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    Bluesky_sub73

    @Bluesky_sub73

    夢主らくがきがほとんど。

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    Bluesky_sub73

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    893パロ7

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    ヤッちまった"トディ"night.


    「……………は?」

     ——目が覚めたら、そこは知らない部屋でした。
     なんて、どこぞの小説にも似た一文が浮かぶのと同時にベッドから飛び起きる。きょろきょろと辺りを見回してみるけど、全く身に覚えがない。
     だけど最低限揃えられた家具に、ここがホテルの一室であることが分かって、ガンガンと頭が痛み出した。

    「う……」

     挙げ句の果てに、バスローブしか身につけてない身体と纏められた衣服。そして何より、のし掛かる倦怠感と関節の激しい痛み——間違いない、これはいわゆる“ワンナイト”というやつだ。

     ——やっっっちまった。

     やけに肌触りの良いシーツの上で頭を抱える。幸いというべきか、夜を共にした相手は先に目覚めていたらしくベッドには一人だけ。布団がまだ暖かいので、抜け出したのはついさっきのようだ。
     いったい誰と、どうして、なんで。などという思考が二日酔いの頭を駆け巡ったが、聞こえ始めたシャワーの音に慌てて衣服をかき集め身につける。卸して間もない下着、しかも可愛いやつを身につけていて本当に良かったと思った。転がっていたスマホを確認すればいつもならモーニングの仕込みを開始している時間で、さらに焦ってしまう。

    「なんでこんなことに……」

     下着を身につけながら、小さく呟いてみる。喉が少しひきつって掠れたのが妙に生々しくて嫌だ。昨日は早めに店を閉めて、隣町のバーに飲みにいっていた。いわゆる“お勉強”というやつで。
     だけど思い出そうにも妙に記憶が霞んでいて……ダメだ頭が痛くて集中できない。アルコールには特別強くもないので、量をセーブすることを心掛けていたはず。それなのになんてザマだ、穴があったら埋まりたい。

     ——こんな可愛い人に会えるなんて!

    「あ……」

     と、深く反省したところで店で出会ったサラリーマンを思い出した。出張を締め括る最後の夜にと、同僚と共に店にやってきたのだ。
     すぐ横の席に陣取ったその男はありがたいのか迷惑なのか、こちらをいたく気に入ってくれたようでやたらと乾杯したがり、絡んできた。もう少ししつこければ退散したところだが、絶妙にギリギリのラインを攻めてきたのでそれもできず、気づけば三杯四杯……いや五杯六杯。かなり飲んだと自覚もあって早めにお開きにしたはずが、サラリーマンは「もう少し話がしたい」と追いかけてきたのだ。

     ——それでこのザマか。

     断片的に思い出してきた昨晩の出来事に、頭痛がさらに酷くなった気がした。流されたというより、疲れもあって深く考えることを放棄してしまったと言った方が正しい。それほど、ここ最近巻き込まれているヤクザ同士の抗争とやらに疲れてしまってたのかもしれない。

     ——ガタン。

    「っ!」

     そんなことを考えつつなんとか着替えを終えると、シャワーの音が止まって肩が跳ねた。このまま顔を合わせるのはどう考えたって気まずいし、文字通りワンナイトで終わるのがいいに決まってる。
     音を立てないよう気をつけつつ素早く残りの身支度を終えると、ベッドから転がり落ちそうになりながらも財布から諭吉を引き抜いた。そうして昔話にある「三枚のお札」よろしくそれらをテーブルに叩きつけると、相手が浴室から出てくる前に部屋を飛び出した。

     ——どうか、これで許してくれますように。

     置き石にさせてもらった高級時計を見るに、こちらの負担が多すぎるような気もするが、出張先での思い出にカウントされることを強く願いたい。話ぶりを思い出すに女に金を出させるなんてプライドが許さないだろうし、これでもう会うことだってなくなるだろう。なんせ、こちらにはそれ以上の気持ちはないのだから。
     エントランスを飛び出してアプリで位置情報を確認すれば、幸いというべきか自宅から微妙に遠い場所。酔ってても防衛本能は機能していたことに心から安心した。
     始発が動き始める時間だったが、気を抜けば腰が抜けてしまいそうな身体と二日酔いの頭で乗り換えだのをこなす自信がなくタクシーを捕まえる。店近くのコンビニを行き先に指定したら、急に疲れが押し寄せて、ぐったりとシートにもたれかかってしまった。今日のモーニングは簡単なものしか用意できなさそうだ。



