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DOODLE天使羊愛猫 ●
夢の中で、己は無力で小さく見窄らしい鼠で。
震えながら見上げているのは、ふわふわで艶々の黒猫一匹。見透かすような美しい瞳。
その前足が鼠の身体を上から押さえつけている。圧力に手足をバタつかせてもがくも、黒猫の前足からは逃れられない。それどころかもがくほど、出された黒猫の爪に身体が引っかかって、痛みを生んだ。
と、やおら黒猫が前足を退ける。鼠は慌てて逃げんとする。その体が、黒猫の前足で簡単に転がされる。それでも逃げる。逃げられない。何度も何度も、ちょいと小突かれ転がされる。終いには尻尾を踏み付けられて縫い留められて、虚しく床を掻くだけになった。
にゃあーん。黒猫は甘えるような楽しげな声で鳴く。そして鼠は理解する。これは捕食の為の狩りなどではなく、猫が鼠を玩具にしているだけなのだと。
753夢の中で、己は無力で小さく見窄らしい鼠で。
震えながら見上げているのは、ふわふわで艶々の黒猫一匹。見透かすような美しい瞳。
その前足が鼠の身体を上から押さえつけている。圧力に手足をバタつかせてもがくも、黒猫の前足からは逃れられない。それどころかもがくほど、出された黒猫の爪に身体が引っかかって、痛みを生んだ。
と、やおら黒猫が前足を退ける。鼠は慌てて逃げんとする。その体が、黒猫の前足で簡単に転がされる。それでも逃げる。逃げられない。何度も何度も、ちょいと小突かれ転がされる。終いには尻尾を踏み付けられて縫い留められて、虚しく床を掻くだけになった。
にゃあーん。黒猫は甘えるような楽しげな声で鳴く。そして鼠は理解する。これは捕食の為の狩りなどではなく、猫が鼠を玩具にしているだけなのだと。
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DOODLE幼少期十三彼我彼岸 ●
「何やってるんだお前ッ!」
がつ、と火花が散るような衝撃。
なんとか倒れずに踏み留まったが、じんと痛む鼻から、歯とぶつかった唇から、血が、じわじわ、つぅっと、流れ始める。
そんな出血とは比にならないほど血だらけの死体が、少年十三の足元には転がっていた。喉を心臓をナイフで刺され裂かれ、見開かれた目が空を永遠に凝視している。
「……、」
滲む血をそのままに、十三は目の前の少年を上目に見上げた。歳上の、背が高い、このUGNチルドレンチームのリーダーだ。
「ッ……俺達の任務はあくまでも情報収集だったハズだ。交戦は避けるようにと」
『すみません』
スマホの読み上げ音声が無機質に響く。幼い見た目には不釣り合いな、デフォルトのままの成人男性声。
3011「何やってるんだお前ッ!」
がつ、と火花が散るような衝撃。
なんとか倒れずに踏み留まったが、じんと痛む鼻から、歯とぶつかった唇から、血が、じわじわ、つぅっと、流れ始める。
そんな出血とは比にならないほど血だらけの死体が、少年十三の足元には転がっていた。喉を心臓をナイフで刺され裂かれ、見開かれた目が空を永遠に凝視している。
「……、」
滲む血をそのままに、十三は目の前の少年を上目に見上げた。歳上の、背が高い、このUGNチルドレンチームのリーダーだ。
「ッ……俺達の任務はあくまでも情報収集だったハズだ。交戦は避けるようにと」
『すみません』
スマホの読み上げ音声が無機質に響く。幼い見た目には不釣り合いな、デフォルトのままの成人男性声。
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DOODLE十三のテキスト裁きの時はなく ●
立場としてはUGNであり、正義の名のもとに殺しをしている。
ゆえに、標的がジャームであることは別に珍しくはない。
――最早、人の言葉すら失った怪物が廃ビルの天辺で吼える。
『キュマイラ』シンドロームの名の通り、様々な生き物を継ぎ接ぎしたような風貌。厚い鱗は鎧となり、二対に増えた四本腕には巨大な鉤爪、下半身は百足の如く、頭部は蜻蛉の目玉に獅子の顎。
もう暗殺者じゃなくて怪物狩りだな。
そんな自嘲をしながら、十三は瓦礫の中より身を起こした。奴の爪に切り裂かれ、尾に吹っ飛ばされて壁にぶつけられてこのザマだ。ボロボロになったスーツに血がにじんでいる。痛いが、痛みで苦しんで隙を晒さぬよう調教済だ。ぺ、と血唾を吐いた。
1883立場としてはUGNであり、正義の名のもとに殺しをしている。
ゆえに、標的がジャームであることは別に珍しくはない。
