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    深夜徘徊する十三

    #暗殺者は天使と踊る

    ユーフォリア深夜 ●

     眠れない。

     ベッドに入ってから、かれこれ一時間は経過したと思う。
     今夜はもう眠れない気がする。これ以上ベッドでうだうだしていても無駄な気がする。ので、十三はいっそと起き上がることにした。

     黒い、ラフなジャージ姿で夜を歩く。ネオン。車。オレンジ色の街灯。飲み屋とラブホテル。近くの川のドブ臭い匂い。高架下に所狭しと落書き。この辺りはお世辞にも清楚とは言えない地区だった。ふしだらと不道徳、欲望と衝動。天使に拾われてからずっとこの街に居るから、十三にとってここはもはや地元であった。
    「おにーさん、どーですか?」――客引きの若い男の声を聞き流して、白と黒の横断歩道。無事に渡り終えたら、いつも利用するコンビニに入る。お菓子コーナーへ。同じラムネを複数と、硬い食感のグミと。それから飲み物コーナーで甘ったるいコーヒー牛乳。レジへ赴く。もう顔馴染の店員(日本人ではない)の、カタコトの「レジ袋ハゴリヨデスカ」に『お願いします』を、「ポイントカードゴザマスカ」に『いえ』を、ポケットのスマホの読み上げアプリ音声で返す。
    「アリガトゴザマシター」
     店員の言葉に会釈を返して、コンビニを出る。「ラムネのお兄さん」と店員達から裏で呼ばれていることを十三は知らない。歩きながらペリペリとビニールを剥がして、ラムネ瓶を模した容器の蓋を開けて、そのまま口へ、ザラザラがらがら、白い数粒を口の中へ転がし落とす。ラムネのヒンヤリとした舌触りと、噛めばじわっと舌に脳に広がる甘味と。
    (おいしい……)
     ボリボリ。ラムネを噛みながら、怪しげな外国人や、ガラの悪そうな若い男や、派手な女や、スーツ姿の男達とすれ違う。「おにーさん、どーですか?」また別の客引きを無言でやり過ごす。二次会だろうか、酒気帯びの男女達がカラオケ屋へと入っていくのを見送った。二つ目のラムネを開けた。

     大通りから路地へと入る。そうすれば一気にきな臭さが増す。薄暗くなる。言うなれば酒とセックスしか供給がない場所。川が近くていっそうドブ臭い。通り過ぎる川沿いの公園の周囲には、立ちんぼの女が散見される。男受けするメイク、衣服、佇まい。中には明らかに未成年らしき少女も居る。
    「二万でいいよ」
     ぬらぬらとした唇の微笑みをやっぱり無言でやり過ごす。傍らでは、例の明らかな未成年少女に、妻がいるんだろう中年男が話しかけている。一万でどうだ、と。
    (自分の娘にも、性的な目を向けてるんだろうな、あの親父)
     ポイ捨てされた煙草を跨いで、十三は最悪で下劣な予想に思いを馳せながら、ラブホテルを見上げていた。このビルの中で、今、どれだけの人間が淫らな行為に耽っているんだろう。はたして打算のない相思相愛で愛し合ってセックスをしているつがいは居るんだろうか。あんまり居ない気がする。だからこの国は少子化なんだ。そんな黒い皮肉で心を遊ばせる。コーヒー牛乳の紙パックにストローを挿した。これだけでフロイト先生にセックスのメタファーと判定されそうだ。透明なプラスチックを、血色の悪い唇で咥える。筒状のモノを吸う。やっぱりフロイト先生に以下略。コーヒーの苦みなんてどこにもない砂糖の味。

     こんな真夜中なのにまだまだ街は明るくて、夜更かしを肯定されているような気がする。安心する。「早寝早起きこそが当たり前で善いことで健康的で人間として普通のことなのです」、なんて鞭打の痛みを忘れられる。
     橋の上から夜の都市を眺めている。揺れる臭い黒い水面に、きらきら、街の明かりが映り込んで揺らめいて。流れて行くゴミすらもなんかエモい。ぎゃあぎゃあうるさいのは、川沿いの道で何やら喧嘩が勃発しているからだ。酔っ払いVS酔っ払い。世も末の大いくさ。言葉での解決はあるはずもなく、双方がひたすら喚き散らして叫んでいる。理性とか、学校とか、勉強とか、そういうの全部無駄なんだなぁとしみじみ感じた。ソーダ味の硬いグミをぐにぐに噛んで観戦する。……結局、殴り合いにはならず、片方が暴れて周囲のものに当たり散らしている間に、もうひとりはどこかに消えていた。それから、もんのすごい奇声を発しながらノーヘル2ケツのスクーターが通り過ぎていった。

     夜が過ぎていく。
     道はあちこちゲロまみれだ。グチャグチャのゲロの上で寝ている酔っ払いがいる。失禁までしているが、寝顔は幸せそうだ。そこへ別の男が近付いて、慣れた手付きでポケットから財布を盗んでいった。そこから少し歩いたら、これ見よがしにシンナーを吸っている若者達がいた。シンナーを吸うことよりも、それを見せつけることにエクスタシーを感じている様子だった。
    (嗚呼、つくづくこの街って最悪だな)
     汚くて臭くて暗くて。人間の悪意や欲望の澱みの濃いところを選りすぐったような。ここには善も秩序もなくて。悪意と打算と剥き出しの欲望ばかりが渦巻いていて。
    (本当に……、悪くない街だ)
     この不埒な汚さが、十三にはとても安心した。汚くて最悪なのは自分だけじゃないんだと、「この世界は綺麗で正しい者しか居てはいけない」なんてことはないんだと、安心できるから。やっぱりみんな死んだ方が良いなと、納得できるから。

    (――そろそろ、眠たくなってきたな)
     スマホを異能で操作する。手に持って耳にあてがう。天使へ電話。彼はすぐに出てくれた。甘くて優しい声。
    『十三、どうしたの』
    「…… ん、 っ、……、っ……」
    『そう。楽しかった?』
    「ん」
    『よかった。そろそろ帰っておいで、眠たいだろう』
    「……ふ、……、 っ、……」
    『いいよ。一緒に寝ようか。部屋においで。待ってるよ』
    「ン …… ふふっ、……」
    『ふふ 君は可愛いね。じゃあ、また後で』
     通話終了。それにしても、どうして、天使は自分の言葉が分かるんだろうか……愛ゆえだろうか。
    (そうだったらいいなぁ……)
     スマホを片手に持ったまま、空を見上げた。街の灯りで星は見えない。真っ暗い、ひたすら暗澹とした、何も無い空。
     この汚い深夜の街で、俺は美しい天使に抱かれながら眠るのだ。そう思うと、優越感に口角が上がった。


    『了』
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    Xpekeponpon

    DOODLE十三 暗殺お仕事
    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
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