時よりはましになっていた。早くミスタが元気になりますようにと、誰にも知られないように、ひっそりと彼女の額にキスをした。