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    十三のテキスト

    #暗殺者は天使と踊る

    裁きの時はなく ●

     立場としてはUGNであり、正義の名のもとに殺しをしている。
     ゆえに、標的がジャームであることは別に珍しくはない。

     ――最早、人の言葉すら失った怪物が廃ビルの天辺で吼える。
    『キュマイラ』シンドロームの名の通り、様々な生き物を継ぎ接ぎしたような風貌。厚い鱗は鎧となり、二対に増えた四本腕には巨大な鉤爪、下半身は百足の如く、頭部は蜻蛉の目玉に獅子の顎。

     もう暗殺者じゃなくて怪物狩りだな。
     そんな自嘲をしながら、十三は瓦礫の中より身を起こした。奴の爪に切り裂かれ、尾に吹っ飛ばされて壁にぶつけられてこのザマだ。ボロボロになったスーツに血がにじんでいる。痛いが、痛みで苦しんで隙を晒さぬよう調教済だ。ぺ、と血唾を吐いた。
     ぞわり。
     足元より螺旋を描くように影が噴き上がる。可視化されるほどに高濃度なレネゲイドの塊。禍々しい黒い渦。纏うそれは、まるで牡山羊の角と長い尻尾、邪教の神たる悪魔のごとく。
     普段は専ら奇襲だが――これは正面切って戦う姿。防御も回避もできぬほどに脳のリソースを全て攻撃に注ぎ込んだ状態。殺戮変異暴走の化身。剥き出しのイド。
    「はぁー っ……」
     籠もる熱を吐息で吐き出し、炯々とした目を標的に向ける。抑圧のタガが緩んで、少し、心が、清々しい。歪な薄ら笑い。
     ――『キマイラ』がビルから跳ぼうとするより速く、影に繰られたナイフが飛ぶ。怪物はそれらを叩き落とそうと――異形の動体視力で追うが――ナイフは稲妻のごとく不規則な軌道。たった3本、しかし物理学を完全に無視した動きは、まるで無数のナイフが在るかのように錯覚させた。
     暗殺の為の静かで淑やかな動きではない。必殺の為の、悪魔が嗤うような悪辣な軌跡。悪意そのもの、殺意そのもの。
     それに躊躇い、回避が遅れれば、踊る刃に切り刻まれる。鉄壁の鱗が、殻が、それを上回る攻撃性で穿たれる。血を巻き上げさせて、狂おしく、刺して刺して、延々と止まない。四方八方から突き刺され、右へ左へよろめいて、遮二無二腕を振り回す怪物は、さながら哀れに踊る滑稽なる道化役者。
     そして。鱗と肉を剥がれた剥き出しの心臓に、肋骨の隙間を縫って3本が刺さった。
    「ガッ――」
     胸を押さえた怪物が、――落ちる。
     剥き出されていた鉄骨の上に、ぐしゃりと刺さる。
    「ア゙ガッ……ガッ……」
     藻掻いて、幾度かの痙攣の後、怪物は人間の姿に戻った。幼い少女は、UGNチルドレンだった。ジャーム化した彼女との交戦を、UGNの誰もが忌避した。やりたがらなかった。だからここに話が回ってきたのだ。
     ひらりと戻ってきたナイフを手にしながら、十三は歩く。切り裂かれたスーツの切れ端を夜風に翻し、見上げる――月を背景に、背中から鉄骨に刺され反った死体。だらんと垂れた頭、曲線を描く白い喉、めくれた前髪。標的の絶望と苦悶まま事切れた顔。
    「く、 っ、 っ、 ……」
     贄を前に、螺旋の悪魔は声無く嗤った。ナイフから伝ってくる血で濡れた掌で――前髪を掻き上げる。

     ――この為に生まれ、この為に生きている。

     それが『普通』からあまりにも逸脱してしまっていると理解しながらも。在ってはならないものだと蔑みながらも。
     それでも。
     本能が満たされる昏い黒い悦びに、人造人間はどうしようもなく嗤い続けていた。

     そうして一頻り、死の前で歓喜に浸って。
     ゆっくりと、深く、呼吸をひとつ。
     影の角と尾を霧散させ、レネゲイドを鎮静化させる。そうして目を開ければ、いつもの暗い顔をした男の相貌になる。
    『こちらNo.13、命令を達成しました』
     端末をオルクスの異能で操作して、後方で待機していた仲間達に告げる。手近な瓦礫に腰掛けて、スーツの内ポケットから煙草でも出すようにラムネの小箱を取り出した。
    『医療チームを要請します。中程度の負傷。命に別状はありません。ワーディングを展開しつつ現場で待機します』
     ポリポリ。棒ラムネを齧りながら、電子の声で淡々と業務連絡。
    (くそ、負傷しちまったな……)
     できれば、いつも暗殺を果たす時のように、無傷でスマートにこなしたかったが。その方が完璧で美しいと思う。天使の殺し屋として相応しいと思う。より有用で有能であるように思う。
    (あ〜……いってぇ……早く医療チーム来ねえかな……)
     手持ち無沙汰に傷に触った。湿って濡れている。思ったより血が出ている。裂けたシャツを捲った。左胸の、片翼の刺青――天使の翼の意匠は、天使の所有物である証――は無傷で、少し安心した。


    『了』
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    DOODLE十三 暗殺お仕事
    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
    2220

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