アイビー一触即発。リアスは大変焦っていた。目の前には大きな琥珀色が、今にもくっついてしまいそうな距離に迫っている。眼鏡のチェーンが頬にかかってひんやりとした感触を彼に与えた。リアスを押し倒し両手を縫い止めた彼、アイク・イーヴランドは、小首を傾げ薄ら笑いを浮かべた。
「もう1回言ってみな?」
「あ、」
「もういっかい、言ってみな」
背中に嫌な汗をかきながら、リアスの脳は「後悔」の二文字で埋まっていた。
□
事は小一時間に遡る。
「『藍は青より出でて藍より青し』って知ってる?」
「アイハアオヨリアイ、」
「ごめんごめん、ちょっと難しかったね」
すらりと細くて長い指が、カフェオレのような柔い髪にくしゃりと触れる。アイクはリアスの頭をふにゃふにゃと撫でた。なんだか猫のように扱われているなとリアスは思った。思ったが、特に不快にはならなかった。すっかり慣れてしまったのである。温もりが当たり前に感じられることに。
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