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    こはく

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    こはく

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    Luxiem主従関係パロ。比較的穏やかな上下関係。
    由緒ある名家の長男がVox、次男がMysta、三男がLucaで使用人がShu、Ikeの設定です。
    今回は👹🖋️視点。🦊👟視点のお話もありますので、併せてお楽しみいただけると幸いです。

    #voxike
    #ikevox
    #Ikeakuma

    愛しい棘に口づけをIke Evelandは、Vox Akumaの家に仕える使用人であった。
    由緒あるその家系の勢力は最盛期ほどではなくなりながらも時代と共に緩やかな経過を辿り、未だ誇りある名家としての尊厳を確かに保っていた。
    町外れの森の中には、立派なお屋敷があるという。
    近くの街に住む庶民の子どもたちの間で専らそれは、嘘か真かといった噂話であった。
    不思議な噂を纏って、開拓が進められたことによりすっかり街の中心部ではなくなってしまったそこに存在するその家には現在、5人の住人がいた。
    正確には、住人が3人に使用人が2人だ。
    Voxは、半年ほど海外にて新しく事業を執り行う両親に変わり、現在この家の主を務めていた。
    一時的ではあるが、そもそもが長男である彼にとってそれは決して夢のような未来ではなく、実にこのまま放っておいてもやってくるのではないかと思うほどに確約された未来であった。
    次男のMystaは、かなりの自由人であった。
    その読めない性格には幼い頃から皆が頭を悩ませていたものの、度々きらりと光るセンスを発揮することで周囲を驚かせ続けてきた。
    そして今やしっかりと、Voxの右腕足る存在へと成長を遂げていた。
    三男のLucaは優しい子であった。
    一番、真っ当に愛を受けて育った末っ子であるからだ。
    しかし、両親は知らない彼の冷酷な部分を、兄であるふたりだけが知っていた。
    それは、小学3年生の夏休みのことだった。
    彼は虫取り網と籠を持って意気揚々と出掛けていった公園から、なんと血塗れで帰ってきたのだ。
    この優しい子が一体誰に何をされたんだと、丁度両親は出張、家政婦も買い物に出ているタイミングだったため、ふたりは酷く動揺し、心配した。
    しかし、放心状態でどこか虚ろな目をした彼に付いた血を一通り濡れたタオルで拭き取ると、その身体には傷の一つさえなかったのだ。
    どういうことだ、と、幼少から頭の切れるふたりは信じたくないことに思い至りながらも、それに気付かないふりをして封じ込めた。
    あの日のことは、触れずとも3人だけの秘密となった。
    つまり、3人は酷くバランスの良い兄弟であった。
    この家系からは年々親戚たちが離れていったことにより、今でこそ両親たったふたりであちこち飛び回って切り盛りすることになってしまったのだが、この3人なら最盛期ほどの賑わいを取り戻せるかもしれない、と両親が淡い期待を抱くほどには。
    それは本人たちも同じで、腹の内をすべて明かして語り合ったりこそせずとも、どこか根底の部分で深く繋がっていることを良く理解していた。

    そして、この家には2人の使用人がいた。
    IkeとShuである。
    Ikeは、5歳ほどの頃に孤児院から引き取られた。
    何でもこの家の両親とIkeの父は古い友人であったそうで、5歳になったら引き取ってやってくれ、というふうに頼まれていたそうだ。
    一方Shuは、名家のご子息であった。
    それも長男であったため、失踪と騒がれた当時は随分問題になったものだった。
    彼は、自然を愛する少年だった。
    都会の街での決め事ばかりな生活に嫌気が差し、度々抜け出してはこの森に来ていたところを、この家の主に迎えられたのであった。
