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    さざれゆき又鬼奇譚、幻班
    侠太郎の話、前日譚
    ネタバレなし
    この絵 https://x.com/Xpekeponpon/status/1751614463671968050?s=20

    #さざれゆき又鬼奇譚

    さざれゆき前日譚

     目は、瞼を閉じれば視覚がゼロになるが……
     耳は、閉じるものがないので『筒抜け』だ。

     侠太郎は鳥の鳴き声で朝を知る。布団から身を起こす。目を開けるが、そこには闇が広がっていた。いつもの、変わらない暗闇が。
     ザラザラと音を立てて、布団に散らばっていた砂鉄が右手に集まった。右手は全ての指、特に人差し指は付け根の掌部分も欠落していた。異様なのは五指の断面に釘が挿し込まれていることだ。砂鉄は五本の釘を骨として、肉のように、指の代わりになっていく。
     その手で掴むのは枕元の着替えだ。布……というか凹凸の少ない平面はあんまり見えないので得意ではない。首を傾げて指で確かめつつ、多少モタつきながら寝間着から着替える。

     男の家には朝も昼も夜もない。電気は要らないからいつも薄暗い。チクタク煩いので時計もない。家具も最低限で寂寞としている。そんな家を、盲の男はつまずきも手探りもなく、欠伸をしながら平然と歩く。
     外の風、鳥の声、空気の揺らぎ、それが生む音、自分の足音、呼吸音。それらが侠太郎の黒い世界に、輪郭線を作り出す。壁に隔てられぬ知覚は、窓がなくても外が見える。昨夜は大雪だったようで、雪がたくさん積もっていた。

     洗面を済ませる。「さっぶう……」と独り言を言いつつ、電気ストーブをつける。火を使うと、村人達が「危なっかしいからやめてくれ」と青い顔で言うので、ほな……と隣町で買ってきた代物だ。買ってきたら買ってきたで「おまえ一人で隣町に行ったんか!?」「説明書読めへんのに買うたんか!?」と言われたので、なんやねんどないせえ言うねんと思ったものである。そーいや電気屋のニーチャンにも「え!?」「ほ、ほんまに買いはるんですか?」と言われたっけ。
     ……全く、どいつもこいつも心配性やねん。侠太郎は溜息を飲み込みつつ、昨日の夜にこしらえておいた冷たいおにぎりを食べる。ちゃんと自分の金で買って、自力で研いで炊いたものだ。
     まあ、皆の気持ちは分かる。謎の異能に覚醒した自分が特殊なだけだとは理解している。普通は、お国が「いっちゃん重たい障害でっせ」と定めた人間に対して、そらそうする。分かる分かる。

     だが、己は八代の侠太郎。
     最強の又鬼、キジルシ狂太郎。
     情けも憐れも糧にして、受けた恩に報いるべく、凛と立つのが漢である。

    「ごっそさん」
     食べ終わり、手を合わせ一礼。
     さて。今日も奴を探しに行かねば。傷付いた目玉には、あの日の光景が焼き付いている。光を失う最後に見た、悍ましき怪物の姿――覚えている。何もかも覚えている。鮮明に、克明に。
     ざわついた血のままに、侠太郎は又鬼の装備で家を出る。父から継いだ村田銃を背に、山へと向かい歩きはじめた。
     本来ならば笠や頭巾を頭に着ける。父もそうしていた。だが音を少しでも拾いやすくする為に、侠太郎は頭には何も着けない。細やかな冷たい粒が頬に、耳に、触れる。その感触で、侠太郎はさざれ雪を知る。
     ざきゅ、ざきゅ、と雪を踏む足を一度止めて――侠太郎は空を仰いだ。
     真っ暗だ。真っ黒だ。
     星のない夜空のよう。
     吸い込まれて落ちてしまいそうな、無間の暗闇。
     まるで穴だ。ぽっかりと開かれた巨大なあぎとだ。
     侠太郎はそこに、朝の雪空を思い描く。曇白の陰影を描く雲。煌めくさざれ雪。雲の向こうのまばゆい太陽、青い空。子供の頃に見たまま、全て止まった景色。
     ――見開かれた白濁の目に、雪粒がひとつ落ちて、反射的に瞼を閉じた。溶けた雪が水になって、涙のように滲みこぼれた。指の背で拭う。白い息を吐いた。

     そうしてまた、男は輪郭だけの黒い世界を進む。


    『了』
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    ❄❄❄❄❄👏👏👏
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    Xpekeponpon

    DOODLE十三 暗殺お仕事
    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
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