Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    TTK_gentei

    @TTK_gentei

    何となく上げる用

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 14

    TTK_gentei

    ☆quiet follow

    臆病者達の春夏秋冬
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17658906
    のちょっとしたおまけです

    臆病者、春の日の朝 必要最低限の荷物を受け取り、入国を終えて。やっと一息ついたところで、すぐに動く気にはなれず近くの椅子に座り大きく伸びをした。

     約13時間の旅路を終えて、丸3年ぶりにこの地に足を踏み入れたのがつい先程のこと。
    空港の中だと風景もそこまで変わらないので正直まだ実感がわかないが、通り過ぎる人々の使う言葉が慣れ親しんだものに変わっているのはしっかり理解していた。ざわざわ、忙しなく耳に飛び込んでくる見知らぬ人の声も、知った言語なら不思議と落ち着くものだ。きっとこの感覚が母国に帰ってきたことの何よりの証拠だろう…朝の時間ではあるがすでに忙しなく活動を始めている人の姿をぼんやり眺めながらそう思う。待望の帰国は、案外日常的なスタートをきっていた。

    「───はぁ、久しぶりの長時間フライトになるとやはり疲れるな」

     壁に背を預け一呼吸、二呼吸。
    こうしていると椅子の上に根を張ってしまいそうだが、さすがにそれはよろしくないとまだ時差ボケが始まっていない頭を緩やかに動かしながらやるべき事を探していく。
    …ようやく、ひとつ見つかった。そうだ、まずは先ほど受け取ったばかりの荷物の確認をしなければ。とはいってもアメリカを出る時、だいたいのものを先んじて国際宅急便で送ってしまったので手持ちとして持って帰ってきた品はそこまで多くない。今手元にある少し大きめのバックには貴重品と数日分の着替え、みんなに渡すためのお土産と、手放せなくなった三冊の脚本が入っているはずだ。そういえば、持ち込むことは断念して預ける形で運んできたから、中に入れていたお土産が潰れたりしていないだろうか。
    少し逡巡したのちに念のためカバンを開いて確かめてみることにする。とはいっても、元々数日はのんびりしてから旧知の人々を回る予定だったので、大半のお土産はあらかじめ宅急便で送っており手持ちで持って帰ってきたものはかなり数が少ない。まだ動く気になれないのもあり、ささっと中身を確認してしまえばいいだろうと、お土産をまとめて入れていた袋を開いた。

     さて、まずでてきたのは家族用の簡単なお菓子。こちらは特に崩れてはなさそうだ(ちなみにお菓子以外は量が多かったために別に送っている)。これが一番心配だったので、ホッと一安心。
    ふむ、次に出てきたえむ用のフェニーくんによく似たペンギンのバックチャームも大丈夫だった。アメリカ版のフェニーくんと言っても差し支えない出来のそれと、おまけのライリードリームパークのグッズもまとめて無事である。パッケージも潰れていないようで安心した。
    おっと、こちらはケースに入れていたのだったな。寧々用の彼女が憧れる女優のアメリカ版DVDも問題ない。既に持っていた時を考えて作品を変えて複数買ってきたがどれも傷ひとつなかった。
     よし、最後に。細長いケースを開いて確かめてみる。…うん、類用のアンティークの腕時計も大丈夫そうだ。

     チャリ、と音を立てた最後にチェックしたそれを改めて眺めていると、どんどん眉間に皺が寄っていくのを感じた。…帰国が決まってから、みんなへのお土産を買って帰ろうと思って。だいたいのものがわりとすぐ見つかったのに対して類へのお土産だけはなかなか決まらず、躍起になってストリートを歩き回っていた時にふと目に入った雑貨店で見つけたのがこれだ。
     何処から渡ってきたのだろうか、出処ももうわからないと店主もいっていたその腕時計は、シンプルながら非常に精巧な作りになっており、ゴールドで統一された文字盤はいくらでも眺めていられそうな美しさがある。あぁ、類に似合うだろうな。そんな発想が頭をよぎった時にはもう購入してしまっていた。
     昔、腕時計をプレゼントとして送る意味は「同じ時間を共有したい」ということだと誰かが言っていた。しかもこれは自動巻きだということなので電池は要らず、腕につけてさえいれば半永久的に動き続けるらしい。…さすがに、重すぎるお土産だという自覚はある。帰国してから、類とはちゃんと話さなくてはいけないとずっと思っていた。なんなら口説き落とすつもりで帰ってきてもいる、けれど、流石にこうもあからさますぎるプレゼントになってしまっていると少し恥ずかしい。…第一、記憶の限り類には腕時計をつける習慣なんてなかったはずだ。だから渡したとして使ってもらえるかも微妙──いや、類なら気を使って自分と会う時にはつけてきてくれそうだけれど。

