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    mi0_0ya

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    Δ軸:家出話(ドラ+ロナ)

    #ドラロナwebオンリー0206
    dralonaWeb-only0206

     ロナルド君が出ていった。二週間ぶり、この半年で通算五回目の家出だ。
     今回の原因はなんだったかな。ああそうだ、脱いだ服は洗濯カゴに入れろとか靴下は丸めて投げるな裏返すなとか、汚れ物は分けておけとか、そのようなお小言がきっかけだった。
     最初ははいはい聞いてたロナルド君だったが、少しばかり口煩く言い過ぎたらしい。売り言葉に買い言葉で盛大に脱線した口論の末、「うっせえバーカ!」と子供のような捨て台詞と共に飛び出していってしまった。齢二百を超えているらしいのに、彼の語彙力は時折ビックリするほど貧困になる。
    「はあ、まったく……」
     脱衣所を見渡し、散乱した衣服とあちこちにへばりついた泥汚れに息を吐く。何をどうしたら数時間の外出で泥まみれになるんだか。公園で子供に混じって砂遊びでもしてきたのだろうか。
     泥汚れは玄関から脱衣所まで点々と続いているのでそちらも拭かなければならない。汚れている時は玄関で私を呼ぶか、汚れた衣服を脱いでから中に入れと散々言っているのに。
     痛む頭を抑えつつ俯くと、私の足先をアルマジロの小さな手が慰めるように撫でていた。ジョン、と名前を呼んで抱き上げれば、今度は頬を撫でられる。冷たくて気持ちがいい。
    「ヌヌヌーヌ?」
    「ありがとう、大丈夫だよ。まったく、あの子ときたら本当に規格外だよねぇ」
     私が良く知る吸血鬼と言えば、その全員が程度の差はあれ炊事洗濯を苦としない者が多い。だけどロナルド君は違った。確認のため一通りやらせてみたが、料理はできないし掃除は雑、洗濯に至っては仕事から帰ってきたら洗濯機が粉砕されていた。
     出来ないものは仕方がない。そもそも家事方面の知識が乏しいようだったので、私が一から仕込み直してやろうとあれこれ試してはいるものの、現状はこの通り。
    「何度言ってもテンション上がっちゃうと脱ぎ散らかすし」
     洗濯機の上に放り投げられた黒いマントを手に取り、変な皺がつかないよう形を整えてハンガーにかける。点々と転がっている靴下は裏表を直してカゴの中へ。
    「汚れ物は分けろって言っても忘れるし」
     カゴの横に落ちていた白いクラシカルなシャツとスラックスにはべったりと泥汚れがついていたので浴室へと放り投げた。いや本当、何してきたらこうなるのさ。
    「お腹が空いてると片付けよりもご飯が最優先になっちゃうし」
     今回も先に飯と譲らなかったので、仕方なくシャワーは後回しにした。どうにかジャージに着替えさせることにだけは成功したのだけれど、そういえばそのまま飛び出して行ってしまったのだった。
     ラフな衣装で陽の下を歩くロナルド君は、尖った耳と牙を除けば普通の人間にしか見えない。銀の髪も青の瞳も吸血鬼としては非常にレアな上、私などよりよっぽど健康的な肌色をしているので、彼と一緒に居ると種族を取り違えられることが多い。しかも口を開かなければとんでもない美形な上、お人好しで間抜けで押しに弱いとくれば、もはや歩くトラブルメーカーみたいなものだ。
    (後始末に加えて始末書沙汰は御免なんだが)
     何か厄介なことに巻き込まれなければ良いがと眉を寄せたところで、頭の上で私の愚痴を聞いていたジョンがぽすぽすと髪を叩く。
    「ヌヌヌヌヌン、ヌヌヌヌヌイヌ」
    「……そうだね」
     ジョンの言う通り、ロナルド君もわざとやってるわけじゃない。まあちょっと脳の容量が子供っぽいというか、大雑把というか、長生きし過ぎて頭のネジがいくつか抜け落ちているだけで、むしろ結構真剣に頑張ってくれているほうだ。
     それでも半年経ってまるで変わり映えしない進捗に、ロナルド君も私も苛立ちが無かったとは言えない。それが今回の口論を招き、売り言葉に買い言葉となり、そして必要以上に彼を傷付ける言葉を選んでしまった。
     ーー君ってさあ、本当に吸血鬼らしくないよね。
     その言葉は彼にとっての急所を抉っただろう。なんせ吸血鬼らしくなるために死んで蘇ると思い詰めるような馬鹿だ。
     ロナルド君が一際大きい声で叫ぶ前、自身の牙が刺さるほどに唇を噛み締めていたこと。踵を返した際、ちらりと除いた碧眼がうっすら濡れていたこと。それらすべてをしっかり記憶していた観察に長けた己の視界を、この日ほど疎ましく思ったことはない。
     泣かせてしまった。
     自覚した途端、怒りや呆れを押し流すように罪悪感が湧いて来る。ふと視界に入った洗面台には、少しばかりバツの悪そうな顔をした私が映り込んでいた。
     自分で言うのもなんだが私は頭がキレるし享楽的な性格なので、後悔などという単語には縁遠い。ここまで頭を抱えたくなるような気持ちになったのは、子供の頃に要らん事でお父様に八つ当たりをして本気で泣かせてしまった時以来だったりする。
    「……でもさぁ、ロナルドくんだって悪くない?」
     思い出した過去に引きずられたのか、自分でも驚くほど聞き分けのない子供のような声が出た。鏡の中の私は不貞腐れた顔をしていて、そういえばこんな風に意地を張るのも久々だなと思い出す。それほど近しい存在が最近は居なかった、ただそれだけの話ではあるし、裏を返せば彼がそれだけ内側に入り込んでいる証左ではあるけれど。
     あの時はお母様に叱られたが、今回その役目はジョンが担ってくれるらしい。往生際悪く俯く私の頭を、可愛らしく首を傾げたジョンの小さい手がペシペシと叩く。うん、これは早くしろと背中を叩く時の力加減だね、ジョンさん。
     ああそうだとも。半年の共同生活の中でようやく見え始めていた信頼、のようなものを無遠慮に踏みつけたのだから、その一点に限っては私の失言で間違いない。そして悪いと思ってるなら反省しろと、これまで散々ロナルド君に言い聞かせてきたのも他ならぬ私だった。
     ふう、と息を吐いてジョンを頭の上から腕の中へと降ろす。
    「……今日はご馳走にしようか。ジョン、手伝ってくれるかい?」
    「ヌー!」
     任せろと腕を上げるジョンに笑って、キッチンへと向かう。汚れた洗濯物とか廊下とかが後ろ髪を引くけれど、その辺のことは無理矢理にでも忘れることにした。

