キャンディタイム ●
なあ、知ってるか? UGN(ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク)にえらく腕の立つ殺し屋が居るって噂だ。
UGNが? 殺し屋を? ハハハッ。俺達FH(ファルスハーツ)を散々ワルモノにしておいて、とんだお笑い種だぜ。
笑い事じゃねえよ、もう何人かヤられてるって話だ。
面白え。もし尻尾掴んだら教えろ、俺がぶっ殺してやる。
尽力はしてるが――……チッ、おいライター持ってねえか? オイル切れで火が
男が顔を上げて振り返ると、そこには首がちぎれた同僚が立っていて。
びゅく、びゅく、と脈拍の残滓と共に噴き出す血を目の前に、男は吸わんとしていた煙草をポトリと地に落とした。
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暗殺者は音もなく飛翔する。
翼を広げれば2メートルを超える巨体だというのに、その半人半獣の『怪鳥』は一切の音を出さずに羽ばたいていた。いっそ不気味な光景ですらあった。
含み笑う、その巨大な鉤爪には、引き千切られたばかりの男の頭が包まれている。空中からの奇襲、万力のような握力とナイフのような鉤爪で、苺でも摘むかのように容易くもぎ取った代物である。
――上手くいった、上手くいった! 天使様に褒めてもらえる!
思わず大声で笑ってしまいそうになるのを我慢する。折角の無音飛行が台無しになるから。暗殺者はその身を怪鳥から一羽のミミズクへと変貌させた。その足で獲物の頭を掴んだまま、摩天楼を眼下にしばし飛行し続けて、とあるビルの上層階へ――「ほふー」と喉を膨らませてひと鳴き。そうすれば、とある窓のカーテンが開いてガラスも開けられた。そこに居たのは、少女の身なりをした天使だった。
「おかえりなさい、キャンディ」
天使が微笑む。部屋に飛び込んだミミズクは、上機嫌で天井近くを一周だけ旋回すると、天使の傍らにある可愛らしいバスケットに持ってきた生首を投げ入れて。
「天使様ぁ! ただいま帰りましたぁ〜!」
ぽん、と巨躯の女の姿に戻る。暗殺者は、愛する小さな天使を両手いっぱいに抱き締めて抱き上げた。喉の奥で甘え鳴きのように笑みを転がしながら、もちもちとした柔らかい天使のほっぺにキスをする。はむはむと吸う。
「今夜も素敵な死をありがとう。流石は私の綿飴、良い子ですね」
天使は優しい笑顔でそれを受け入れながら、暗殺者をぎゅっと抱き締め返すと、その頭をよしよしと愛おしげに撫でた。大切に大切に、髪を手櫛で梳いてやった。
「ほら、ご褒美のチョコレートを用意していますよ。シャワーを浴びたら、二人で一緒に食べましょう」
「は〜ぁい!♡」
一緒にシャワーを浴びたいから――だって優しく洗ってくれるのが嬉しいんだもの――暗殺者は天使を抱っこしたままシャワールームへと歩いていった。
『了』