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    TTK_gentei

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    TTK_gentei

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    演目「居眠り」「───ほんと、めちゃくちゃカッコよかったね!」
    「うん、こう、美人っていうか。普段近寄り難いと思ってたけど…ちょっとラッキーだったかも」
    「ねー、部活の子にも…あっ」

    こちらを見てしまったという顔をしたあと、そそくさと話をやめて隣を通って行った女生徒たちを見送る。何の話だったのだろうか、邪魔でもしてしまったか?その意図が全くわからず首を捻ってみるが、まぁ多分勘違いだろう、と思い直す。
    今日は珍しく放課後がフリーの日だったのだが、こういう時に限って委員会があるもので。今ちょうどそれが終わって教室に帰ろうと移動していた所だった。授業が終わってしばらく経っているから、今学校にいるのは司のような委員会で居残りになっていたものか、部活がある生徒くらいのものだろう。その他はほぼ帰宅していると言っていい。
    …今日は委員会があると休みではあるが司もあらかじめワンダーランズ×ショウタイムの仲間たちには伝えていたので、おそらく待っている人間はいないはずだ。だが、先程の女生徒たちの様子を見てから感じているなんとも言い表せない予感が教室へ戻る足を急がせる。

    「こんな予感など、外れて欲しかったんだがな」

    ようやく目的地の2-Aにたどり着いた時、窓ガラスから透けて見えるもうほかに誰もいなくなった教室の中で、自分の席に見覚えのある紫色が伏せっているのが見えた。

    直ぐに入ることはせず、ガラス越しに様子を伺ってみる。珍しくしっかり寝入っている様子のその紫───類だが、片方の腕は枕に、そしてもう片方はぶらりと投げ出されてしまっているため、遮るものも何も無くその顔はちょうど廊下から見ることができる形になっていた。無防備に伏せられたまつ毛は驚くほど長い。黙っていれば本当に綺麗な顔をしているな、と改めて思った。黙っていなくても普段から思っていることは秘密だが。

    はぁ、ため息を吐いて、ただこのまま見つめている訳にも行かないと教室へと足を踏み入れる。
     先程の女生徒たちは、おそらくこの状態の類を見て騒いでいたのだろう。確かに類がこうして気を抜いて眠っているのは珍しい。しかしそれが本人のクラスではなく司のクラスでついでに言うと司の席というのは…まあ理由も想像はつくが、予想はついていなかった。

    「類」

    今度は教室の中から、ガラスを背にして立ち類へと声をかける。だが相当深く寝入っているようで、この程度の呼びかけでは起きそうにない。

    この席にいるというとは、多分司のことを待っていてくれたのだろう。それで途中で居眠りをしてしまったというところだろうか。それは嬉しいが、もやもやとした気持ちが胸の奥の方で渦巻いている。司でさえもまだそんなに見た事のない姿が、こんな風に誰でもみれるような形で公開されていたことがどうにも気に入らなかった。いや、本人にはそんなつもりが毛頭ないのはわかっているが、でも先程の女生徒たちだって類を見てあんなに騒いでいたのだろう。

    すーすーと、静かな教室に寝息だけが響く。
    人の気も知らず、と少しだけ文句を言いたい気分だ。いや、類は何も悪くない。でも、……自分の恋人が他の人達にモテているのは、ちょっと誇らしくもあり、大いに面白くなくもあるのだ。だから、机の下に投げ出されていた腕を持ち上げて、眠っている類の顔が見えないように机の上へ置いた。ガラス戸からみた正面には司がいるのでこれで表情は少なくとも外からは見えなくなったはずである。

