絆とレンズと狂気と歪んだ信仰の下で私と彼は共に戦った。
正義から掛け離れた殺戮を繰り返し、血塗られ許しがたき行為で本来なら忌まわしき事例のはずだ。
しかし、そんな中で我がテンプル騎士団の、十字軍の守護 者と共に戦った事実を嬉しく思ってしまう気持ちも私の中にあった。
(…あ、嗚呼、サン・ジョルジュ…気高い貴方の手を血に染め、信仰を…誇りを歪ませたというのに。"共に戦った"という事実を誇りに思うなんて、私はなんて浅ましいのだろう。)
「カルデア」に喚ばれた私はその思いに葛藤し そこにいる彼を直視するのを躊躇ってしまう。
「カルデア」の彼も信仰に厚く、正義を貫き毅然とした守護者に相応しい立ち振る舞いだった。
また同じ陣営に共に居る事は奇跡ともいえるが、こちらの彼はあの行いをどう思っているのだろうと聞くのが怖い。
もしかしたら、軽蔑しているかもしれない。
あの狂気を、私を許さないかもしれない。
だからこそ、この複雑な思いを抱えてそばに居ることが苦しかった。
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カルデアに一人のサーヴァントが召喚された。
セイバー、ジャック・ド・モレー。
六つ目の特異点にて光を求め、狂気の元民の殺戮を行った特異点の王たる騎士。
その特異点に「私」も居たのだという。
記録に残る限り、私は特異点で王の元で剣を振るった。それも民間人、罪なき者達に。
私はサーヴァントであり、マスターの僕だ。
特異点によばれたのなら、王たる彼に従うのは正しい、が この行いを私は正すことは無かった。
特異点の記録の彼は
光を求め、ただ狂気の下にいた。しかし、己の行いが血塗られ狂っていることも理解し、慟哭していた。
もしも完全に狂気のまま殺戮を楽しんでいるのなら、きっと私は従わなかっただろう。
特異点に立つ無数の墓は、彼の贖罪と そして苦しみの数。
もしかしたらあの場の私は「彼の救い」であろうとしたのかも知れない。
そして、その事を悔やんでいるのだろうか?「カルデア」によばれた彼は、人見知りぽいといえ、私を避けるようにしていた。
(誤解は、解いておきたいですね。)
私は、愛用のカメラを片手に彼を探しに足を運ぶことにした。
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サーヴァントへ割り当てられた個室、それが私の自室だった。そのドアをノックする音が聞こえる。
「…ど、どうぞ。」
来客とは珍しいが、ドアを叩く主へ部屋へ入る許可を呼びかける。
「失礼いたします。モレー殿。」
開いたドアから入ってきた人物を見て、私は唖然とした。
「サ、サン…ジョ…こ、こほん!ゲ、ゲオルギウス殿!?」
栗色の長い毛に、赤い鎧と、十字のサーコートを纏った気高い聖人。何故彼が私の部屋へ来たのか理解できず、ただ驚くことしか出来なかった。
「そういえば貴方の地方では、サン・ジョルジュと呼ばれてましたね。呼びやすい名で構いませんよ。」
彼は穏やかに語りかけてくる。
「し、しかし…え、えと…その…」
言葉が紡ぎ出せない。とても気まずい。
「何故私が貴方を尋ねたか、ですね?すみません、では本題に入りましょう。とりあえず、カメラに映ってもらえませんか?」
彼は、四角い「カメラ」と呼ばれるものを持ち、私に向けた。
「ああ、これはマスターから貰ってすっかり趣味でして…。見たものを残せる素晴らしい文明がもたらした奇跡です。
それで、呼ばれたサーヴァントの皆さんは記念にカメラに撮らせてもらってます。」
ニコニコとカメラについて嬉しそうに説明される。こんな彼を見るのは初めてだ。
「中々あなたに声をかける機会がありませんでしたからね。」
「す、すみません…。」
「もし、嫌でしたら断って頂いて構いません。一枚よろしいでしょうか?」
穏やかに、優しく問われる。
断る理由も無かった。
「か、構いません。」
「では、こちらを向いて、自然な姿勢で…。」
彼はカメラを向け、私はその方向を見て佇む。
「…少し緊張してますか?」
カメラを構えながら彼が問いかける。
いきなり、憧れの聖人からカメラを向けられて緊張するなという方が無理だ。力を抜こうとしても不自然に顔が引き攣る。
(あ、嗚呼~!わ、私めはコミュ障で…うう…こういう時どうすれば!!)
気まずい。とても気まずい、どうすれば良いのか悩んでいた時だった。
ぽすん
という音と共に、私の目の前に白い塊が一つ落ちた。
(あ、嗚呼~!!!!ま、魔力でうっかり羊のぬいぐるみが出るとは、ふ、不覚!)
穴があったら入りたいくらい恥ずかしい、もうだめだ、と思った。
「可愛らしいぬいぐるみですね。では、一枚。」
それを拾い上げ、彼はカメラを向けた。
それが何だか面白くて、聖人らしからぬマイペースさが愉快でつい笑ってしまった。
「やっと笑いましたね。」
こちらを向いた彼がにこやかに声をかける。
「…中々笑わないので心配でしたよ。…やはり、貴方は笑っている顔も素敵だ。」
「あ、は、はい…!?」
そして彼はさらに言葉をつむぎ出す。
「今のあなたはもっと笑って良いのですよ。今のあなたは、あなたです。 カルデアのジャック・ド・モレーです。ですから、気負い等せず、堂々としていただきたい。」
「カ、カルデアの私…。」
優しくもしっかりとした口調で諭され、心の中のなにかがほぐれて行くように感じる。
「それに貴方は十字軍の…テンプル騎士団の総長でしょう、総長らしくしっかりした姿をカメラに収めさせてください。」
「は、はい…!!!」
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「では、一枚いきますね。」
向けられたカメラのレンズへ映る碧い瞳は、はにかんでいたが、迷いもなくどことなく嬉しそうに輝いていた。
-fin.