    「頭痛い……」

     なんとか店にたどり着いて、手早くシャワーを浴びてしまう。酔い潰れて寝ることも考慮して店内を改装したというのに、これじゃあてんで意味がない。
     顔を上げると、いかにも二日酔いな顔が映っていて苦笑い。首元に光るネックレスは手首に巻きつけたままにしていたはずだったが、どーしたんだろうか。似合うとでも褒められていい気分になってつけたとか? だとしたら痛すぎる。
     面倒だからそのままでいいや、などと棚から引っ張り出した下着を身につける。ワンナイトした割には痕も何もない素肌に遊び慣れてるなーなんて感心。そうしたら首筋にポツンと一つ見つけてしまいドキリとした……本当に遊び慣れている。
     なんとか身なりを整えて朝食をトースターに突っ込み、サイフォンの湯が沸騰するまで……とカウンターに座り込んだらなんだかもうダメだった。

    「はぁああああ……」

     トマトジュースを一気に煽って、ぐったりとテーブルに突っ伏す。コンビニで調達した頭痛薬は外に出るなりすぐ飲み込んだがまだ効いてこないらしく、ガンガンと痛む頭が押し寄せる後悔の念を助長した。

     別にアレが初めてだったわけじゃない。我ながら純粋すぎた武者授業時代、初体験とやらはプレイボーイにくれてやっていた。
     いや、プレイボーイだったというのは後から知ったことだったのだけど……優しくて同じ店で修行中の先輩。何度も遅くまで練習に付き合ってくれたので、まんまとその気にさせられたのだ。相手はどうやら日本から来た“ヤマトナデシコ”とやらと記念に一発やっておくか程度のものだったらしいが……。とにもかくにも、己の中にあった夢見る乙女的思考を自覚させられるとともに、男という生物はこうもアッサリとそれを裏切るものだと教えられた。
     それからはなんだかバカらしくなって、こうして日本に帰ってくるまでは何人か一晩だけの男の誘いに乗ってみたりと……我ながら若かったと思う。今じゃ考えられないお話だが、小柄なジャップ、加えて女の子というやつはそれだけでモテたのだ。

    「……」

     ——と若かりし、といっても数年前の記憶を遡ったところで再び後悔。ワンナイトで終わらせることができないのは、自分の方に思えてきた。
     時間が経ち少しずつ冷静になってくると、ぽつりぽつりと昨晩のことを思い出してくる。ベテランのバーテンダーが作るカクテルはどれも美味しくて、洗礼されます所作もとても勉強になった。常連と思しき人と、あのサラリーマンのような初見さん数名。朧げに顔を思い出していたら、あの時の会話が蘇ってきた。

    「もう少し話がしたくって」

    「それはどうも。でも店も出ちゃったし」

    「そうなの?じゃあ、近くのバーで一杯だけ。どう?」

     ——どうじゃないよ、断ってんじゃん。

     などと、腕まで取ってきたサラリーマンに今更ながら悪態をついてみる。
     だけど、まあ、その。悪くない夜だったような気もしてきた。一人で寝るのが当たり前だった夜を、ホテルとはいえ別の人間と過ごしたのは久しぶりだったし、ヒトの体温を肌で感じるのはなんとも心地が良かった。
     それになんだか……上手だった気もするし。丁寧に、だけど確かな熱を持って扱ってもらったような気もする。

    「……なるほど」

     これほどまでに尾を引いてる原因は、きっとそれだ。ワンナイトだしよく知らない人だけど、少し強引に引き寄せた腕、重なった唇や掻き抱くように全身を辿った大きな手、断片的に思い出す“彼”は情熱的に求めて触れてきていた。思い出して身体の奥が少し疼くのも、探られた良いところを繰り返し嬲られ、愛でられたからだ。おかげで喉がやばい。そりゃあ、“小柄なジャップとの思い出”ばかりを求められた夜とは一線も二線も画したものになるに違いない。
     本当のところはどうであれ、少しでも好意を持たれて過ごした夜ならばなんだか悪いだけじゃない気がしてきた。細かいことろは霞がかってまだだいぶん朧げだけど、朧げなまま良い思い出として残させてもらうことにする。
     なんせ、これからまた始まる日常はヤクザだの土地がどうのと姦しいに決まってるのだから。