    つまり、仕える者、と言ってもふたりとも養子のようなもので、5人兄弟と称しても何ら問題はなかった。
    だが、そうはいかなくなったのは2人の真面目さに起因する。
    幼い頃こそそういった境もなくあちこちで一緒に遊んで同じ時間を過ごしたものの、10代も後半を迎えた頃には彼らは自ら線を引き始めたのだ。
    きっちりとしたスーツを着込み、家での仕事に従事する。
    結局、長くこの家に仕えてくれていた家政婦たちも、年を理由に次々と辞めていったため、今この家が維持できているのは2人のお陰と言って過言ではなかった。
    それでも3人は、一緒に育ってきた2人のことを家族のように思っていた。
    一部を除いて。

    すっかり成人を迎えた彼らにとって、一大事になりつつあるのが色恋沙汰であった。
    学生時代はもちろん男性として各々でゴタゴタはありつつも、なんだかんだうまくやってきたのだ。そう、今日迄は。
    端的に言えば今この家では、あちらこちらに想いの矢印が飛び交っているのである。
    まず、長男であるVoxは、Ikeのことが好きだった。
    気になり始めたのは明確で、中学3年生の夏の日のことだった。
    Voxの2個下である彼は、出会った5歳の頃から変わらず少女のように華のある顔立ちで、華奢で白い肌をしていた。
    それでも流石に中学生ともなるとうっすら筋肉も付き始め、成長を続ける彼を眩しく思っていたある日のこと。
    確か、朝ごはんが出来たから、というような特別でもない理由で、だからこそ彼の部屋のドアを思わずノックも忘れて開けたのだ。
    彼は、着替えをしている最中だった。
    昔から街にある温泉に5人で行くことも多くあり、またその瞬間にも彼は下にスウェットを履いていたため、動揺することなど何もないはずだった。
    しかし、その彼の上半身には、所謂"キスマーク"が体中に散っていたのだ。
    気付けばどこで鍛えていたのか思っていたより成長していた腕や肩やお腹の筋肉と、その鬱血痕。
    そして、昔から変わらない人形のように整った愛らしい顔立ち。
    アンバランスなそれに、簡単に呼吸が奪われたVoxは、きっとその日、彼に恋をした。
    最初こそ、あれ以来彼を見ると感じるこの動悸はなんだ、とクエスチョンマークだらけの頭をしていたが、大学にも上がる頃にはその想いは確固たるものになっていた。
    しかし、男同士、ましてや立場の違いにより少なからず彼を危ない目に合わせてしまうであろうこと、何よりそっけない彼の態度など、目の前に問題は山積みであった。
    才あるものが集うこの家でも長男として突出した出来を誇るVoxにとって、少しずつ増えていく仕事すらも大したことには思えなかったが、この問題だけが非常に難解で、解き方すらわからなかった。
    そんなふうに日々を曖昧に過ごしていたとき、僅かにこの家の中で、風向きが変わり始めていた。

    最近、Lucaと一緒にいることがやけに多い気がする。
    Voxはふと、作業の手を止めて考えた。
    ふと、という様相を装ってはみたものの、正直そのことで頭がいっぱいで、作業は少しも進んでいなかった。
    想い人であるIkeは、何故か俺には邪険で雑な態度を取るくせに、我が家の末っ子の前では大抵口角を緩ませている。
    「Lucaは愛嬌がありますから。皆にとって弟のような存在ですし」
    一昨日も深夜にふたりで仲良くアニメ鑑賞をしているのを見かけ、思わず立ち止まって凝視してしまった俺に慌ててそうフォローしてくれたのは、俺の1つ下であるShuであった。
    彼の言うことは最もで、確かにこの家で彼より年下なのはLucaだけだった。
    Ikeはなかなか面倒見の良い気質で、だからこそ弟のような彼の存在がとても大切なのだろう。
    そんなことを思い返しながら何となく堂々巡りな思考に区切りをつけ、作業を切り上げた。
    リビングで何か飲み物でも拵えてくるか、と欠伸をしながら階段を軽快に降りた途端に、恐らく1階全体に広がっている、甘いお菓子の匂いがした。
