「え、はっ? ……なにこれかった!」
「棺桶ってそんなもんじゃね?」
「いやまあ固い布団の方が好きみたいなタイプもいるけれど、それにしても随分と……というかマットレスなんてもうペラッペラだし、もしかしなくとも空調機能もないよね。これ寝苦しくない?」
「俺は強いから平気だ」
「つまり寝苦しいわけね」
「…………」
「うーん、ロナルド君って棺桶カスタムとか嫌な人?」
「カスタム?」
「そう、これ年季ものだからそんなに弄る余地なさそうではあるけど、しないよりマシでしょ」
「棺桶ってカスタマイズできんの?」
「……なるほど、そこからか。いやまあ私もお父様たちから聞く程度だけど、最新式とか凄いらしいよ」
「例えば?」
「マッサージ機能ついてるしプラネタリウムも見れちゃうし変形もする」
「何それ凄え」
「寝心地も抜群って聞くよ。いっそ買い替えちゃう?」
「あ。あー……その、できればこの棺桶自体は使えるなら使いたいんだけど」
「ふむ、何か思い入れがあるとか?」
「…………独立するときに、兄貴から貰ったやつ」
「ああなるほど、それでそんな後生大事に抱えてるわけだ。別に捨てやしないからゆっくり降ろしなさい、いいかゆっくりだぞ。……でも君の睡眠も大事だしなぁ」
「別に今のままでも平気だし」
「勝手に潜り込んだ私のベッドで丸一日ぐっすり熟睡して、叩いても抓ってもご飯作っても起きなかったくせに?」
「やー……ちょっと疲れてたって言うか」
「いよいよお祖父様に連絡とる覚悟まで決めたのに、君ときたら『ベッドってすげー寝心地良いんだなー、久しぶりに熟睡したわ』とか抜かしながら起きてくるんだもんなぁ」
「そ、っれは本気で悪かったと思ってるけど! いやでもなんでお前のベッドあんなに寝心地良いんだよお……!」
「ふふん、寝具にはこだわっているからね。寮だからセミダブルで我慢しているが、本当ならもっと大きいベッドを置きたいくらいだ」
「なんかベッドの中心に辿り着けずに行き倒れてそう」
「そこまで貧弱じゃないわ。まあ確かに疲れてると端っこで寝ちゃうけど」
「行き倒れてんじゃん」
「ふむ、でもそうか。一応確認しておくが、ベッド自体に忌避感はないんだな」
「え? ああ、寝返りうちやすくて良いよな」
「寝返りどころか身じろぎひとつしてなかったけどね。それなら君のベッドを買うか」
「は?」
「今の棺桶を捨ててまで新調するのは嫌なんだろう。それなら寝具はベッドにして、棺桶は荷物入れにしたら良い」
「……いやでも、ベッドで寝る吸血鬼とか」
「今は棺桶使わない子も多いって聞くよ。今時の吸血鬼らしさってやつだね」
「ベッド買うわ」
「よっしゃチョロい」
「なんか言ったか?」
「何にも。それなら今から家具屋に行こうか、横浜にうちの一族の行きつけあるから」
「……高いんじゃねえ?」
「まあそれなりに。でもこういうのはきちんとしたものを買ったほうが結果的には良いんだよ。長く使う物だしね」
「そういうもんか」
「そういうものだよ。その棺桶だって当時としては相当良いものだったと思うよ、だから今までずっと使えてるわけだし。というわけで、これからは間違っても2円のコタツとか買おうとするんじゃないぞ」
「あー、あれな。あまりの安さにテンション上がっちゃって」
「安すぎるわ! 君そのうち変な壺とか売りつけられるぞ」
「壺は使わないから買わねえ」
「そういう話じゃない。なまじ力があるからって警戒心ガバガバなんだよなあ、この脳筋……」
「おう、何か言ったか」
「ヴァー! 胸倉を掴むんじゃない、君がトラブルメーカーなのは事実だろうが!」
「大体のことは殴れば解決するから良いんだよ」
「それで始末書書かされるのは私なんだけど?!」
「始末書の文章ほぼコピペじゃん」
「アホみたいなトンチキ騒ぎを真面目な読みものにしなきゃならんのだぞ、そんなん毎回律儀にやるくらいなら作家に転職するわ。はー……君が脳筋なことはもう諦めるが、せめて何か購入する際は事前に相談するようにしてくれたまえ」
「今回みたいに?」
「今回みたいに、だ。一人で突っ走る癖は是非とも直してもらいたいからね。ということでジョンが帰ってきたら出かけようか」