    ふと、先程司が掴みあげた箇所でもある腕を見た。少し暑くなってきたからだろう、肘下までシャツがまくり挙げられているので腕はむき出しになっている。それを認識すると同時に、少し悪いアイデアが思い浮かんだ。3秒ほど実行には思考を巡らせたが、こんな所で無防備に寝ているのが悪いと実行の決裁はあっさり降りる。だいたいこんなところで寝ているのが悪い。
    そうと決まればと自分の机横にかけているカバンからペンケースを取りだし、更にその中から黒のペンをピックアップした。筆先をチェックしてみたが問題なさそうだ。油性だった気もするが……まぁこの位置なら問題ないだろう。
    まくり上げられたシャツを、バレないようにこっそり少し上に引き上げる。さらに本人には気付かれにくい箇所にしようと腕の側面をチョイスし、筆を滑らせた。あっという間に残されたのは、司のフルネーム。
    さすがに起きやしないかとヒヤヒヤしたが、意外とあっさり書き終えることが出来た。類の白い腕に、司の名前がしっかり刻まれている。これは存外に悪い気分ではなかった。むしろ先程のモヤモヤも消えていいかんじである。少し触れてみたところもう乾いたらしく滲みや写りもなかったので、先程上まで引きあげたシャツを元に戻した。そしてこっそりほくそ笑んだ。
    明日は体育もなかったはずだ、そして明後日は休み。であれば他の生徒がこのサインに気付くはずはないし、多分類だって気付く可能性は低いだろう。今の気温はまだまだ長袖のシーズンだから、誰かに見られることもない。そんな小さな自己主張だったが、今はそれで満足だった。───少なくとも、こうして名前を書いているのに奪おうとする奴には全力で抵抗する言い訳ができたので。

    「類、類。帰るぞ、起きろ」

    今度は呼びかけだけではなく、肩を掴んで揺すってみる。さすがにそこまでしたので、ずっと無反応だった類もようやくゆっくりと瞼を開いた。まだ焦点の定まらない蜂蜜色をのぞき込む。

    「起きたか?」

    にっこり、できるだけ自然な笑顔の演技をする。本当は先程の悪戯ににやにやしたいところであるが、類が気付かないならその方がいい。こんなちょっとした嫉妬心と独占欲は、まだ隠して仕舞っておきたいものだったもので。
    バレたらバレたでどんなことを言ってやろうか、その時の反応も少し気になるが、まぁそれはお楽しみにしておこう。すっかり気分が晴れたので、ゆるゆると覚醒していく類を見守る間、演技の笑みは本当の笑みへとスライドしていったのだった。

    ***

    「─はっ!」

    鳴り響いた無機質なベルに一気に覚醒する。
    急いでそれを止めてきょろきょろと辺りを見回すと、そこは自室ではなく……外の、あぁ、屋上のようだった。ぽかぽかとあたたかい太陽の光で体全体があつい。どうやら居眠りをしてしまっていたらしい。確か昼休みに類とランチを取っていたはずだから、そのまま眠り込んでしまったのか。よく見ると急ぎで止めたアラームはスマホから流れてきたものではなく、見覚えのある可愛らしいデザインのロボットだ。類の作品だろう。
    身動ぎをすると、ぱさりとグレーのカーディガンが落ちる。ああ、これも類のものだ。多分綺麗に寝入り過ぎたから、できる限り寝かせてくれたのだろう。ふたりでいた所を寝こけてしまったのに申し訳ない、あとで礼と謝罪に行かなくては。
    しかしアラームがなったということはもしや授業前か。ポケットからスマホを取り出すと、午後の授業が始まる五分前の数字がロック画面に表示されていた。

    「んなっ、ヤバい……!」

    気を使ってくれたのだろうけど流石にギリギリすぎる。遅刻する訳にはいかないので、急いでもうまとめられていた弁当などの荷物を手に持ち(多分類がやっておいてくれたのだろう)、カーディガンと目覚ましロボットを持って屋上を飛び出した。幸いこのままなら間に合いそうだ、教室へとギリギリ怒られない速さで競歩する。なぜか妙にこちらを見られ、ヒソヒソされている気がするが…眠っている間に類がまた呼び出しでもされたのだろうか。セットで呼び出されすぎて最近単独呼び出しでもこうなる。

