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    hidaruun

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    hidaruun

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    さみさに♀/雨さに♀

    #さみさに
    onInformationAndBeliefs
    #雨さに
    inTheRain

    疲れて五月雨に甘える審神者からりと戸を開けると本を読んでいたらしい五月雨がそれを素早く閉じるのが見えた。気候の何か小難しそうな研究職の人が読みそうな本だと彼女はあまり働かない頭で思った。五月雨は立ち上がろうともしたので「そのままでいいの」と座らせる。
    「何かありましたか?」
    「何もない」
    首を振りながら彼女は五月雨のすぐそばに座ると肩のあたりに頭を預けるようにしてぎゅっと抱きついた。
    「え」
    びくりと僅かに震えた体と降ってきた珍しい声に口元が緩むのを感じた。

    彼女はここ数日徹夜続きだった。まあ仕事をだらだらと溜め込んでいたのが悪いわけだけれども、おかげでなかなかの疲労困憊っぷり。ひと段落したからお日様が天高く登っている時間帯だけど布団でも敷いて寝ようかと思ったのにどうにもこうにも眠りにつけなかった。
    今、体が欲しているのは睡眠では無いらしい。彼女はぼんやりと天井の木目をしばし見つめてから「そうだ」と布団を抜け出して五月雨の部屋にやってきたのだった。
    「あの……お疲れでしたら、部屋で横になった方がよろしい……かと」
    「んー」
    声から五月雨の戸惑いが伝わってくる。彼女はこんなこと滅多にしない。わざわざ部屋を訪れてなどしたことがない。くっついてくるのはだいたい彼女の部屋で、五月雨の方から。したくない訳では無いけれど、いつもは恥ずかしくて進んでそういうことは出来ない。でも、今はそれよりも疲れが上回って癒しがほしいからこんなことをしてしまっていた。照れとかそういうのは何処かに消え去っている。
    内番服の薄い生地が頬に触れていた。ジャージが掛かっている側の方が枕みたいになったかなと一瞬考えたけれど、この薄い生地の向こうから感じるしっかりとした筋肉と体温が心地良いからこのままでいいやと彼女はすりっと更に頬を寄せる。
    「…っあ、の」
    その行為に焦ったような声がまた降ってくるので、今度はつい声を出してくすくすと笑ってしまった。普段は遠慮なくくっついてくる癖に。
    「ふふ……」
    「………頭」
    今度は拗ねたような声。低い、静かな声が体を通って内側からも響いてくる。咎められているはずなのに包み込まれるような安心感を得てしまって更に肩に体重を乗せる。
    「うん」
    返事はすれど瞼を開ける気になれなかった。そんな彼女の様子を見て諦めたのか、五月雨がゆっくりと肩や背中を撫でていく。大きな手の優しい動きは微睡を誘う。眠くなくてここまで来たのにやっぱり眠たいらしい。珍しく慌てた様子の五月雨の顔も見たかったけれどそれはまた別の機会に。起きたら彼女はいつも通りかもしれないけれど、今だけ、少しだけ、もう少しだけこのままで。
    揺らぐことのない五月雨の体に全てを預けて彼女は眠りの中へと旅立っていった。
     
    ◇◇

     彼女の突然の行動に動揺はしたけれど、嫌なはずもなく五月雨はすやすやと自らの腕の中で眠る小さな体を優しく撫でながら目の前の男に視線をやる。
    「普通、出ていきませんか?」
    「いいだろ別に」
    机を挟んで向こう側。彼女が入って来るよりも前から五月雨とともに菓子をつまみながら休憩をしていた豊前が頬杖をついてこちらを見ていた。緩く細められた赤い瞳はどこか楽しそうだ。
    「可愛いな」
    「……」
    「怖い顔すんなよ。そういうんじゃねえって」
    甘えてくる彼女はとても珍しいので五月雨としてはあまり見られたくなかった。それが顔に出たらしいが豊前は淀みなくからりと笑う。
    「纏めてってことだよ」
    「纏めて?」
    「おう」
    豊前の顔は穏やかで、五月雨は何か言いかけた口を閉ざす。まるで兄が弟を見守るような、そんな慈しみすら感じる表情に五月雨は机の上に残った茶菓子に視線を落とすしかなかった。
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