デクの香水にまつわる話(つ、ついに来てしまった……)
伝票やら何やら色んなシール類が貼られた小さな段ボール箱を目の前に、俺はやけに緊張していた。ロロとララは学校に行っている。開けるなら今しかない。ピノと頷き合って覚悟を決めると、蓋を止めているガムテープを乱暴に剥がした。
中には緩衝材に包まれた手のひらサイズの箱がひとつ。それも更に開ければ、ようやくお目当てのものにたどり着いた。
ヒーロースーツを模したグリーンベースのデザインに、箔押しされた文字がキラキラと輝いている。
“HERO FRAGRANCE”
“DEKU”
ヒーローデクのコラボ香水。ヒーローは人気商売なため、こうしたグッズが度々出る。まだ個人事務所を持たない身でありながらデクの人気は高く、コラボ香水も大変好評で出るのはこれが三度目だった。俺がデクコラボの香水を買うのもこれが三度目。友人のコラボ香水を個人輸入してまで買うのは流石に引かれそうなので、デクには内緒にしている。
ただ最初の二つは所謂イメージ香水で、正直これがデクの香りだと言われてもピンとこなかった。可愛すぎるというか、爽やかすぎるというか。可愛いのも爽やかなのも否定はしないが、俺の知っているデクはもっとこう…まあつまり、カイシャクチガイってやつでちょっと不満だったのだ。
その点今回の香水は全くの別物で、なんとデクが選んだ香りで調香されているという。
早速左の手首にひと噴きすると、花のような優しい香りがふわりと広がった。どこか懐かしさを覚える、俺もわりと好きな香りだ。ピノもうっとりと香りを楽しんでいる。これなら、たまには使ってみてもいいかもしれない。
「お兄ちゃんただいま!」
「おー、おかえり。ララ」
「……なんか、いい匂いがする」
ピノによるおかえりのキスを受けながら、ララが言った。
「なんだっけ……あっ! 昔使ってた石鹸!」
ララの言葉に、なるほど懐かしい感じがしたのはそれかと納得する。俺が航空会社に就職するより前、自由になる金が少なかった頃に、洗濯にはもちろん身体を洗うのにも使っていたオセオンに昔からある石鹸だ。色んな花やハーブを使った独特の香りは観光客にも人気があり、お土産代わりに買う人もいるらしい。
「懐かしいな~。あの香り結構好きなんだよね」
「お兄ちゃん、顔赤いけど大丈夫?」
洗面所から戻ってきたララが言った。
「な、なんでもねえよ!」
きっと、偶然に違いない。