    まぁ今はそんなことより授業に遅刻しないことが優先だ。ガラリと何とか間に合って教室のドアを開けると、ほぼ皆揃っているので視線が集まってくる。でも、まだ昼休み圏内だ。これはセーフだろう。
    一息ついて、自分の席へと移動する。カーディガンはどうしようか、とりあえず椅子の後ろにかけておいて休み時間に返しに行こう。次の授業は英語だったか、椅子に座って教科書を準備しようとおもったところで、授業開始のチャイムとともに担当の先生が教室へと入ってくる。ふと、そこで遅れて教室に入って来ただけにしては不自然に多く司にクラスメイトからの視線が集まっていることに気がついた。

    「よーし、お前らはじめる……天馬、お前、その顔どうした」
    「は?」

    教室を見回した先生とバチりと目が合うと、物凄く渋い顔をされる。顔?顔がどうしたというのだろうか。隣のクラスメイト(男子)をみる。全力で首を縦に振られる。
    隣のクラスメイト(女子)をみる。さっと手鏡を掲げられた。

    鏡に映る司の顔。
    いつもと何も変わりないはずだったのに、その頬にはでかでかと黒のペンで落書きがされている。

    お前、普段のサインはもっと控えめだろとか、こっちは見えないところにしたのにとか、色んな言いたいことが津波のように押し寄せてくる。でもこの姿をけっこうな校内に晒してしまったことについての恥ずかしさと、子どもみたいな悪戯なのにあちらの意思表示を感じてしまったことによるちょっとだけの嬉しさもあり脳内も一気にぐちゃぐちゃの混乱状態に陥ってしまったので、出てきた言葉は慣れ親しんだ名前だけだった。

    「る、る、類ーーー!!!!」

    ***

    (…お)

    ちょうど授業開始のチャイムがなり終わったあと、ワンテンポおいて見事な叫び声が隣の教室から聞こえてきた。予想通りのそれに、噛み殺せなかった笑いがくつくつと漏れていく。周りのクラスメイトはまた何をしたんだと言いたげな目でこちらを見ていた。
    大丈夫、これは仕返しだ。先にしかけたのはあちらだ。あの日、家に帰って可愛らしい主張に気付いた時の類の気持ちを考えれば、この仕返しは正当なものである。もっとわかりやすい所にしてくれたなら、それを使ってなんとでもできたのに。

    (さて、次の休み時間が楽しみだ)

    彼はどんな反応をしてくれるだろうか。ダメ押しのカーディガンを手に、真っ赤になって飛び込んできてくれる気がする。それが周りの目をより引くことになるのだが、多分それどころじゃなくなっているはずだ。
    残念ながらこちらにも嫉妬と独占欲はしっかりとある。だから、これくらいは可愛い悪戯だろう?そんなことを言ったらきっと怒られるだろうけど、多分本気で拒否はされることは無いんだろうな。と、早く彼の反応をみたい心を押さえつけてにやにやと次の休み時間に思いを馳せるのであった。

    ***

    変人ワンツーはガチ。

    この日を境にそんな言葉が校内に一斉に広まることになるのだが、そんな事はまだ、この時のふたりは……少なくとも片方は、知る余地もない。
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    TTK_gentei

    PAST赤い糸大作戦シリーズ(告白大作戦)https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17474345
    のおまけです。
    告白大作戦、のおまけ あの糸が消えてからしばらく、すっかりクリアになってしまった視界の中で自分と類は順調なお付き合いというものを行なっていた。スキンシップ…は別に減ってはいないしどちらかと増えてはいるが、まぁきちんとお互いが好き合って恋人になっているのだからあの時よりはよい関係を築いているのだと思う。

    「類、言っていた映画のパンフレットはこれだったよな」
    「あぁありがとう!あの時一緒に見た映画の前進はいつの間にか上映が終わっていてね…配信が始まってから見てはいたんだけどできれば監督のコメントが見たかったから助かるよ」
    「気にするな、オレも好きでたまたま買っていたものだったから」

     あれから数回、今度は自分達らしいデートも行なって、ようやく自分としてもしっくりくる関係性になった気がしている。今は昼休み。こういう関係になる前から一緒にランチを取ることはどちらが言わずとも定番化していたものだが、今は約束として二人の時間をなるべく取るようにしていた。相変わらずショーの話が9割ではあるが、残りの1割でお互いの話もするようになって、より近づけたような気がする。
    1920

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