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    1班

    #さざれゆき又鬼奇譚

    居待月の夜が更ける

     夜の東京タワーを後にする。
     ガンケースを担ぎ直す奉一の隣で、伊緒がスマホでUGNとやりとりをしている。淡々と、ジャームを討伐した旨と、詳細な報告は後日行うことを告げている。そうすれば近くの空間が歪んで、UGNエージェントが現れた。「ご自宅までお送りします」と労う声音を二人に向けた。

     ――二秒で帰宅。我が家の玄関。パチリと明かりをつける。夏の生温さが充満している。

    「はあ〜〜……疲れたあ〜〜……」
     エージェントの気配が消えてから、伊緒が盛大に溜息を吐いた。
    「……そうだな」
     流石の奉一も疲労を感じていた。今日は朝から本当に――色々あった。
    「おい、床で寝るなよ」
     靴を脱ぐ為に座ったまま伊緒がぐったりしている傍ら、家に上がる。「寝ないよ〜」なんて既に眠そうで信憑性の低い声を背中で聞きつつ……いつもの場所に、正座をしてから丁寧に銃を置く。その様はさながら刀と侍の関係性か。男は顔を上げた。姿勢を正し、傍らにある仏像を隻眼で見据える。
     数秒。沈黙。目を閉じて……、開いた。
    「ほういち〜おいでよ〜」
    「……ああ」
     呼ばれている。立ち上がる。二人とも腹が減っていた。

     ――「クーラーつけよ?」「夜はもう涼しいだろ」「え〜暑いよ〜」「窓を開けるので十分だ」「生ぬるいってえ〜」――そんな問答の結果、ジャンケンをして奉一が勝ったので、クーラーは無しになった。

     晩ごはんはうどん。
     食べながら伊緒が物凄く眠そうにしている。食い意地と眠気が激しくぶつかり合っている。うつらうつらしながら海老天を齧る。「おいひい……」と寝言みたいな声。たまに数秒寝ている気がする。
    「……寝るか食うかどっちかにしろ」
    「食べる……」
     ずぞぞ、と丼を持って出汁まで飲み干して、伊緒は空の器を置く。なおスーツ姿ではなくTシャツにハーフパンツだ。流石に、下着姿での飯は許さない奉一である。
    「お風呂めんどくさい……もう寝る……眠すぎて死ぬ……」
     朝にシャワー浴びるから、と伊緒はよろめくように立ち上がり、目をこすりつつ歯を磨きに行った。
     ……血液使いでもないのに血液をたくさん使って、ぶっつけ本番の異能や負荷の大きい異能を使って。あそこまで疲労するのも、さもありなん。昼間は一時的に横になっていたぐらい疲弊していたのだから。
     だから奉一は特に何も言わない。ちゃぶ台に置きっぱなしの食器も片付けてやった。
     そうして奉一が風呂で汗を流して戻った頃、伊緒は既に暗い寝室で眠っていた。奉一の布団が隣に敷かれている――眠かったろうに、わざわざ敷いてくれたのだろう。ただし睡魔のせいでちょっと雑いが。
     奉一は小さく鼻で笑った。布団の側では扇風機が、ゆっくりと首を振っている。その足元に充電コードの刺さった伊緒のスマホ。脱ぎ捨てられたハーフパンツ。投げ出された伊緒の腕の、日に焼けていない白い内側。静かな寝息。穏やかな寝顔。
     雑く敷かれていた布団を整えて、奉一も横になる。そういえば先に伊緒が寝ているのは久し振りだったな、なんて思いながら――目を閉じる。
     明日は休日で、予定があった。アフタヌン……ナントカ……に伊緒がついてきて欲しいと。予約限定で二名からしか予約できないものだとかで……――なんて思っている内に、奉一もまた、いつの間にか眠りに落ちていたのであった。


    『了』
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