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    hana_kotoba0315

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    hana_kotoba0315

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    オンリーでの展示作品①
    アイビー 前編
    褒められるのが苦手な🐿が🖋に褒め殺しにされるお話。

    #Ikesta
    from

    アイビーその日は空に薄くて柔らかな雲が流れる、それはそれは穏やかな日だった。
    アイク・イーブランドは、ベージュ色のソファに腰掛けて白紙の原稿をヒラヒラと揺らしながら、その細い首をゆっくり後ろに傾けて、天窓に映る空を眺める。
    空は綺麗なな青色で、絵具で塗ったような、というよりはこの世の綺麗な青をそのまま全て流し込んだような深い深い青で、まるで隣に居る彼の瞳ようだとアイクは思った。
    ミスタの片割れたる彼は、アイクが一等気に入っている長い睫毛に覆われた深い青色の瞳を揺らして、ギュッと目を瞑り大きく欠伸をしたところだった。が、いやに刺さる視線に気づいて顔を上げた。

    「…何」
    「ん、何も」

    リアスは明らかに''不快です"と見て取れるような、それこそ顔に書いてあるといった様子の表情になった。誰だってジロジロ見られたら居心地が悪いのものだが、リアスはあまり人が好きではないからただ見られるだけでも嫌なのかもしれない。
    それでも、アイクは彼の表情を眺めるのが好きであった。ミスタより少し気だるげなそれは、時に歪み、時に綻び、ごく偶に緩んだりして、日々人の心情を紙面におこす事を生業にしているアイクにとって、それはそれは興味深いものであったのだ。他の人より些か負の感情に偏りがちな彼の情緒を眺め、話しかけてみたり、放っておいてみたりして反応を見るのが、アイクの密かな楽しみだった。清楚な見た目に反して、案外悪戯好きな男なのである。

    ふとある疑問が悪戯好きの心に降って湧いた。いつも何かしら不服そうな様子で警戒心剥き出しの彼が、人並みに照れたり笑ったりする所をアイクは未だ見た事がない。そもそも、楽しいだの嬉しいだの、この子は思ったりするんだろうか。

    見てみたい。

    小説家特有の大きな好奇心と、アイク特有のほんの少しの加虐心が彼を擽る。
    かくして、アイク・イーヴランドのリアスを照れさせてやろう大作戦が幕を開けたのである。

    ◇◇

    リアスは人が嫌い、というより苦手な男だった。人と話すのも誰かと長時間一緒にいるのも苦手。だがそれは、なにもリアス自身が望んだ事ではなかった。リアスが生まれた時、正確にはリアスという精神が生まれた時から彼の性格は人より少々荒っぽくネガティブで、それは彼の骨の髄まで深く染み込んでしまっていた。
    誰かと気兼ね無く笑いあってみたい。褒めたり褒められたり、支え合ったり、そんなありふれた幸せを味わってみたい、そんな願いは今日もまた、自分の瞳と似た色の空に溶けて消えてしまったように思えた。

    行き場の無い願いに思考を傾けているうちに眠くなってきて欠伸をすると、隣でぼんやりと天窓を眺めていた人物がゆっくりと頭を起こしてこちらをじっと見詰めてきた。何だと問うてもニコニコするばかりで教えてくれない。

    容姿端麗、聴く者の脳を柔く抱きしめるような優しい声を持ち、歌も上手くてゲームも出来てしまう文豪。自分なんかとは釣り合わないくらいによく出来た奴。その整った顔立ちのせいか、表情だけでは何を考えていらっしゃるのか全くわからないちょっと怖い奴。
    それでもリアスは彼の事をそこそこ気に入っていた。近すぎず遠すぎずの彼との距離感が嫌いではなかったのである。
    だからこの日もリアスはしっかり寛いでしまっていた。完全にとは言わずとも、他人の前で船を漕いでしまう程には。

    「リアス、」

    何でもない調子のその呼び掛けに、何でもない調子で答える。

    「ン?」
    「リアスの瞳の色って、すごい綺麗だよね」
    「……………は?…ッい''っ」

    ゴンッという鈍い音が二人だけの空間に落ちた。リアスが、ちょっと褒められただけで動揺しちまった彼が、持っていたマグカップを落としたのである。膝の辺りに鈍痛が走った。
    リアスにとっては明らかに爆弾発言となるものを放ったその男は、頬杖をついた体勢のまま大きな瞳をスっと細めた。口角が少しだけ上がる。そして痛みに藻掻く子をいとも簡単に抱き上げた。背格好で言うならリアスの方が大きいのに、である。
    ちょっと待て。まだ否定も弁明もしてない。
    リアスの心の叫びがアイクに届く筈もなく、ストンと膝の上に乗せられてしまった。