    匂いのする方向は明らかにキッチンのあるリビングで、粗方もうこの家で唯一の大学生となった彼の帰りに合わせてIkeがクッキーを焼いたのであろう、とすぐにそう考えた。
    ぴき、と頭のほうで良くない音が鳴ったことには気がついていた。
    しかし、臆することなく突き進む。
    リビングには相変わらず完璧に掃除をこなしているShuと、思った通り、キッチンで試食のようにして菓子を頬張るLucaたちの姿があった。
    Shuはすぐに俺の姿に気が付いて、軽く会釈をする。
    そういうのはしなくていい、と再三言っているのだが、彼は好んでやっているのだからと頑なに辞めてはくれない。
    視線をShuから外してあちらに寄越すと、その視界に映ったのはIkeが手に持ったクッキーをLucaの口に運んでやっているところだった。
    2度目の良くない音が頭から聞こえた。
    正直、これまでもこういうことは沢山あったと思う。
    Ikeは元来、気を許したものにはとことん人懐っこいのだ。
    しかし、両親がいないことで知らないうちに感じていた責務に長い片想いなど、色々なものが重なったVoxは甚だ限界であった。
    そしてまた次の瞬間にはIkeが、Lucaの頬についた屑を笑いながら取って、それをさらっと舐めた。
    その瞬間、制御できないほど頭に血が上った。
    「Ike、君は父が留守にしている今、俺の使用人だ」
    気付いたときには、まるで怒鳴っているように大きな声が、思ってもいないことを告げていた。
    それは2階にいた筈のMystaが驚いて降りてくるくらいの声量で。
    「来い」
    睨みつけてそう言うと、Shuは頭を抱えて、とにかくIkeに行くよう目配せをした。
    Ikeはまだ何が起こっているのか全くわからない様子であったが「これ、残り全部食べていいからね」とLucaに一言優しく言い残して、すぐにVoxの後を追った。
    そのまま誘導されるように、Voxがいつも作業をしている部屋に入る。
    扉が風圧でぱたん、と閉まった。
    「あの、どうして怒っているのでしょうか?」
    横暴なVoxの一連の行動に、この家において母に次いで母親らしい普段の彼なら、叱るという行動に出てもおかしくないところであったが、本当に怒っている理由がわからないようでその顔には戸惑いが色濃く浮かんでいる。
    「Lucaが、好きか?」
    絞り出すような声で言ったそれは、唸り声のように辺りの空気を震わせた。
    「好き…ですけどそれが?」
    きょとんとした様子ですぐに返ってきたその言葉に、やっぱり恋愛的な気持ちは一切伺いしれなくて。
    しかし、そこにほっとする自分はいなかった。
    そこでVoxは初めて気が付いたのだ。
    自分は、何もLucaだけに嫉妬していたわけではなく、この大きすぎる愛を抱えるのにいよいよ耐えきれなくなってしまっただけだったのだと。
    覚悟を決めながら、口を開いた。
    長い片想いだったのだから、手が震えていたのは見逃してほしい。
    「俺が、高校2年生のときから、君に片想いをしていると言ったらどうする」
    「は……………?」
    Ikeからはオブラートに包むことなど一切眼中にないような感動詞が返ってきた。
    彼は口をぽかんとあけた、珍しく間抜けな顔をした。そんな顔も愛らしくて、自分の表情がほんの少しだけ綻んだのがわかった。
    「だって、彼女いたじゃん」
    睨むように、唐突にそう言われた。
    Ikeが嫉妬したり、あわよくば俺が恋に落ちた時のような奇跡が起きたりしてほしくて、などと思ったよりも女々しかった理由を言える筈がなく、何よりついかっとなって怒鳴り返してしまう。
    「君だって何人も女と付き合っていただろう!それも中学生の頃から!」
    口が滑ったと思ったその瞬間。
    彼は目元を赤く染めて、途端に涙目になった。
    「ほらやっぱり、あの日キスマークちゃんと見えてたんじゃん!嘘つかないでよ!!!」
    そのままの勢いで胸をどんどん叩かれる。