     ロナルド君が家出をした際の定番メニューはからあげ、またはオムライスだ。
     今回はどちらも作った上で、ハンバーグとオニオンスープ、デザートにチョコミントのパフェも追加することにした。
     嗅覚だけは私の探知能力並みに良いあの子のことだ、遠くにいても好物の匂いを嗅ぎつけるだろう。
     パフェを飾るためのチョコを用意する私の横で、ジョンはスープの入った鍋を慎重にかき混ぜてくれている。そろそろ良いかと鍋の中身を確認して火を止めて、ありがとうとジョンの頭を撫でた。
     あとは仕上げをして盛り付けるだけの料理の数々がキッチン台に並ぶ。一人ではまず食べられそうもない量のそれを眺めながら、ジョンにバレないようこっそりと息を吐いた。
    (気配を消す気があるのかないのか)
     少し前から部屋の周りをうろうろとする気配。強くなっては弱くなり、またすぐ強くなる落ち着きのない気配が、まるで本人の心境を表しているようで苦笑するしかない。
     まあ私も人のことは言えないけれど。
    「今回は何時間コースだと思う?」
    「ヌーヌ……ヌンヌヌン!」
    「おや私と意見があったね、さすがジョン」
     前回までを振り返るに、ロナルド君の場合こうなってからが長い。一度どこかに行って戻ってきて、を繰り返し続けて半日ほど経過したこともあるくらいで、しびれを切らして迎えに行こうとしたら逃げられたこともある。なんと言うか変なところで繊細なのだ。普段は大雑把すぎるくらいなのに。
     しかし好物のオンパレードが功を奏したのか、今回は少し違った。先に掃除だけでもしちゃおうかなと背後の玄関を振り返ったところで、かちゃりとドアが音を立てたのだ。
     なんとなく口をつぐんで見守る先で、普段の騒々しさが嘘のようにそっとドアを開いて中を覗き込んできたロナルド君と目が合う。うおっと叫び声があがって、バタンと大きな音を立ててドアが閉まった。
     間の抜けた静寂の中、足元に降りてきたジョンと顔を見合わせて笑う。
    「……ジョン、今回の予想は二人ともハズレだったねえ」
    「ヌ〜、ヌンヌン」
    「え、なに、なんの話?! 残念ってどう言うことジョーン!」
    「ヌェー!」
     もはやヤケクソなのだろう、今度は普通にドアを開け放ったロナルド君が、そのままスライディングしてジョンに抱きつく。その背後で玄関のドアが静かに閉まるのを眺めて、いつの間にか詰めていた息を吐いた。
    「君がいつ帰ってくるかって話をしていたんだよ。まさか食事の支度が終わると同時とはね」
    「……腹減ってたんだよ」
    「そうかい」
    「どうせまたガキみたいだって思ってるんだろ」
    「そんなことは無いよ。私よりうんと歳上なのになぁ……とは思ってるけど」
    「似たようなもんじゃねえか! 顔が笑ってんだよ!」
    「ええ、そうかなあ」
     ロナルド君の手から逃れたジョンを抱き上げて、ついでにまだ少し泥のついた銀髪を撫でる。
     吸血鬼には招かれなければ入れないという性質があるが、それに関しても彼は規格外だ。勝手に入ってきて勝手に出ていく。それは裏を返せば、いつだってここを出ていけると言うことでもあるし、彼が選んでここに帰ってきていると言う証明でもある。
     だから私が笑っているのだとすれば、それは君がこうして帰ってきたからだ。とはまだ言わないでおく。
    「お帰り」
    「ヌヌヌリ」
    「……ただいま」
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