    「おはよーっ飴ちゃん、いる?」

    「虎杖くん」

     そんなことを思いつつトーストを齧ると、数回のノックの後ドアベルが鳴る。元気な声と共にやってきたのは、そのヤクザ組織の下っ端で常連になりつつある虎杖悠仁だった。
     とてもその筋の人間とは思えないほど人懐っこい笑みで挨拶した虎杖は、朝も夜も変わらないカウンターの定位置に座るとモーニングセットを注文する。

    「今日は一人なの? 珍しいね」

    「んーん、今日もナナミンと仕事。今車止めてるから、もうすぐ来ると思うよ」

    「そっか、じゃあ急いでコーヒー準備するね」

     ——ナナミン。

     虎杖の口から聞いた名前に、ぞわりと胸の奥が騒めくのが分かった。彼のいうナナミン、七海建人はここ最近抗争を起こしている組の一つ、五条会幹部の一人で虎杖の上司に当たる。相手組織の人間と比べれば随分と紳士的な男だが、裏社会の人間よろしく持ちかけてきた取引はそれを意識せざるを得ないものだった。
     彼もまた常連、しかも上客になりつつあるのはありがたいが、その魂胆はわかりきっているので素直に歓迎できない。
     そもそも抗争の渦中にいるのは、二つの組織が繰り広げる地上げ合戦の対象にこの店が含まれているからだ。ただ脅し取ろうという姿勢は大変に気に食わなく、だからこちらも“借りている”外国人男性を紹介する気にならないし、自分で探し出しやがれというお話だ。
     そう突っぱねてやると、五条会は店の常連になって圧をかける作戦に変更したようだった。

     ——つまるところ二日酔いの脳味噌で対面したい相手ではないのは確かなので、先程良い思い出に傾きかけた昨晩が悪い思い出の方へとぐっと傾いた。
     そんなことを思いつつ食べかけの朝食を手早く片付けてトーストを準備すると、カウンター越しの虎杖がじっとこちらを伺っていることに気づいた。

    「どうしたの?」

    「いや、昨日飲み過ぎてたみたいだから大丈夫かなって。だから具合悪いかもと思ったけど、モーニング食べに来ちゃったんよ」

     これ、などと“ウコンの力”をカウンターに置かれて、また埋まりたくなった。誰か地面を掘ってくれ、今すぐ。

    「あははは……お察しの通り二日酔いだから、簡単なプレートだけど許してね」

    「うん、大丈夫。無理せんでよ」

    「ありがとー」

     もらった金色の缶をありがたく頂戴すると、虎杖は安心したように微笑んだ。これで堅気じゃないというのだから、裏社会というのは奥が深いのだろうと思う。
     少し厚めに切ったトーストにバターを乗せトースターに入れたところで、ふと手を止めた。そういえば、外のドアプレートをひっくり返した覚えがない。

    「もしかして、ドアのプレートCloseのまま?」

    「うん。だからノックしたの」

    「あ、そっかー。ごめん、ちょっと外出るからサイフォン見ててね」

    「おっけー」

     慌てて店の外へ出て、ドアプレートをOpenへとひっくり返す。気分は全くオープンじゃないが、仕方がない。もうすぐ常連たちもやってくるはずだ。

     ——まったく、虎杖くんにも心配かけるし習慣を忘れるし何をやっているのやら。

     足元を見ればどこかから飛んできたらしい花弁が散らばっていて、これも見落としていたことにガッカリした。裏から箒とちりとりを持ってきて軽く掃く。
     すると視界の隅に革靴が映り込んだ。

    「いらっしゃい七海さん。虎杖くんなら中で待ってますよ」

    「……」

     件の男、七海建人のご来店にまた頭が痛んだが、にっこりと微笑みを浮かべ歓迎する。
     すぐ側に立った男はクォーターよろしく高い位置から見下ろしており、あんまりいい気分じゃない。しかも無言。ぶっちゃけ怖い。

