Dom/Subユニバース参謀×将校ぐぐぐ、と腕を強く引っ張る。
しかし私の腕に巻かれている縄はびくともしない。
何度も何度も腕を引っ張り縄から抜け出そうとしてみるがどれも失敗に終わった。
ならば、と床に腕を擦り付け縄が抜けないかと試してみるが柔らかいカーペットの上ではそれも効果はなかった。
私は早くここから出なければならないのに‥‥!
今、この時間、本来ならば私は森の民と町の民の和平条約のため、宝を交換を行なっているはずだった。
しかし、それは参謀‥いや、大臣の部下に邪魔をされてしまった。
奴は森の人々と町の人々はいがみ合っていなければならない、と言っていた。
一刻も早くここから出ないと双方による争いが始まってしまう。
今まで全くやつを疑っていなかった自分の愚かさに苛立ちを覚えながら何とか脱出できないか、と必死に体を動かす。
部屋の中をぐるぐると歩き回っているとふと、
後ろ手でも窓は開けれるのではないか、うまくいけばそこから逃げることも可能なのでは‥!
そう気づき窓に手をかけようとした時だった。
ガチャリと音がした。
はっとして扉の方を向けばそこにはヤツが立っていた。
「音がするので気になってみにきてみれば‥‥。
‥‥この部屋はダメですね。あなたを閉じ込めるのは地下の方にしましょう。今あなたに逃げられると困るんですよ。」
「貴様‥!!!この縄を解け!!私にこんなことをしてタダで済むと思うなよ‥!」
「何もできないというのに態度だけは横柄ですね。今いや、これからも貴方にできることなんてないでしょうに。今回の和平条約は貴方の逃亡によって失敗。そのあとのこのこと戻ってきた貴方のことを誰が信じるのですか?」
そう言って私を見下してくる奴の目を私は睨むことしかできなかった。
このままでは奴の言う通りになってしまう。
だからこそ、早くここから出なければ。
私は素早く窓の扉を開ける。
高さはあるがここから落ちたとしても死ぬことはない、はずだ。
怪我はしてしまうだろうがそんなことを気にしている暇はない。
そう考え飛び降りようとした時だった。
「stop」
その言葉を聞いた途端私の体はぴたり、と時が止まったかのように動かなくなった。
早くここから飛び降りてこの場から離れるべきなのに。
頭ではそう思っていても動くことができない。
この言葉に逆らってはいけないと本能が体に訴える。
「ふふ。もしかして、とは思っていたのですが、貴方はやはりsubだったのですね。」
そう言って奴は私をみて笑っていた。
何故‥!
私がsubであることは軍の中でもごく一部しか知らない。
大臣に派遣されて私の元にやってきた奴が知るはずもないのに。
「何故という顔をしていますね。まぁ、うまく隠せていた方だとは思いますよ?実際他の者はみな、貴方がdomだとすら思っているようでしたし。しかしまぁ、domが多い軍の中でよくバレずにここまでやってこれたものですよ。」
そう言いながら奴はゆっくり近づいてくる。
私の体は一歩も動くことができない。
今すぐ逃げ出してしまいたいのに。
あの男から早く‥‥!!
