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    侠太郎のテキスト https://x.com/Xpekeponpon/status/1767410179203883137?s=20 これの

    #さざれゆき又鬼奇譚

    オリオンの名が泣くぜ ●

     音界の王、ハヌマーン。
     身軽で、敏捷に優れ、風と音に愛された者達。
     ハヌマーンシンドロームは、その特性から音楽やダンスが得意な者が多い。侠太郎もその例に漏れず、歌と踊りが好きだった。

     都内某所ビル、UGN管轄のスタジオ。
     オーヴァードがジャーム化しない為には、日常への未練や絆が不可欠である。ゆえにUGN内ではエージェント同士の交流を推奨しており、このスタジオはここらのハヌマーンシンドロームの者を中心としたサークルの拠点であった。
    「――――♪」
     心地よい風が吹き、心臓を震わせるビートが鳴り響き、超人達は軽快に踊る、愉快に歌う。
     命の謳歌、魂の讃歌、自由の宴。
     侠太郎もその中に居る。歌と踊りの前では、年齢も種族も無意味である。笑って、声を弾ませ、歌って、踊り、躍る。
     楽しい。楽しい! 歌はずっと好きだ。心が満ちて、世界が色鮮やかになるから。

    「――は〜今日も楽しかった!」
     スポーツドリンクを飲み干して、笑って。そろそろ夕方だった。今から帰ればいい感じに晩ごはんの時間になるだろう。
    「俺ぼちぼち帰るわ」と、まだ残る面子に挨拶を。「うぃーす」「八代さんおつ〜」とフランクな声が返ってくる。
     と、そんな中で。
    「あ。私も帰ります」
     一人のエージェントが、仲間との会話をやめてひらりと離れた。まだ若い、数年前まではUGNチルドレンだった乙女だ。
    「ども。八代さんおつでーす」
     大人しいかヤンチャで言えば後者のタイプの外見をしている。ラメの乗った瞼が微笑む。「おう」と侠太郎は当たり障りなく笑みを返した。
     ……最近、彼女と帰宅時間が被っている。歌って踊っている時も、よく一緒にやろうと絡んでくる。それ以外でもよく話しかけてくる。ねだられるままメッセージアプリのIDも交換している。実は今日も、「八代さん今日来られるんですか?」というメッセージが来ていたので、「うん」と返したら、「じゃあ私も行きます!」なんて言葉が可愛らしいスタンプと共に送られてきていた。
     彼女に懐かれていると思う。だがしかし、正直な話、侠太郎としては、若い婦女子は未だに苦手だ。三つ子の魂百までというが、少年期に形成された婦女子への忌避感は、侠太郎の自覚以上に根深いらしい。
     だが嫌悪感を丸出しにしても誰も得をしないし、彼女を徒に悲しませるのも侠太郎としては「しょーもない」ので、それとなくやりとりをしている。

     バイクに乗る為、ビルの地下駐車場へ。エレベーターや道中で語られる、彼女のバイトや大学の話に相槌を打つ。へー。そうなんや。大変やのう。ふんふん。へえー。ええやん。
    「八代さん」
     バイクの前で、彼女がジャケットのジッパーを上げながら言う。「ん?」と顔を上げると、彼女と目が合った。
    「侠太郎さんって呼んでもいいですか?」
    「ええよ、好きに呼んでもろてかまへん」
     なんや呼び方のことか。気軽に返して、……しかし、彼女の眼差しが未だ据えられている。
    「……全然、動じないんですね」
    「なんで? 俺が動揺する意味が分かりおまへんわ」
    「結構ストレートにアプローチしてるのにな」
    「なに……どゆこと? さっきからよう分からへんよ、分かるように言うてよ」
    「侠太郎さんって割りと鈍いですよね」
    「あ゙? なんやとコラ」
     馬鹿にしとんのかと、ヘルメットを被りかけていた手を止めて睨み付ける。
     瞬間だった。
     しなだれかかる柔らかい身体、肩に置かれた手、寄せられた顔、若い女の甘い香り、――
    「ッ」
     唇が触れる寸前、飛び退いていた。
     電光石火の速さで、ほとんど反射的に。
     取り落としたヘルメットがガランガランと彼我の間で揺れていた。

     その後のことはよく覚えていない。何か怒鳴ったと思う、どんな言葉になっていたか分からないが。暴力は振るっていないはず、それは駄目だと必死に堪えたから。
     彼女がギョッとした隙に、ヘルメットを拾って着けて、バイクに跨って走り出して、法律違反の速度で飛ばして、気付いたら自宅の前に居た。尤も、厳密には自宅ではなく居候先なのだが。
     ……目の前がぐらぐらする。ドアに縋るように手を突いて、開けた。そういえば左手が痛い、……あの時、怒りに任せて柱でも殴っていたらしい。手袋を外したらえらいことになってそうだ。
    「ただいま〜〜……」
     足元がふらふらして、胃の辺りがぐるぐるする――それでも帰宅の挨拶は欠かさない。この感覚が吐き気だと気付くのに少し時間がかかった。自室のベッドに着替えもしないで俯せに倒れ込む。
     なぜ自分がこんな状態に陥っているのか分からない。なぜ。どうして。触れられて、触れられかけただけなのに? 女性はたしかに苦手だが、ここまで? こんなに? どうして? 胸がグチャグチャして、肌がゾワゾワして、なんだかすごく『嫌』だ。
     侠太郎は胃の底から湧き上がる、この、掻き毟りたくなるような感覚が、生理的な嫌悪感だと理解していない。ただ、とても嫌な感じで、気持ち悪くて、分からなくて、かつてなくて、嫌だった。痛い左手を握り込んで、その痛みでこの感情の上書きをしようと無駄な努力をしていた。
     ……幸いにして伊緒兵衛には勘付かれてはいないようだ。もしかしたら気付かれているかもしれないが、どのみち、アプローチがないのは助かった。何があったのか聞かれたら素直に答えるつもりではいたが、このグルグルとグチャグチャとゾワゾワの正体は説明不可能のままだから。
    (……あー……アカン……吐いてこよ……)
     嘔吐なんていつ以来だろうか。青い顔で身を起こす。全く、女にキスされかけただけでこのザマなんて、オリオンの名が泣いてるぜ。


    『了』
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    DOODLE十三 暗殺お仕事
    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
    2220

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