Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    もぐり

    @Guriguri121m

    不変の祈りと可変の希望

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💕 🍼 👍 💌
    POIPOI 15

    もぐり

    ☆quiet follow

    注! 探偵パロディの癖に肝心の解決パートが書けなかったので(中略)となっています!
    そして西師弟の小説ですが、解決するのは二人ではありません

    ##西師弟
    ##現パロ

    Detective ぴろろん、とクロエのスマホが着信を知らせた。
    「はい。もしもしラスティカ? 今から? もちろん出られるけど……」
     電話はクロエの友人であるラスティカからだった。
    「……ああ! 待って。待ち合わせじゃなくて俺が行くから。ラスティカは家にいて!」
     大慌てでお出かけ用のバッグを持って、それからやっぱりラスティカの横にいてもおかしくないおしゃれな服に着替えたクロエは家を飛び出した。


    「依頼が来たんだ」
     全速力でラスティカの家──といっても短距離走レベルのご近所さんなのだが──に駆け込んだクロエは、案の定寝癖まみれのラスティカの髪を梳かしていた。
     もしゃもしゃの頭に丁寧に櫛を入れながら、依頼の内容を聞いていく。
    「5年前に一度だけ行ったお店を探してほしいんだって。フライドチキンがとっても美味しかったことと、内装が素朴で店主が寡黙で、とても居心地のいい店だったことしか覚えていないらしくて」
    「お店の捜索って……手がかりもないのに?」
    「うん。駅周辺のお店を紹介する雑誌にも、グルメサイトにも引っかかる記述はなし。そのあたりで長く営業しているお店の人にも聞いたけど、『そんなお店があった気がする』ってことしか覚えてないらしくて」
    「ラスティカ、そんなにしっかり調べたんだ……」
     話も仕事も脱線してばかりのラスティカが、様々な手段で調べるなんて。依頼人はどんな人なのだろうかとクロエは思いを巡らせた。
     しかし、ラスティカは首を振る。
    「ここまで調べたのは、全部依頼人」
     あっさりとした回答に、クロエは思いきりずっこけた。
     果たして、ぽんこつ探偵とみならい助手にできることはあるのだろうか。
     髪をさらさらに整え終わったら、こちらもおかしなことになっていた服を着せ直す。
    「クロエはあの辺りに詳しいよね。心当たりはない?」
    「あの辺りって、俺の行きつけの手芸店から結構離れてるよ。5年前はそれどころじゃなかったし」
    「そうか……これだけ聞き込みをしても駄目なら、やっぱり現場に行くしかないな」
     謎の盛り上がりを見せるラスティカを見て、現場に行きたいだけなのだと気づく。
     靴紐もきゅっと結び直すと、クロエの目の前にいるのは、知的で上品な貴公子だ。
     その貴公子は優しく、「ありがとう、クロエ」と言ったあとに破顔する。
    「クロエとお出かけだ」
     ラスティカの楽しそうな顔に、クロエは弱い。


