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    こちら https://x.com/052ysk/status/1691058018103054336?s=20 みたいな夢を見る特殊さんが見たかった

    #さざれゆき又鬼奇譚

    サイケデリック ●

     今日も空を見ている。飽きずに空を見ている。
     目が見えるようになって、空を見慣れたら、「空が綺麗」だなんてはしゃがなくなると思っていた。大体の人間が、大人になればいちいち空なんて見上げなくなるなるように。しかし相変わらず、侠太郎は今日も空を見ている――「遠くで雨の音がするから、虹が見れるかもしれん」なんて言って。

    「伊緒兵衛」

     ノックの直後にドアが開く。ノックの概念を何度説明したことか。分かっている上で「なんで待たなアカンねん」と、彼の故郷の言語で言う『イラチ』な性分がそれを無視する。
    「はい?」
     執務机から顔を上げた。室内には入って来ず、ドア枠にもたれている侠太郎がいる。
    「虹出とる」
    「そうですか」
    「虹出とる」
     一度目の言葉は報告。だが二度目の言葉は「ねえ聞いてる?」というニュアンスで強調されていた。
    「虹がどうかしましたか?」
     半分、その『強調』の意図は汲み取れているけれど。念の為に尋ねた――案の定、汲み取れた意図の通りの答えが、返ってきた。
    「見に行くぞ」

     折角や、いっちゃんええとこで見よや。
     そう言って、なんの遠慮もなく伊緒兵衛を片腕で担いで、窓を開けて――重力なんてないかのように、吹き上がる風のように、侠太郎は邸宅の壁を駆け登った。
     いくら異能の再生があるとはいえ。命綱は侠太郎の腕一本。落ちたら絶対に痛い。重力が普通に生きてたらかからない方にかかって、本能的な、臓器が窄まるような心地に襲われて、一瞬呻いた頃にはもう、屋根の上だった。
     ……なんというか。テレビで見た、ヒョウとかチーターとかの親が子供を咥えて木に登る映像を思い出していた。
    「脚滑らすなよ、なんやったらおてて握っといたろか」
     水平ではない屋根の上に降ろされる。後半の冗句には(頷けば本当に握るんだろうが)「結構です」と答えた。
    「ほら、あっち」
     侠太郎が視線を彼方へ、作り物の指先で指し示す。顔を上げた――薄い雲を背景に、大きな虹の架け橋が。欠けもない、見事な七色だった。
    「な! 綺麗えやろ」
     きれえ、と独特の訛の声。青年は笑って、本当に楽しそうに心から笑って、虹に目を細めている。傷のない横顔。遠くから吹く、雨上がりの湿った風。濡れた緑の香り。棚引き流れる白灰の雲と、ただ静かに在る朧な七色。
    「……そうですね」
     毎度。虹が出る度に外に連れ出される。毎度。隣で侠太郎は綺麗だ綺麗だと目を輝かせている。飽きずに眺めて、屋根から下ろしてくれそうにない。
    「君はいつか、虹の足元を探しに行きそうですね」
     呟く。いっそ遠くへ行ってしまえと心中で重ねたその言葉に、あっけらかんとした笑い声が返ってくる。
    「俺がガキの頃なら行っとったな!」
     あはははははは――年齢で言うと爺の癖に、本当に、少年のように笑う。笑っていた。笑い飛ばしていた。

     ●

     きっと、昼間に虹を見たからだ。
     変な夢を見た。

    「獲った獲った! はよ来い!」

     霧の向こうから侠太郎が声を張り上げる。これは夢だなぁとぼんやり自覚しながら――しかしほとんど勝手に体が動く――そちらに向かえば、なんというか、なんだこれは、侠太郎が二メートルぐらいの虹を絞め上げている。虹は打ち上げられた魚のようにビタンバタンと暴れている。なんだこれは? なんなんだ???
    「そこの杭拾ってくれ! 黒いやつ!」
     侠太郎がそう言うので、何がなんやら意味不明なまま、彼の足元に落ちていた黒い杭を差し出した。次の瞬間、侠太郎が虹の、ちょうど黄色と緑の間に杭をドカッと突き立てる。虹がくたりと脱力して動かなくなった。ああ、あそこが急所なんだなぁ、と夢特有の謎の納得が胸に込み上げた。
     虹を離した侠太郎がトランクを無造作に置く。ナイフ片手に虹を解体し始めながら――
    「虹を殺すんは無論禁忌や。この罪は消えんが金になる」
     その呟きの直後。
     解体されていく虹が、『別のもの』に見えて、

     ――波の音が聞こえた気がした。

     ●

     なんや疲れた顔しとるのう。どないしたん、寝れへんかったん?
     ああ、いえ。少し……、少し、変な夢を見ただけです。
     変な夢?
     侠太郎さんが虹を捕まえてたんですよ。魚みたいに暴れてる生きた虹を、こう……素手で。
     あはははは! なんやそれえ! そら確かに変な夢やのう!
     ええ……本当に。侠太郎さんも何か夢を見ましたか?
     俺? 俺あんま夢見ぃへんからな〜……。
     眠りが深いんでしょうね。
     そうなんかのう。
     ……パンのおかわり、食べますか?
     食べる!


    『了』
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    DOODLE十三 暗殺お仕事
    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
    2220

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