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    十三の少年期とか

    #暗殺者は天使と踊る

    ナイフを下さい ●

     白い部屋、拘束具、取り囲む大人達。
     それが幼い頃の記憶。

     俺は――俺と同じロットナンバーの人造人間達は、最強の尖兵になる為に造り出された生物兵器。
     殺す為の、兵器。
     殺す為に造られた、兵器。

     だから、色んなことをされた。例えば、身体や思考やレネゲイドを強化するような投薬とか、より肉体を強化してレネゲイドに馴染ませる為の手術とか。
     俺は精神力増強の為に、よく頭蓋骨を開かれていた。脳の色んなところを、色んな薬や手段で弄くられた。頭に包帯が巻かれていた記憶が多い。それと頭痛。目眩や耳鳴り。鼻血や失禁。指先の痺れと痙攣。幻覚に幻聴。自傷に錯乱。
     叫んだり呻いたり泣いたり喋ったりすると、立てなくなるぐらい殴られて、怒鳴られて、怒られた。
     逃げること、助けを求めることが無意味だと知った。そういうことをしようとしたらもっと目茶苦茶な目に遭わされるので、大人しく命令に従うことこそが最も合理的であると学んだ。
     そうしたら、いつしか声が出なくなった。顔も動かなくなった。多分、脳を弄られた時、その辺の領域も何かされたんだと思う。
     そういった諸々に対して、俺はジャーム化や廃人化や死んだりせず、耐えきれたからか。幸いにも、俺はナンバーズの中でも優秀だった。
     優秀で、有用だと、マシな飯やマシな服やマシな寝床を与えられた。身体を清潔にすることも許された。見せつけのように、優秀ではないナンバーズ達はゴミのような扱いをされていた。あんまり酷いと公開処刑的に殺処分されていた。だから俺達に団結も絆も何もなかった。蹴落とし合い、踏み躙り、妬み、恨み、あるいは見下して自尊心の餌にする、そんな最悪な関係だった。ジャーム化、実験の負荷に耐えきれなかった、殺処分、そんな理由で『きょうだい』に欠番が出ても、痛む心なんて遺伝子レベルで備わってはいなかった。

     そんな日々の中、俺は初めて仕事をした。
     夜、ターゲットが帰り道で一人になる瞬間、遠くの物陰からナイフを操って、喉と心臓を突き刺した。一瞬で、呆気なかった。帰還して褒められることはなかったが、少なくとも殺処分されなかったので、これで良いんだと認識した。
     それから俺はたくさん仕事をして、たくさん殺した。実験と投薬と手術とを繰り返して、どんどん人間から逸脱していきながら。どんどん仕事が上手くなった。まあ相変わらず、少しでも大人の機嫌を損ねたら、痛くない場所がなくなるぐらい痛めつけられたが。

    「痛い間は覚えてるだろう」
    「なんで痛いのか、その理由になったおまえの失敗を」

     暴力の度に、調教師はそう言っていた。
     だから――

    (今すごく痛いのは、すごく失敗したからだ)
     初めて仕事を失敗して、雨の冷たい路地裏で、横たわっていたあの日、そう思った。
     失敗することは、死ぬことなんだ、すごく痛いんだ、と知った。すごくすごく痛いのは、すごくすごく失敗したからだ。ああ、失敗した。失敗した。失敗した。
     そんな痛みと絶望の中で、――ふと、雨が止んだ。
     白い翼が見えた。

     ●

     知らないベッドで目が覚めた。傍らには美しい天使が居た。手を握られて、撫でられて、抱きしめられて、自分の状況を知らされた。FHに戻りたいとは思わなかった。ここにいれば安全らしいから。天使の腕の中は、とても安心したから。生まれて初めて、居てもいい場所というものを感じたから。
     だから、その日から、俺の主人マスターは天使になった。

     天使は喋れない俺に、携帯端末と読み上げアプリという声をくれた。
     安全で清潔な住処と、マトモな食事と、清潔な衣服をくれた。
     殺しに関すること以外の知識と教養をくれた。
     そして――世界の、人間の、『世間』『常識』『普通』が何かを、教えてくれた。

     天使に与えられるほど、俺は『世間的な普通』から、己が如何に異質で異物でオカシイかを知った。

     それもあって、幼い頃の俺はいつも天使の傍に居た。世界の全てから敵視されるような、言いようのない不安が常にあった。天使が俺の生命線で、命綱で、酸素ボンベだった。
     天使は支部長という忙しい身でありながら、無口で愛想もないガキを隣に置いてくれた。眠れぬ夜に傍に居てくれた。震える手を握ってくれた。俺の、何もかもが狂って歪んで間違えていた世界に、正しい光をもたらしてくれた。

     ――嗚呼、悪くない。

     保護から少し経ったある日、天使が何やら思案気な様子だった。
    『なんでも命令して下さい』
     俺はそう言った。役に立ちたかった。天使は嬉しそうに、俺に仕事を任せてくれた。
     殺しの仕事だった。俺の、最も得意な仕事だった。

     悪くない気持ちで頭がいっぱいになった!

    『命令を受諾しました』
     俺の命はこの為に造られたのだ。殺す為に。誰かの命を消す為に。
     そうして仕事を完遂すると、天使は俺を褒めてくれた! 撫でて、抱き締めてくれた!
     脳味噌がじんわりする、甘いものを食べた時みたいに。
     だから、もっと欲しくなった。
    『ご命令をどうぞ』
    『なんでも殺します』
    『命令して下さい』
     そして、その仕事は大人になった今も、天使から与えられている。

     さあご命令をどうぞ。
     どうか俺に殺戮をさせて下さい。


    『了』
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    DOODLE十三 暗殺お仕事
    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
    2220

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