――最早、人の言葉すら失った怪物が廃ビルの天辺で吼える。
『キュマイラ』シンドロームの名の通り、様々な生き物を継ぎ接ぎしたような風貌。厚い鱗は鎧となり、二対に増えた四本腕には巨大な鉤爪、下半身は百足の如く、頭部は蜻蛉の目玉に獅子の顎。
もう暗殺者じゃなくて怪物狩りだな。
そんな自嘲をしながら、十三は瓦礫の中より身を起こした。奴の爪に切り裂かれ、尾に吹っ飛ばされて壁にぶつけられてこのザマだ。ボロボロになったスーツに血がにじんでいる。痛いが、痛みで苦しんで隙を晒さぬよう調教済だ。ぺ、と血唾を吐いた。
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DOODLE深夜徘徊する十三ユーフォリア深夜 ●
眠れない。
ベッドに入ってから、かれこれ一時間は経過したと思う。
今夜はもう眠れない気がする。これ以上ベッドでうだうだしていても無駄な気がする。ので、十三はいっそと起き上がることにした。
黒い、ラフなジャージ姿で夜を歩く。ネオン。車。オレンジ色の街灯。飲み屋とラブホテル。近くの川のドブ臭い匂い。高架下に所狭しと落書き。この辺りはお世辞にも清楚とは言えない地区だった。ふしだらと不道徳、欲望と衝動。天使に拾われてからずっとこの街に居るから、十三にとってここはもはや地元であった。
「おにーさん、どーですか?」――客引きの若い男の声を聞き流して、白と黒の横断歩道。無事に渡り終えたら、いつも利用するコンビニに入る。お菓子コーナーへ。同じラムネを複数と、硬い食感のグミと。それから飲み物コーナーで甘ったるいコーヒー牛乳。レジへ赴く。もう顔馴染の店員(日本人ではない)の、カタコトの「レジ袋ハゴリヨデスカ」に『お願いします』を、「ポイントカードゴザマスカ」に『いえ』を、ポケットのスマホの読み上げアプリ音声で返す。
2524眠れない。
ベッドに入ってから、かれこれ一時間は経過したと思う。
今夜はもう眠れない気がする。これ以上ベッドでうだうだしていても無駄な気がする。ので、十三はいっそと起き上がることにした。
黒い、ラフなジャージ姿で夜を歩く。ネオン。車。オレンジ色の街灯。飲み屋とラブホテル。近くの川のドブ臭い匂い。高架下に所狭しと落書き。この辺りはお世辞にも清楚とは言えない地区だった。ふしだらと不道徳、欲望と衝動。天使に拾われてからずっとこの街に居るから、十三にとってここはもはや地元であった。
「おにーさん、どーですか?」――客引きの若い男の声を聞き流して、白と黒の横断歩道。無事に渡り終えたら、いつも利用するコンビニに入る。お菓子コーナーへ。同じラムネを複数と、硬い食感のグミと。それから飲み物コーナーで甘ったるいコーヒー牛乳。レジへ赴く。もう顔馴染の店員(日本人ではない)の、カタコトの「レジ袋ハゴリヨデスカ」に『お願いします』を、「ポイントカードゴザマスカ」に『いえ』を、ポケットのスマホの読み上げアプリ音声で返す。
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DOODLE暗&天 キャンディちゃんキャンディタイム ●
なあ、知ってるか? UGN(ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク)にえらく腕の立つ殺し屋が居るって噂だ。
UGNが? 殺し屋を? ハハハッ。俺達FH(ファルスハーツ)を散々ワルモノにしておいて、とんだお笑い種だぜ。
笑い事じゃねえよ、もう何人かヤられてるって話だ。
面白え。もし尻尾掴んだら教えろ、俺がぶっ殺してやる。
尽力はしてるが――……チッ、おいライター持ってねえか? オイル切れで火が
男が顔を上げて振り返ると、そこには首がちぎれた同僚が立っていて。
びゅく、びゅく、と脈拍の残滓と共に噴き出す血を目の前に、男は吸わんとしていた煙草をポトリと地に落とした。
●
暗殺者は音もなく飛翔する。
1150なあ、知ってるか? UGN(ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク)にえらく腕の立つ殺し屋が居るって噂だ。
UGNが? 殺し屋を? ハハハッ。俺達FH(ファルスハーツ)を散々ワルモノにしておいて、とんだお笑い種だぜ。
笑い事じゃねえよ、もう何人かヤられてるって話だ。
面白え。もし尻尾掴んだら教えろ、俺がぶっ殺してやる。
尽力はしてるが――……チッ、おいライター持ってねえか? オイル切れで火が
男が顔を上げて振り返ると、そこには首がちぎれた同僚が立っていて。