    「まぁ、仕方ないか」

     色々と思いを馳せてしまったが、まだ再会を果たしたわけではないのでお土産を渡してからのことをぐずぐず考えても仕方ない。少し熱くなってしまった頬に気づかないふりをしながら、まずは空港から移動をするためにもその時計を仕舞わねば、とおもったところで時計盤の数字がアメリカにいたときのままになっていることに気がついた。約13時間の時の違いはこの時計にしてみれば1時間のずれになっているが、どちらにしろここはもう日本だ、渡す前に直しておいた方がいいだろう。
     機内ですでに時間を直していたスマホで現在時刻確認する。──あぁ、もう7時をまわっているのか。朝早くの到着になるのは認識していたが、確かにその割には窓から見える景色もすっかり明るくなっていた。さすがに移動をはじめなければとささっと時間を合わせて時計をバックに戻すと、スマホもポケットに戻してようやく椅子から立ち上がる。

     さて、まずは実家に帰らなければ。ただ、今日は平日であるしこの時間だと通勤ラッシュに巻き込まれてしまう可能性は高い。できれば大きめの荷物を持ったままもみくちゃにされるのは避けたいものなのでどうしようか…。とりあえず椅子から離れて歩きながら考えていたところで、先ほどから目に映っていた大きな窓にふらふらと引き寄せられた。

     おぉ、なかなか新鮮な風景だ。
     目の前に広がる滑走路では行儀良く並んだ飛行機たちが自分の番を静かに待っている。そのうちの一つはもうすぐ飛び立つのだろう、ゆっくりと地面を移動していた。
     ここから飛び立って、また別の場所へ誰かをおくりとどけるのか。先程自分をここまで連れてきてくれたその姿を眺めていると、ふと、自分が出立する前日の景色を思い出した。

     そうだ、あの公園。

     あそこならば、飛び立って行く飛行機を見ながらもうすこしのんびりできるかもしれない。3年前の思い出が一気に脳裏に蘇ってくる中で、甘ったるい味もついでに思い出した。…あの自販機にまだあるようなら、またあの下に残る強烈な甘さを感じてみてもいいかもしれないな。
     急に浮かんだアイデアだったが、ラッシュを避けるためだけに空港で時間を潰すよりは有意義だろう。そうと決まれば行動あるのみだ。先ほどまでののんびりしていたのが嘘のようにきびきびと踵を返すと、空港の出口へと足を向けた。タクシーは捕まるだろうか?まずはあの公園まで届けてもらわなければならない。そこからどうするかはまた後で考えよう、どうせ時間はたっぷりあるのだ。

     先ほどしまったスマホをもう一度確認する。そして、アメリカにいたときにはなるべく見なくていいように後ろの方へ移動してもらっていたメッセージアプリを開くと、一番上にあるグループのトーク画面を開いた。3年前の日付のメッセージが一番最新になっているそのグループは、ずっと動いていないくせにメンバーは未だにぴったり4人のまま保たれている。

    「お前たちに連絡する文面も考えなくてはいけないな」

     笑って電源ボタンを押そうとして、おっと、思いとどまってホーム画面へ戻る。そしてメッセージアプリを最後列から最前列に案内して、今度こそ終了させた。画面が消えたのを確認してからもう一度ポケットにスマホを仕舞い込む。…ふふ、隠しきれない笑みはそのまま持っていこう。だって今から彼らに会うことが楽しみで仕方がない。けれど再会の演出については不得手ながら自分が考えなくてはいけないので、記憶の中の錬金術師を参考にしつつ、あの公園でのんびりそれを練ってみることにしようか。

     自動ドアをくぐって外に出る。同時にぶわりと襲ってきた風は少し肌寒いものだったけれど、確かに春の匂いがした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺💜💛
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    TTK_gentei

    PAST赤い糸大作戦シリーズ(告白大作戦)https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17474345
    のおまけです。
    告白大作戦、のおまけ あの糸が消えてからしばらく、すっかりクリアになってしまった視界の中で自分と類は順調なお付き合いというものを行なっていた。スキンシップ…は別に減ってはいないしどちらかと増えてはいるが、まぁきちんとお互いが好き合って恋人になっているのだからあの時よりはよい関係を築いているのだと思う。

    「類、言っていた映画のパンフレットはこれだったよな」
    「あぁありがとう!あの時一緒に見た映画の前進はいつの間にか上映が終わっていてね…配信が始まってから見てはいたんだけどできれば監督のコメントが見たかったから助かるよ」
    「気にするな、オレも好きでたまたま買っていたものだったから」

     あれから数回、今度は自分達らしいデートも行なって、ようやく自分としてもしっくりくる関係性になった気がしている。今は昼休み。こういう関係になる前から一緒にランチを取ることはどちらが言わずとも定番化していたものだが、今は約束として二人の時間をなるべく取るようにしていた。相変わらずショーの話が9割ではあるが、残りの1割でお互いの話もするようになって、より近づけたような気がする。
    1920

    recommended works