    あまり見ない愛らしい拗ね方に驚いて硬直していると、彼は見られたくなかったのか俺の胸に顔を寄せた。
    掴まれたシャツに、心臓ごと握られているみたいだった。
    「言い訳の余地くらい与えてほしかった………」
    ぽそっと呟かれた一言を、この耳は決して逃さなかった。
    言い訳をしたかったのか。
    確かにあの日はあれ以来何も見ていない、の一点張りでひたすら彼から逃げていた記憶がある。
    何より、彼自身のそういった姿が、ではなく自分が彼のそんな姿に色を見てしまったことが恥ずかしかったのだ。
    「いや待ってくれ、言い訳、って、何故だ」
    上手く回っていない思考がようやくそこに至ったときには、また絞り出すような声が彼のつむじに向かって話しかけていた。
    すると潤んだ瞳が、またやっとのことでこちらを向いた。
    「そうだよ。僕も好きだ。それも、君なんかよりずっと前からね」
    初めて聞いたその告白に、俺は目を丸くした。
    高校生くらいにはもう既にそっけない態度を取られていたので、正直、嫌われていたっておかしくないと思っていたのだ。
    驚きと、じわじわと染みる喜びに体を馴染ませながら視線を下げると、彼は想いが通じ合ったにもかかわらず頬を膨らませ、未だその大きな目を潤ませていた。
    どうしたのだろう、と思った俺に向かって、彼は小さく震える声を出した。
    「…でも、どうしても釣り合わないだろ。僕たちはどこまでも使用人と主なんだからさ」
    「そんなことはない」
    すぐに否定をしても、吐き捨てるように言葉を零す彼には届かない。
    「はは、せめて、一生隣にいたくてずっと隠してきたのにな」
    「待ってくれ。どうしてそんな、出ていくみたいな言い方をするんだ」
    彼の輝きが溢れんばかりの美しい瞳に、少しずつ影が落ちていく。
    簡単に消えてしまいそうなその細い肩を摑んで、抱き寄せた。
    確かにそこにある彼の体と体温を感じて、何故だか無性に泣きたくなった。
    「駄目だよ。僕は、あなたの両親に信頼してもらってここにいるんだから」
    Ikeは少しだけ笑いを含んだ話し方をした。
    抱きしめられたことが嬉しかったのだと、自惚れてもいいだろうか。
    「Ike、両親なら既に俺の想いは話しているぞ」
    「は……………?」
    ふと、そう言えばなにかのきっかけで伝えた気がする、と思い至ったVoxはそう言った。
    両親は非常に成った人たちであり、我が家の愛されて育った子どもたちはなんだかんだ結局色々なことを相談してしまうのだ。
    Ikeは2度目の間の抜けた顔をした後に、わざとらしく大きな溜息を吐いた。
    「君ってほんとにそういうとこあるよね…」
    すっかり力の抜けた様子の彼の腰に慌てて手を回して支えた。
    思わぬことに随分とロマンティックな体制になってしまい、数秒、時が止まったように見つめ合う。
    彼は我に返ってきっ、とその麗しい眉と目を吊り上げると、先程よりも強く俺の胸を叩き始めた。
    「もう勝手にすればいいじゃん!いつまでも告白できなかった意気地なし!」
    叫ぶようにそう言われる。
    「だって、君に、僕がどんな思いで今日まで一緒にいたのかなんて、わかんないでしょ、」
    Ikeの両目からは、壊れたように涙が溢れた。
    それなのに負けず嫌いな彼は、いかにも泣いていませんよ、といった顔をして平然を取り繕っている。
    もうそんな仕草すら全てが愛おしくて。
    「Ike」
    俺は、その場で彼に跪いた。
    Ikeは目を見開いた。
    「だめ!誰かに見られたらどうするの!使用人なんかに君が跪いたって」
    ほとんど悲鳴のようなその声に、この人はずっとそんな思いをしながら、それでも俺の隣りにいることを選んでくれていたのだと、愛しさと切なさで心臓が張り裂けそうになる。
    「Ike。鍵は閉めてあるよ。それに、今君は使用人ではなく、私の想い人だ」
    Ikeは息を呑んだ。
    またひとつ、その頬を涙が伝った。
