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    十三 暗殺お仕事

    #暗殺者は天使と踊る

    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。

     ――転んだ、というより蹴躓いただけの幼児が、怪我もしていないのに大声で泣いた。途端に母親が駆けてきて、優しくその子を抱き上げる、抱き締める。
    「大丈夫? よしよし、痛かったね……よしよし、いいこいいこ……」

     ――『何をしている十三番』

     過去からの声が鼓膜の裏で響く。
    『すぐに泣くのを止めろ。今すぐにだ』
     冷たく見下される眼差し。
     ぬっと伸びてくる手。
     大きな、大人の男の手が、細い細い小指を掴んで。
     ぱき。
    『痛いか? 指が反対を向いたら痛いだろ? なんで痛いのか分かるか? おまえが泣くのを止めろって命令を実行できなかったからだ。おまえのせいだ。おまえが悪い』
    『痛い間は、なんで痛い目に遭ったのか、おまえの失敗を覚えていられるだろう。その愚図な頭でも』
    『……“助けて”? ははは! 誰が助けてくれるんだ、え? 神様か? ヒーローかあ? ギャハハハハ!』
    『泣こうが喚こうが何も変わらねえんだよ、十三番。助けは来ない。神様とかヒーローって、イイコのとこにしか来ないんでちゅよ〜? おまえは言われたこともできない悪い子だし、紛い物で作り物の人間モドキだから、神様は見捨てるしヒーローからも殴られるだろうなあ。かわいそ〜』
    『俺達に従うことだけがおまえの存在が許される瞬間だ。次に泣いたら他の指も反対に曲げるからな』
    『これは感情を抑圧して衝動に飲まれないようコントロールする為だ。おまえがジャーム化しないように俺達だって頑張ってるんだよ、生き物モドキのおまえを生かしてやってるんだ、感謝しろ』

    「――…… 」
     光が生む幻の奥で、男は、昏い目をしていた。左手の小指がぴくりと動いた。
    (死ねばいいのになぁ)
     漠然とした感情が心に広がる。
    (みんなみんな死んでしまえ)
     憎たらしい。妬ましい。大嫌いだ。気持ち悪い。あんなに命を尊い尊いと大切にし合って。そんなに命っていうのは大切なのか。ならそれを踏み仇してやる。どいつもこいつも。おまえらの大切なものを無に還してやる。あっさりと、呆気なく、無かったことにしてやる。
    (そうして俺だけが――俺だけが命と生の尊さを独占するんだ――みんな死んだ静かな世界で――俺だけが――贋作の俺が、真作の命を踏み躙って――ああ、どいつもこいつも死ねばいい――)

     小さく呼吸を整えた。

     天使から賜った日傘を握り直す。その傘で、視界を隠す。影の中、独り、あまりに眩しくて普通な世界から、異物である命を切り離す。保護をする。
     天使はこれを見越して日傘をくれたんだろうか。眩しさという豪雨から身を守りながら、十三番は、足元をうろつく蟻を見下ろして、そして、踏み潰した。意味も理由もなく、命を摘んだ。

     腕時計を見る。
     そろそろだ。
     顔を上げる。
     公園の木々の向こう、一台の車が――高級そうな、如何にも大事な要人を乗せた車が通りかかる。

     その瞬間だった。

     ルートに予め仕込んでおいた小さなナイフが、凄まじい速度と破壊力を以て、車の後部座席へ飛んだ。
     超常を付加されたナイフは、さながら魔弾の射手が放つ必中必殺の呪い。防弾ガラスを薄紙のように突き破り、横合いから、ターゲットのこめかみに突き刺さった。

     ――異変に気付いた運転手が悲鳴を上げて、車を急停止させてパニックになって。
     更にそれに気付き、死体を見て阿鼻叫喚となる公園の『普通』達。

     殺し屋は天使の外套の中で、日傘の影の中で、吐息を吐くように声無く笑いながら、なんてことなくその場を後にした。

     ●

    「よしよし、いいこいいこ」
     報告を済ませたら、天使の手が撫でてくれる。優しい手。痛いことをしない手。安心する。
     神様とかヒーローは良い子のところにしか来てくれないらしいが、天使はここに来てくれた。天使だけは来てくれた。善も悪も超越して。人造人間の為の神は居ないが、天使は居る。ここにいる。
     ご褒美だと渡された砂糖菓子を口に含んだ。甘い味がした。「僕の可愛い殺し屋」、と目の前で天使が微笑んでいる。ずっとこんな日が続けば良い。


    『了』
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    DOODLE十三 暗殺お仕事
    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
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