    「モーニングですよね? お恥ずかしながら二日酔いで簡単なものしか用意できませんが……お待ちください」

     流れる沈黙が嫌で自らドアを開いて誘導し、そそくさと裏に消える。挨拶をすれば返してくれる仲だったというのに、今朝はどうやら虫の居所が悪いらしい。お陰でペラペラと聞かれもしない体調のことまで話してしてしまったではないか……などとちょっと恨み節。
     だけどどうやら頭痛薬と虎杖にもらったドリンクのお陰で幾分か二日酔いも楽になってきたらしく、沈黙を誤魔化すくらいの頭の回転は戻ってきたようだ。
     だけど、ふと足を止める。

    「あれ、そーいえば……なんで虎杖くん二日酔いのこと知ってたんだろう」

     昨日の記憶を辿ってみても、虎杖と顔を合わせた記憶まな板。この店で誰かと一緒でも必ずあの席に座るし、例えそうでなくとも、来たお客さん、ましてや常連さんの一人を認識していないはずはなかった。
     まだ朧げだけど酔う前の店での出来事も、閉めてあのお客さんに声をかけられたことまで覚えてるし……じゃあどこで虎杖と会ったのか。

     ——もしかしなくともホテルの前?

     いやいや、それならあんな聞き方はしなかったはずだ。虎杖くんは……。

     ——飴ちゃん、大丈夫? 

    「……あれ」

     男に腕を取られたあの時、肩越しに見えた景色の真ん中に虎杖がいたのを思い出した。
     そして、誰かに支えられながら慌てて帰るサラリーマンの背中を見送ったことも。

     ——具合悪いんじゃないの? オレ水買ってくるよ。

     酔いのピークでうまく回らない思考と朧げな視界の中で、心配そうにこちらを覗き込む虎杖。その彼がふと視線を上げ口を開く。

     ——だからそれまで飴ちゃんのこと見ててね、ナナミン。

    「え……、っ!」

     虎杖の言葉を最後まで思い出すと同時に、大きな手がすぐ側に現れ、バタンッと乱暴に倉庫の扉が閉まった。
     スーツに包まれた腕とふわりと鼻をくすぐるコロンに、後ろに立つ人物は振り向かなくとも分かる。みしりと音を立てる倉庫に抗議の意味も込めて、名前を呼ぶが、それを遮るようにして後ろの男——七海が口を開いた。

    「まさか、逃げてしまうとは思いませんでした」

    「!」

     落ちてきた吐息にも似た囁きに、冷や水を浴びせられたように身体が硬直する。“逃げた”それが、つい先程のやり取りをさしているだなんて、そんな現実逃避は最早通用しない。
     バクバクと心臓が大きな鼓動を立てて、喉が引き攣る。だって、そんなまさか。
     大きな手のひら、袖口から覗く龍の眠る腕、肩……ゆっくりと振り向く視線が七海を模るものたちをひとつひとつ辿っていく。太い首、高い鼻と変わった形のグラス——色の入ったレンズの奥に、青みがかった緑の瞳が隠れていることを……あの夜知ったのだ。

     ——こちらを見てください。

    「……っ」

     甘美な熱を持って紡がれた名前を思い出して、頬に熱が迫り上がってきた。
     そして、自分がそれを受け入れ身を任せたことも。
     はくはくと戦慄く唇に七海は切長の目を鋭く細めると、扉からゆっくりと手を離し頬をたどる。あの夜を彷彿させるような優しい指先に大袈裟に肩を揺らすと、七海はくつりと喉の奥で微笑った。

    「これはお返ししておきますね」

     耳元に近づいた唇がそう囁くのと同時に、大きな手に指を絡め取られる。
     掌に握らされたのは、あの部屋に置いてきたはずの三枚のお札。離れぎわに首筋——あの痕を撫でた腕にきらりと時計が光るのが見えて、疎いくせにどうしてあの時あれを“高級時計”だと断定できたのか……ようやく知るのだった。

     ——なにが悪いだけの夜じゃない、だ。こんなの、全部悪いに決まってる……!


    終わり

    ウィスキー“トディ” 「誘惑の仕草」
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