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    gre_maimai

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    gre_maimai

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    世界線ifカイいちバレンタインデー

    ifififiif「始音くん、受け取って下さい!」
     女の子が綺麗にラッピングされた箱を俺に差し出してきた。
     今日はこれで四回目だ。
     バレンタインデーという日は、去年まで縁の無い催し事だった。
     しかし去年、何となくメイコと参加したら一定期間限りの文化祭の出し物の為のバンドに参加して、大人数が見つめる体育館のステージに立った以降、よく女の子に告白されるようになり、バレンタインデーもこんな感じにチョコレートを贈られる。
     その度、大好きなあの子の笑顔が頭の中に過ぎる。
    「悪いけど、俺、恋人いるから、受け取れない」
     胸をギュッ、と締め付けられる感覚に耐え、偽りなく断れば、女の子は一瞬顔を歪ませたが、無理して笑顔を繕った。
    「ううん、平気、えっと、彼女って咲音さん?」
     それを聞かれるのも今日で四回目。メイコとは腐れ縁で幼い頃から一緒だったけど、近過ぎて一度も恋愛感情を感じた事はない。
    「いや、メイコじゃないよ、他校の子」
     女の子はそっか、と漏らしてから軽く会釈してその場を立ち去った。
     呼ばれたのは俺の方なのに、一人取り残され、身勝手だが虚しさを感じた。
     それでも、今日はバレンタインデーだ。
     贈り物は好きな女の子の物を一番に欲しい。そんな俺の我儘を許して欲しい。

     しかし、だ。
    「そしたらミクがね、お弁当のネギを食べてね」
     隣で好きな子——一歌が楽しそうに本日の昼食の話をしている。つい、釣られて顔が綻ぶ。一歌が毎日楽しそうに過ごせて俺も嬉しい。
     練習の後、いつものように一歌を家まで送る。その間に他愛のない話をするのが好きだ。話をする、より、話を聞くという意味合いの方が正しいかもしれない。
     ただ、バレンタインデーの話題が一切出ない。一歌も、何か特別な物を手に持っている訳でもない。肩にはスクールバック、そしてギターケースを背負っている。
     一歌は、そういう催し物疎い、という訳ではない。近くに咲希もいるし穂波もいる。忘れたという事はなさそうだ。
     いやいや、下心丸出しだ。
     贈り物を貰えると確信してるなんて、阿保だ。浮かれ過ぎだ。
     一歌の事を一方的に好きなのは俺だ。一歌は別に俺の事を初めから恋愛感情として好きな訳ではない。
     去年から付き合い始めたから、貰えない事もある筈だ。もうすぐ、一歌の家に到着するし、今年は諦めよう。来年のバレンタインデーに贈り物が貰えるようにもう少し努力しよう。少しでも一歌に俺の事を好きになって——
    「カイト」
     不意に一歌に呼ばれ、一気に現実へ引き戻された。不味い、話を聞いていなかった。背筋が凍る。既に一歌に好かれる第一歩はスタート地点が遠くにあった。
    「ごめん、どうしたの?」
     一歌を見ると、口元を固く紡ぎ、こちらを真っ直ぐ見ていた。表情が少し強張っている。丁度街灯の下にいるから彼女の頬がほんのり桃色に染まっているのも確認出来た。
     絶対話を聞いていなかったから、怒ってる。終わった。別れ話だ。死ぬまで引き摺りそうだ。
     目紛しく感情が下へ下へと下がっていると、一歌は意を決したように口を開いた。
    「カイト、ハッピーバレンタイン!」
     一歌は鍛え上げられた声量のまま叫び、何かを俺に差し出した。
     一歌の手には、透明ビニール袋とリボンで綺麗にラッピングされたガトーショコラが乗っかっていた。
    「バレンタインデーだし、初めての恋人だから気合い入れて手作りしてみたんだ、ちょっと甘さ控えめにして、えっとカイトはモテるから沢山お菓子貰いそうって思って、でもメイコから女の子からの贈り物断ってるって聞いて、そしたら私も渡さない方がいいのかなって、でも渡したいって気持ちの方が大きくて、私の勝手な気持ちの押し付けだけど、受け取って欲しくて、あ、でも嫌なら受け取らなくていいよ! 誰でも嫌な物はあるだろうし」
     早口で一歌は言い切り、その後少しハアハア息を切らしていた。
     俺はというと、暫く呆然と一歌を見ていたが、遅れて胸が高鳴った。
     嬉しい、嬉しい。嬉し過ぎて天に召される。
     自分勝手な感情のまま衝動的に小さな彼女の体を抱き締めていた。
    「か、か、か、カイト!?」
     一歌は驚きのあまり暫く腕の中で蠢いていたが、少し経って落ち着いたのか、おずおずと俺の背中に片方お菓子を持ったまま手を添えた。
    「凄く、嬉しい、死にそうだ」
    「死!? それは駄目だよ」
     慌て出す可愛い一歌の頭を優しく撫でてやれば、彼女はコロン、と体を俺に預けてくれた。
    「ありがとう、一歌」
    「ふふ、どう致しまして」
     感謝を述べれば、鈴の音みたいな優しい声が返ってきた。

     俺の事を考えて作ってくれたガトーショコラは甘さ控えめで優しい味がした。
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