カキツバタ目が眩むほどに白く冷たい空間。狭くも広くも感ぜられるその場所に、アイクはひとり佇んでいた。ここがどこで、自分がいつからここにいるのか、彼が知る術は無い。ただ、軋み掻き混ぜるような痛みが頭を支配し続けるだけだ。
「────っ……」
痛い。痛い。いたい。
騒ぐ脳とは裏腹に、恐ろしく澄んだ静寂がアイクの精神を蝕んだ。必然的に研ぎ澄まされた聴覚がキン、と音でない音を拾い、次第にそれはこだまする。ぼやけて歪む視界。顔を覆うためにかざした手がガタガタと震えている。
「……!」
無機質な空間に突如広がった凍てつくような冷気。嫌な風が着込んでいるはずの彼の肌を嘲笑うように撫でては去っていく。鋭く床を打つヒールの音がアイクの脳髄を直接叩くかの如く近づき、目と鼻の先で止まった。
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