間奏●
『あの事件』から幾らかの日が経った。
季節はすっかり秋めいて、閃の制服も夏季制服の白いシャツから学ランになった。
しばらく支部で大人達に見守られて休息をとっていた少年は、今はもう元の住居で暮らし、学校にも通っている。一週間の休みについても心臓の病を理由にしたから、心配されたものの怪しまれることはなかった。
「……閃くん、大丈夫?」
支部での業務中、職員が声をかける。真面目な子だから、自分を押し殺してはいまいか気がかりなのだ。
「あ―― はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
振り返る閃は笑顔を向ける。言葉に偽りはなく、表情や声音にはいつも通りのハキハキとした溌剌さがあった。
愛されて大切に育てられた少年は、自己の基盤がしっかりとできあがっていて――だからこそ、つらいことがあっても、キチンと休めばまた立ち上がれる強さがある。決して出羽ゆめみのことを忘れた訳ではないけれど、それでも立ち上がらねばならないことを、閃はしっかと理解していた。
861