動かずその場に立ち止まっている私の目の前にやってきた男は私に向かってにやりと笑った。
「good boy」
「‥う、あ‥。」
その一言を聞いて私の体は膝から崩れ落ちる。
「おや、命令していないのにkneelしてしまうとは。将校殿は案外従順なsubなのですね。」
男はそう言ってくすくすと笑いながら私の頭を撫でる。
私はその手を振り解けなかった。
体が動かない。
感じたことのない感覚に頭が回らない‥。
ふわふわとして暖かい。
‥‥もっと褒めて欲しい‥‥。
ぼーっとした頭で私は男に撫でられ続けていた。
そんな私に気を良くしたのか男はふふ、と笑って
「sleep」
‥‥私の意識は途切れた。
***
ハッと目を覚ますとそこは薄暗く、全く光の差さない空間だった。あの男が言った言葉を信じるならば、おそらくここは地下なのだろう。
より脱走が難しくなった状況に頭を悩ませる。
どうして私はあの場で逃げることができなかったのか。
自分はsubではあったが今までdomに命令されても従うことはなかった。今まで、私の中にあるsubの性はまともに機能していなかった。subでありながらplayする必要もなく、domの命令にも従わない。
domが多い軍の中でもここまでやってこれたのはそのおかげだった。
だからこそ、自分がsubであることでこんなことになってしまうとは全く警戒したことがなかった。
何度か私の性を知る者からplayの経験があった方がいいと言われていたが、必要性を感じず断っていたことを悔やむ。
少しでも耐性をつけていればあの状況から逃げ出すことができたかもしれないのに‥。
初めて感じたあの時の感覚を思い出す。
体がいうことを聞かず、頭がふわふわとして‥‥。
ゾクリ。と体が震える。
私はハッとして考えていたことを頭から振り払い、思考をここからどう脱出するかに向ける。
しかしいい案は思い浮かばず、苦慮していた時、コツコツと誰かが近づいてくる足音がした。
私の目の前に現れたのは奴だった。
こいつ以外で有れば無理矢理にでも抵抗して脱出できたかもしれないのに、と内心で舌打ちをする。
そんな私を奴は面白そうに見下していた。
「お目覚めですか?将校殿。」
「‥‥‥‥。」
「おや、無視ですか。まぁ、いいでしょう。先程は貴方を移動させるために眠らせてしまったせいで話が聞けなかったのでね。今度は話をさせてもらおうかと思いまして。」
「話、だと?」
「貴方が隠した宝の場所を教えていただきたい。捉えた時、すでに貴方は宝を持っていなかった。万が一を警戒して隠しておいたのでしょう?宝が見つからずとも町の人々と森の民は争いを始めるでしょうけど‥。それはさておき、森の民の宝は黒い油を手に入れる上で必要なアイテムとなっていましてね。我々が黒い油を入手するためにはそれを手に入れなければならないのですよ。」
「貴様に話すことなどない。宝の在り処が知りたければ私を解放することだな。貴様が牢に入った後でよければ教えてやる。」
「ふふ、なかなかに強気なようで。先程はあんなに従順だったというのに。」
「‥‥黙れ!」
私は奴を睨み付ける。
男は楽しそうにくすくすと笑う。
「貴方が離したくないと言っても関係のないことですよ。貴方から無理矢理聞き出せばいいのだから。ねぇ?」
「say」
はく、と息を吸った。
そしてそのまま開きかけた口を慌てて閉じる。
私は奴の命令に従ってしまいそうな体を必死に押さえつけていた。
二度と貴様の思い通りになどやってやるものか‥!
そう強い意志を持って私は奴を睨み付ける。
「おや、まさか耐えるとは。流石は軍の中でやってきただけはありますね。」
奴は面白いものを見たとでもいうかのようにを見下ろす。
「私のdom性はかなり強い方のようで、大抵のsubは私のコマンドに従うのですが‥。貴方はdomに対する耐性が強いようだ。‥いや、subとしての性がまだ不十分ということかも知れませんね。」
奴はそう言ってガッと私の頭を掴み、無理矢理目を合わせる。
そして再び
「say」
身体中に電流が走ったかのようにビリビリと痺れる。
逆らってはいけない。
話さなくては‥‥。
奴の威圧感に従ってしまいそうになる体を必死に押さえつける。
言葉を発してしまわないように噛み締めている唇からは血が滲み出していたが、そんなことを気にする余裕などなかった。
ただ、奴のいいなりにならないようにするのに必死だった。
奴に従ってしまいたい。
そう訴えてくる本能を押し殺しながら奴を強く睨み付ける。
貴様の命令など聞くものか!
そんな私に奴は驚いた顔をした後、目を見開き、心底楽しそうに笑った。
「まさかここまで抵抗するとは!私のglareを浴びてここまで抵抗できたsubは貴方が初めてですよ!」
男は楽しそうに笑い、そして
「kneel」
警戒していたコマンドと違ったものに私の体は思わず反応してしまう。
ぺたり、と座り込んでしまった私を奴は嬉しそうに見下した。
「good boy。ふふ、反発的なsubほど服従させるのが楽しそうだ。」
そう言って奴は舌舐めずりをしながら俺を見ていた。