     最初に話を聞いたとき、クロエはラスティカに迷子防止要員として呼ばれたのだと思っていた。
     ラスティカは興味のあるものに惹かれてふらふらと道を外れ、そのままフェードアウトしてしまうことが多い。
     しかし、実際は違った。もちろん迷子防止にも全力を出しているが、ラスティカの目的はクロエの若くて健康な男子の胃袋であった。
     依頼人の情報にあった駅に着いてすぐ、屋台に出ていた焼き鳥を食べ、ドーナツを食べ、クレープを半分こしてタピオカを飲みながらたい焼きを食べたあたりでクロエの胃袋に限界が来た。
     当然、フライドチキンの情報は集まっていない。
    「たくさん歩いて疲れてしまったね。そこの喫茶店で休憩しようか」
     マイペースなラスティカが指さしたところには、『喫茶店 ヒウカーオ』という看板が出ていた。扉を開けると、がらんがらんと想像していたよりも低いベルの音。
     眼鏡をかけ、がっしりした体型の店員が、席に案内してメニューを渡してくれる。
    「レイタ山脈の金の山羊パフェだって。アイスで山を、コーンとウエハースで山羊の角をイメージしているらしいよ。美味しそうだね」
    「美味しそうだけど。俺、お腹いっぱいだから食べられないな」
     クロエもラスティカも、焼き鳥以下略色々と食べ歩いていたので満腹だ。
    「そう、ではストレートティーを一つと、クロエは?」
    「俺も紅茶の気分」
    「砂糖とミルクは?」
    「いらないかな。そのままで」
    「ご注文、承りました」
     店員がテーブルを離れたので、クロエは店内を見回した。落ち着いた音楽の流れる静かな空間。コーヒーのちょっと大人な香り。お客さんはクロエとラスティカを除いて三人で、各々が自分の世界に浸っていた。
    「家の近くのカフェとは違うね」
    「駅前のチェーンのカフェのこと? そうだね、あっちはいつも賑やかだもんね」
    「うん、色々盛るのも楽しいけど、こういうゆったりしたお店も素敵だよね」
    「僕もそう思うよ」
     その時、入口のベルが鳴った。
     自分が入るときに聞いた音と、店内で聞く音には少し、印象の違いがあった。ラスティカとクロエは顔を見合わせて、視線だけで「同じことを考えたね」とわかり合う。
    「レノさん、いつものお願いします!」
     常連なのだろう。制服姿の少年が、迷いなくそう言った。
     レノさんと呼ばれた店員も、「わかった」と短く答える。その様子から、慣れたやり取りなのだと伝わってきた。
    「いいなぁ、ああいうの憧れる」
    「『いつもの』で通じるみたいな?」
    「うん。いかにも特別なお客さんと特別なお店って感じじゃない?」
    「なるほどね。でも、僕とクロエも特別な友人だよ。『いつもの』で通じることも多いし」
    「ちょっと違くない……? 俺たちは何も言わなくても通じることだってあるし」
    「ふふ、そうだったね。さっきもそうだった」
    「ベルの音、いいよね」
     そんな話をしているうちに、店員──レノックスが紅茶を持ってきてくれた。
     カウンターの中に戻ろうとするレノックスを止めたのは、常連の少年の言葉。少年は、不思議そうな顔でなにもない壁を見つめている。
    「あれ? レノさん、模様替えですか?」
    「……そんな予定はないんだが」
    「え? でも、兄様の絵がなくなってる……」
    「……なんだって?」
     レノックスが目を見開く。喫茶店の空気がぴりっと張り詰めた。
    「まさか、兄様の絵が!」
     少年が見つめる壁には、なにもない。
     だが、微かに『何か』があったことを示す日焼けの跡が残っていた。
     二人のやり取りを見て、紅茶を半分ほど飲んだラスティカが立ち上がった。
    「ちょっと、ラスティカ……」
    「放っておけないよ。君だってそうだろう? クロエ」
    「ま、まあ……」
     緊迫した状況で立ち上がった二人を見て、少年が期待した目を向ける。
    「お二人は探偵なんですか? お願いします! 兄様の絵を見つけてください!」
    「違うよ! 俺はただのラスティカの助手だし、この人は……」
     ミチルの期待と勘違いを訂正しようとしたクロエだったが、ラスティカの指がクロエの唇にそっと触れた。
     優しく色気のあるその仕草に、クロエは言葉を失ってしまう。
     クロエがぽぅっと見惚れている間に、ラスティカはミチルとレノックスの前に出る。
    「詳しいお話を聞かせていただけますか? そうですね、最後に絵を確認したときからいらしたお客様についてなど」
     そのきりっとした顔や堂々とした声からは、絶対的な自信が感じられた。突然のことに混乱していたミチルとレノックスも、ラスティカを信頼する空気になっていた。
     ラスティカの自信は、虚勢ではない。
     なお、当然ながらラスティカは解決するとは言っていない。
    (そうだ……ラスティカは、面白いことやトラブルが大好きなんだよ……)
     クロエはポケットからノートとペンを取り出した。
     せめて、一言も聞き漏らさないように。忘れないように。
     クロエも面白いことが大好きだからでもあるし──ほんの少し、あまりに堂々としたラスティカの振る舞いに、ラスティカなら事件を解決できるのではないかと思ってしまったのだ。
     なお、繰り返しになるが、ラスティカは解決するとは言っていない。


