——いいかい?
君と一緒に過ごす子はね、とても繊細なんだ。
だから、驚かせたり、叩いたりしてはいけないよ。ずっと仲良く暮らすこと。
わかった?
ぬいぐるみが自我を持つのは、おかしいことなんだって。だからおれは、右手にはじいさんに書いてもらったお手紙を、左手にはどらこうの右手を握って、生まれてからずっとお世話になっていたぬいぐるみ工房を出て行くことにしたんだ。
おれは言いつけ通り、どらこうを守り続けた。大きい音が出る道は歩かない。虫が飛んでいれば退治する。疲れたと言えば一緒に石に腰を下ろす。そこまで過保護にしてやったからか、泣き虫だと聞いていたあいつは、噂と違って一度も泣かなかった。
どれくらい歩いただろうか。おれたちは、ようやく『しんよこはま』にたどり着いた。じいさんが、困ったらここに行きなさいと言っていた場所だ。もらったメモに書いてある文字と、駅の看板に書いてある文字のかたちが同じだから間違いない。
6972