告白される話手からペンをぽろりと落としてしまった。
それくらい彼女はとても驚いていた。何故なら目の前の涼しげな顔をした男にたった今、愛の告白をされたからだ。戦績の報告をするかのようにやってきては近侍の最中に歌を詠みあげるのと変わらぬ声色で彼、五月雨は彼女に好意を告げた。「ひとりの女性として」なんて枕詞をつけられて「好きです」と、聞き間違いも勘違いもできないくらいはっきりと伝えられてしまった。
「あ、の……」
ペンを落とした彼女もまた、五月雨に恋心を抱いていた。でもそれは隠し通すつもりだった。こんなものあったってしょうがない。きっといつか困らせる。初期刀にだって言ってないし、気づかれてもいない。誰にも伝えることなくいつか消えていくはずのもの。だから、この告白に対しても刀と審神者の間柄であるべきだとペンを拾いながら主らしく諭すべきだったのに声が震えてしまったことに彼女はしくじったと思った。穏やかな海のように凪いでいた五月雨の瞳に波が起こる。
五月雨もまた、実るものでは無いと思いながら告げたのだろう。実際、彼女は自分の気持ちを上手く隠していた。今の今までは。
「頭」
想いを伝えた時とは打って変わって声に期待が篭っているのがわかって、彼女は目を伏せる。なんとか誤魔化さなければと思うが既に遅く、五月雨は畳の音すら立てずに素早く彼女との距離をつめてきた。
「ま、待って」
突然近づかれたその距離を保つ為に咄嗟に手のひらを五月雨の方へと向ける。
「あ、の。その……待ってほしくて…」
このまま流されてはいけない。なんとかしないと。何か上手く言わなければと考えていた彼女の手のひらに柔らかな感覚が触れる。同時に静かなリップ音が耳に届いて彼女は勢いよく顔を上げた。五月雨の顔が手のひらからゆっくりと離れていく。
「なぁっ!?は……えっ!?」
「頭が望むのでしたら待ちましょう。待ては得意です」
「え、あ……」
なんでそんなに普通の態度なんだと、告白しにきたくせにと、言えもしない言葉が胸の内だけで巡る。口付けられた手を反対側の手で守るように抱え込みながら、最早まともに言語を紡げない彼女を尻目に五月雨は淡々と続けた。
「しかし……これを無かったことにはしませんので」