「ヒーローにかまってほしいルクバンif」 ねえ、かまってよ。
早春のある日の午后、コジュケイの声に遠く耳を澄ませながら隣で雑誌を読むヒーローの顔を横目で見つめて、そう、視線で言ってみる。ヒーローは熱心に今日発売のバスケットボール専門誌を読んでいた。熱く、欲望に満ち々たその視線に気付く様子もなく。
三……、ううん、もう五日も前だよ。僕たちがしたの。ヒーローは……あんまりするの好きじゃないのかな。僕は、毎日したいと思っているのに。……いや、もしかして僕がおかしいのか? ヒーローにされたことを思いだしながら毎日自分で……しながら、それでも足りなくて、ヒーローにさわってほしいと思っている、僕が、変なの?! だからヒーローは、いつもそんないやらしいことばかり考えている僕のことを、もしかして、もしかして……
「ヒーロー! きらいにならないで!」
突然、叫んだルークの額は真冬の凍てついた風にさらされたように青ざめていた。ヒーローは思わず手にしていた雑誌を落として、ルークの顔を凝視する。ルークの唇が何か言いたそうに、けれどその唇は黙ってふるえたまま、何も言わない。
「……どうしたの、ルーク」
ヒーローの指先がルークの頬に触れる。それだけで反応してしまう自分の身体を忌々しく思いながら、それでもやっぱりどうしてもこの衝動を抑えることはできない。
「……ヒーローは、僕と、したくないの」
「え、何、」
「僕はヒーローにさわってほしい、毎日だってしたいのに、でもヒーローはそんなふうに毎日ヒーローにしてもらうことばかり考えながら自分でいやらしいことしてる僕のこと、き、……きらいになっちゃったの?! でも、でも、仕方がないんだ、だって、だって、」
「待って、ルーク、いま自分がすごいこと言ってるの、解ってる?」
毛を逆立ててふーっふーっ唸っている猫みたいなルークの紅潮した頬を、ヒーローは両手で、そっ、とつつんで逆立った毛を慰撫するように、撫でた。
「ルーク……自分で毎日してたの。俺に、されたこと思いだしながら」
さすがにとんでもないことを言ってしまったと気づいたルークは、否とも応とも返せず、黙ったまま硬直した。
「……ごめん、意地の悪いこと言っちゃった。あのね、俺もね、毎日してたよ。ルークのこと考えながら」
「ならどうしてしないの?!」
「だって、この前やったとき、君のおしり、ちょっときれちゃったじゃないか」
「もう治ったよ!!」
ほんとう? そう訊き返すヒーローに、ルークは全力で頷いた。
「よかったあ。でも、痛かっただろ? 血、でちゃったし……」
「ほんのちょっときれちゃっただけだし大丈夫だよ。痛いよりもずっと、気持ちよかったし」
また、とんでもないことを言ってしまった。そう、思ったけれど、でも、吐きだしてしまった想いはもうとまらない。
「うん、俺もルークとするのすっごく気持ちよかった。……思いだしたら、」
そう言って口ごもりながら俯いたヒーローの視線の先を追ってルークが下を向くと、ヒーローの膨らんだ股間がぴったりとくっついて、ルークの太腿のあたりを圧迫している。
「ヒーローも、僕としたいと思ってる?」
「あたりまえだろ。めちゃくちゃ我慢してたんだぞ」
「よかった……ヒーローに嫌われたらどうしようかと思った」
「嫌いになんてなるわけない。こんなにこんなに、こんなに大好きなのに」
ヒーローはルークの耳に唇をよせて、好き、大好き、そう何度も囁く。ヒーローの息と、あまい言葉がくすぐったくて、ルークの耳朶は燃えるように熱く、真っ赤になった。
「ねえ、ヒーロー、しよう」
「ここで?」
「うん、今すぐヒーローとしたい」
「今度はちゃんとやわらかくなるまでほぐさなくちゃね。ルークのおしり、またきれちゃったら大変だし」
自分の心配をしてくれるヒーローの優しさが嬉しくて、だけれどあらためて真面目な顔でそう言われると何だかとっても恥ずかしくて、そして、ヒーローにさわってもらえると思うと身体中の血が沸騰して、どこもかしこもが疼いてたまらなくなる。
自分の身体なんてどうなってもいいから、ヒーローの思うままに、抱いてほしい。
でも、そんな欲望は恥ずかしくてまだ口にだして言うことはできない、そう、ためらうルークの肉体は、モノ言わぬその口よりもずっと素直にヒーローを求めてくるものだから、ヒーローは、ルークの尻への配慮と、抑えきれない欲情のはざまで悩み、早熟で未熟な二人は悩ましい心と身体に戸惑いながら早春の午后の陽だまりのなかで口吻けをして、お互いの服の釦に、指をかけた。