    「えっと……僕はミチルって言います。僕の兄は漫画家の、ルチルなんです」
     とりあえず、ラスティカが求めたのは関係者の情報だった。
     漫画家のルチルは、高校生でデビューした。豪快なストーリーと優しいキャラクターの作風で人気を獲得している。ラスティカは読んだことがなかったが、クロエは愛読していた。
    「じゃあ君があの『ムゥムゥくん』なんだ!」
    「あ、はい一応……」
     SNSに上げられたエッセイや、漫画の単行本巻末の実録に出てくるルチルの弟。つぶらな瞳にもっちりボディ。デビュー作に出てきたマスコットキャラの姿を借りたその子は、ファンからムゥムゥくんと呼ばれて親しまれていた。
     ルチルと仲がとびきり良くて、しっかり者で努力家なムゥムゥくん。友達思いで優しい、ルチルが愛していることがよくわかる弟。
     本物のムゥムゥくん──ミチルは、当然人間である。しかし、かわいらしいマスコットキャラが頭をよぎってしまうくらい、実録そのままの子であった。
    「ルチル先生の絵ってこと?」
    「作風が違いすぎて中々信じてもらえないんですが、兄様は『フローレス』って名前で絵を描いているんです。前衛的なので、漫画ほど万人受けはしてないんですが……」
     ルチル先生。本名ルチル・フローレス。そのままにも関わらず、同一人物だと気づいている人はほぼいない。
    「ルチルは俺の古い知り合いなんだ。その縁で、この喫茶店を開いたときに雰囲気に合うようにと絵を贈ってくれた」
     レノックスが補足する。
    「そうなんですね。つまり、ルチル先生の絵はこの喫茶店と共にあり続けたもの。……それが奪われるなんて、半身を失うような辛さでしょう。お察し致します」
    「いや……そこまでではないんだが。薄情なのだろうか。もちろん、取り返したいと思っているが」
     悩み始めたレノックスに、クロエはペンを走らせる手を止めた。
    「気にしないで! ラスティカ、大切な人とか物とかなくしちゃうのに共感性が高すぎて……」
    「何かあったんですか」
    「うん、色々と……。まあ、今はそれよりルチル先生の絵だよ! 絶対に取り返さないと!」
    「誤魔化したな……」
     一応クロエも大体の事情を知ってはいるのだが、話すと長くなるし脱線するので割愛する。


    (中略 店の隅で話を聞いていたネロが事件を解決するし師弟が探していた店の店主がネロだったと判明する。絵は無事です)

    「色々あって、移転したんだよ。……今は〇〇って駅の治安悪いところで、アヒージョの専門店をやってる」
    「専門店? フライドチキンは?」
    「あるよ。メニューの後ろの方だけどな。レシピも変えていない」
     クロエとラスティカは顔を見合わせて、そして二人で手を叩いた。
    「やった!」
    「ミッション、コンプリートだ!」
    「依頼人の人にも喜んで貰えるね!」
    「ああ、さっそく連絡を……」
     言いながらラスティカがコートのポケットから取り出したのは、スマホではなく紙袋に入ったままのたい焼きであった。食べ歩きの途中で食べきれなかったものだ。
    「……スマホを忘れてしまったみたいだ……」
    「あんた、何やってんの!? ハンカチとティッシュとスマホと財布は忘れるなって何度も言ってるじゃん!」
     クロエが出かける前に確認したのは髪型と服と靴だけで、荷物はノーチェックだった。
     失敗したと思いつつ、クロエは自分のスマホを差し出す。
    「俺の使う? 電話番号わかるならだけど」
    「名刺があるから電話番号はわかるよ。でも、今からネロのお店に行って電話を借りれば、僕らもお店を知れるしあの人は電話番号がわかるし一番いいんじゃないかな」
    「勝手に決めないでほしいというか、一応穴場的な店を目指しているというか……」
     ネロは深々とため息をついた。
    「あんたら、こんな仕事の仕方で食ってけるのか?」
     ため息を吐いたあとに出てきたのが真っ当な心配だった時点で、ネロは何だかんだ面倒見が良い。善人であるかはまた別の問題である。
    「ラスティカの探偵は仕事じゃないよ。そもそも解決できることなんてまずないし……」
     何故か事件を引っかき回しているうちに、なにも解決していないのに丸く収まっていることはあるのだが。
    「僕はチェンバロ奏者なんです。この依頼も、パーティーにご招待くださった方からで」
    「チェンバロ奏者!? すごいな……ってか、パーティーに招待する側の人って……」
    「ウェストカンパニーの名誉会長です」
    「えっ」
     初耳だったクロエは、思わず驚いた声を出してしまう。そして、一日食べ歩きしていた果てに偶然が重なって見つかったものの、見つからなかったらとんでもない人を怒らせていた気がする。
    「うわ……」
     一方のネロは、本気で顔を青ざめさせていた。
    「5年前、会社が揺れていたとき、たまたま入ったあなたのお店で食べたフライドチキンに勇気を貰ったのだと教えていただきました」
    「やめろやめろやめろ……そんないいもんじゃないからさ……」
    「引退してもう一度伺おうとしたのにお店は見つからず、忙しさで当時の記憶は曖昧。もしや異世界に迷い込んだのか、天使の導きか、とまで仰っていました」
    「いやもう、本当に勘弁して……」
     ラスティカは誇張もなにもなく、ただ言われた通りのことを伝えているのだが、その言葉の向かう先であるネロは悶絶している。
    「引っ越そうかな……」
     事件解決の功労者であるはずのネロは、がっくりと項垂れた。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🍌☕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works