びゅく、びゅく、と脈拍の残滓と共に噴き出す血を目の前に、男は吸わんとしていた煙草をポトリと地に落とした。
●
暗殺者は音もなく飛翔する。
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DOODLE十三 暗殺お仕事初夏に呪われている ●
初夏。
日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。
子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
2220初夏。
日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。
子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
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DOODLE十三の少年期とかナイフを下さい ●
白い部屋、拘束具、取り囲む大人達。
それが幼い頃の記憶。
俺は――俺と同じロットナンバーの人造人間達は、最強の尖兵になる為に造り出された生物兵器。
殺す為の、兵器。
殺す為に造られた、兵器。
だから、色んなことをされた。例えば、身体や思考やレネゲイドを強化するような投薬とか、より肉体を強化してレネゲイドに馴染ませる為の手術とか。
俺は精神力増強の為に、よく頭蓋骨を開かれていた。脳の色んなところを、色んな薬や手段で弄くられた。頭に包帯が巻かれていた記憶が多い。それと頭痛。目眩や耳鳴り。鼻血や失禁。指先の痺れと痙攣。幻覚に幻聴。自傷に錯乱。
叫んだり呻いたり泣いたり喋ったりすると、立てなくなるぐらい殴られて、怒鳴られて、怒られた。
2181白い部屋、拘束具、取り囲む大人達。
それが幼い頃の記憶。
俺は――俺と同じロットナンバーの人造人間達は、最強の尖兵になる為に造り出された生物兵器。
殺す為の、兵器。
殺す為に造られた、兵器。
だから、色んなことをされた。例えば、身体や思考やレネゲイドを強化するような投薬とか、より肉体を強化してレネゲイドに馴染ませる為の手術とか。
俺は精神力増強の為に、よく頭蓋骨を開かれていた。脳の色んなところを、色んな薬や手段で弄くられた。頭に包帯が巻かれていた記憶が多い。それと頭痛。目眩や耳鳴り。鼻血や失禁。指先の痺れと痙攣。幻覚に幻聴。自傷に錯乱。
叫んだり呻いたり泣いたり喋ったりすると、立てなくなるぐらい殴られて、怒鳴られて、怒られた。
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DOODLE十三アルカナのタロット13が死なので、最初はEXレネゲイド化したタロットカードで戦うのありかも〜みたいなのを考えてました
No.13 ●
豪奢なトイレの手洗い場で手を洗っている、気取ったスーツの男。鼻歌。水の音。
ふと、足音がしたので男は顔を上げた。初老の清掃員が、作業をせんとしていた。別になんてことはない、トイレでよく見かけるありふれた光景だ。だから男はすぐ意識から清掃員を外した。清掃員が、黒いプッシュダガーを袖の中から出したことに気付かないまま。
――鏡に映るのは凶器が喉と心臓に刺さる男。喉をやられて悲鳴はない。見開かれる自分の目と見つめ合う男。抜ける刃物。飛び散る赤。崩れる身体。見下ろす清掃員。清掃用カートの中に投げ込まれ隠される死体。そして、鏡へ振り返る清掃員の姿は、『気取ったスーツの男』に変身する。
●
華やかな立食パーティー。着飾った男女。アンダーグラウンド。
2786豪奢なトイレの手洗い場で手を洗っている、気取ったスーツの男。鼻歌。水の音。
ふと、足音がしたので男は顔を上げた。初老の清掃員が、作業をせんとしていた。別になんてことはない、トイレでよく見かけるありふれた光景だ。だから男はすぐ意識から清掃員を外した。清掃員が、黒いプッシュダガーを袖の中から出したことに気付かないまま。
――鏡に映るのは凶器が喉と心臓に刺さる男。喉をやられて悲鳴はない。見開かれる自分の目と見つめ合う男。抜ける刃物。飛び散る赤。崩れる身体。見下ろす清掃員。清掃用カートの中に投げ込まれ隠される死体。そして、鏡へ振り返る清掃員の姿は、『気取ったスーツの男』に変身する。
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華やかな立食パーティー。着飾った男女。アンダーグラウンド。