    「リアス、」

    急にパーソナルスペースを崩されて半ばパニック状態のリアスを、艶やかな琥珀色が見つめる。
    近すぎず遠すぎずを保っていた彼がこんなにもリアスを混乱させるのは殆ど初めての事だった。ただでさえ体が密着していて落ち着かないのに相手の顔なんて見られる筈がなくって、リアスは必死に下を向いていた。押し返そうと肩に置かれた手が、少しだけ震えている。

    「…急にびっくりさせちゃったね。大丈夫?」
    「だ、いじょうぶだか、ら。も、はなして」
    「んー……。すごい震えてる。大丈夫じゃないね」

    「先ずはスキンシップに慣れる所からだね」そう言ってアイクは震える子の背中をやんわり擦りながら、もう片方の手を頬に添えてオレンジブルーと目を合わせた。

    「僕は、君になんにも嫌なことしないよ。そんなに震えなくたって大丈夫。だいじょうぶ。わかるね?」

    言葉とは不思議なもので、何度も同じように教えられていると本当にそんな気がしてくる。
    アイクはひとしきりリアスの背中を擦って頭を撫ぜた後、震えなくなった両手を取って言った。

    「次は、こう。このままね」

    何が「次は」だよ。リアスは心底抵抗したかったが、有無を言わさぬ雰囲気に言われた通り胸の前で手を合わせた。日本の「いただきます」のポーズである。
    アイクはリアスの腰を左腕で支えたまま、近くに放られていた鞄をゴソゴソとやってあるものを取り出した。?マークを浮かべる彼の頭をもう一度撫でて、その手首をクルクルと巻いていく。何が起きているのが凡そ察しが付いたのは、彼の細っちろい手首が丁寧に纏め上げられた後だった。

    「ねぇ。ねぇ。アイク。アイ、ク、なにこれ」
    「ん〜?うんうん、大丈夫。これを、こうやって…」

    リアスの手首を自分の首の後ろに持って行く形で、彼の腕でてきた輪っかに自分の頭を通す。ついでに両腕で体を抱え直す。超至近距離にホールドされたリアスの出来上がりだった。

    アイクは実に満足気だった。何故なら目の前の彼の顔があれよあれよという間に紅く染まっていったからである。照れさせてやろう作戦大成功。涙で薄い膜が張った瞳に加虐心と庇護欲が一緒くたになって、アイクは更に追い討ちを掛ける。

    「僕ね、君の髪も好きなの。すっごくサラサラでしょう?猫っ毛って言うんだっけ、羨ましいな」
    「肌も真っ白だもんね。さっきも言ったけど瞳もすごく綺麗だし。君は偶に僕の容姿を羨むけれど、僕は君の方が一等綺麗だと思うよ」

    リアスはもう訳が分からなかった。腰をガッチリ抑えられているせいでもう俯くことも叶わなくて、ぎゅうっと口を引き結んで耐えていた。褒め殺しにされている。自覚はあっても対処のしようがないくらいリアスは前後不覚になっていた。
    リアスを楽しげに褒めちぎっていたアイクが目を見開いたのと、自分の視界がぐわりとぼやけたのが同時だった。

    「…あら、泣いちゃっ、た?」
    「ちが、違う、泣い、てない」

    無理させちゃったかな、
    ごめんね、
    怖かった、かな、

    リアスは惨めだった。人は褒められたら喜ぶもんだ。幸せだと笑うもんだ。なんでオレは泣いてるんだ。回らない舌を動かして必死に説明しようと足掻く。

    「違う。ちが、くて。」

    慣れてないのだと。嬉しくて恥ずかしくてどうしたらいいか分からなくて、幾つもの感情が脳を叩いてもう何も分からないのだと。
    リアスの断片的な声をじっと聞いていたアイクは、纏めていた手首の紐を解き、ゆっくり抱きしめて彼の肩に顔を乗せた。

    「リアス、リアス」

    子守唄のようなあったかい声だった。

    「優しくされちゃうの、ちょっと怖いんでしょう」
    「…そ、っう''だよ」
    「幸せだなって思うより、酷くされて辛い思いしてる方がほっとしちゃうんでしょ」
    「そうだよ……ッ」
    「あのね、リアス」

    フーっと息を吐いた彼の声が、リアスの肩に落ちた。


    それでいいんだよ。


    「幸せを幸せと思うだけが、君の、人の価値じゃないから」

    彼はそれだけ言って、それからはなんにも言わずにただリアスの背中を優しく叩いていた。

    オレンジブルーを濡らす涙が、静かに伝ってアイクの肩を濡らした。
    人の体温にこんなにも自分を委ねたのは、初めてだった。
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