    全てが奇跡のように美しい彼に、俺は今から告白をする。その喜びをただ、心から噛み締めていた。
    「Ike、これからも俺の隣にいてくれるか?」
    視線を絡ませてそう言って、真っ白な手の甲に優しく、甘いキスを落とした。
    彼には、それこそ中学生の頃から途絶えることのない恋人の影があった。
    つまりこの程度のお戯れなキスなんて、慣れっこな筈なのに。
    目の前の人はまるで、小学生のあの頃みたいに真っ赤になって、ひとつの唸り声だけ残してそのまま俯向いてしまった。
    「Ike、君の答えが聞きたいな」
    少しだけ覗き込むようにして見ると、彼の口が一言告げた。
    「Yes」
    消え入るようなそれは俺の耳にだけきちんと届いて、鼓膜から全身を揺さぶるように響いた。
    想いを込めて、また強く抱き締めた。
    今度こそ彼は抵抗しないどころか、その細い腕を背に回してくれた。
    俺はそれに、どうにもならない幸せを味わって、噛み締めた。
    「不安なら、両親にはまた一緒に話そう。まぁ、ふたりとも、Ikeなら安心だと心から言ってくれていたから本当に何も案ずることはないのだが」
    Ikeはすっかり泣き虫なあの頃に戻ってしまったようで、う〜、とまた泣き声を上げた。
    「奥様も旦那様も優しすぎるよ。今までの僕とShuの苦しみは一体何だったの…」
    彼の不安が少しずつでも拭われていくことに微笑みながらも、引っ掛かった言葉を拾って思わず尋ねた。
    「Shuも、好きなやつがいるのか!?」
    ばっ、と体が離れる。彼の顔は一転して酷く青褪めていた。
    「ぅあ……………ごめん本当に聞かなかったことにして………僕今ちょっと凄く動揺してて…」
    視線をきょろきょろと泳がせて懇願する彼の真っ赤な頬に、安心させるようにして右手を置いた。
    彼は途端に動きを止め、目が合うと数秒、優しく微笑んだ。
    「僕はともかく、Shuのは本当に純情なんだ。心から応援してるんだよ。だから、お願いだから誰にも言わないでね」
    恋人の優しさ溢れるお願いに、俺はにっこりと笑った。
    「絶対に口外しないよ。約束する。だが、もし少しでも手助けできることがあるなら言ってくれ。Shuもずっと、俺たちの大事な家族なんだからな」
    「うん、わかった。ありがとう」
    そこで見たのは、もう何年も見ていなかった、まっすぐに優しくて愛らしい花のような笑顔。
    つい幼少期と重ねてしまい、彼が幼く見えてくる。
    何より、自分ではなく他人の幸せを心から喜ぶこの人が愛おしくて堪らなくて。
    「Ike」
    再度、彼を腕の中に収めて、すっかり桜色に染まってしまったその耳に向かって囁く。
    「今夜は、部屋で待ってるよ」
    あえて艶っぽい含み笑いをしてそう言った。
    初対面で褒められ、会話の取っ掛かりとなることも多いこの声には自信があった。
    だからてっきり、先程のように照れるIkeが見られる、そう思ったのだが。
    「僕、もう待ちくたびれちゃったよ」
    呆れたような、挑発するような視線がこちらを向いた。
    首にするり、と手を回される。
    射抜くような目線が絡まり、釘付けにされた。
    ごくり、と、乾いた喉が鳴った。
    「だって、Voxが早く抱いてくれないから…」
    上目遣いに、恥じらいを混ぜた表情、髪を耳にかける仕草。
    完全にやられた、とずるずるしゃがみ込んだその時にはもう彼はそこにいなかった。
    俺なんかよりずっと賢くて、愛情深くて、愛らしい彼は今頃、また仕事を終えたMystaに料理を振る舞っているのだろう。
    後で、要るものだけこっそり買っておこう、と決心したVoxは中断していた作業に戻った。
    すっかりもう手に付かないそれに頭を抱えた彼の背中を、窓から差し込む夕焼けが照らしていた。
    部屋に静かに灯った、甘く、永い愛の色。
    焦がれた日の溺れゆく夜まできっと、もうあと少し。
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