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    さざれゆき幻班が明日なので、ガチ前日譚というか直前譚を書いた

    #さざれゆき又鬼奇譚

    邂逅直前 ●

     指が――痛い――右の指が――引き裂かれて、抉れて、千切れて、全部、動かない、血が、痛い、痛い、痛い、痛いっ、いたい いたい すごくいたい

    「――ッ がァあっ!」
     見開いた目には何も映らない。『真っ暗な』布団の中、右手を押さえてうずくまる。左手で触れたそこは、指が五本ともなかった。より精確に言うと、なけなしの小指とわずかな盛り上がりだけの薬指、綺麗に何もない中指、根本ごと抉れた人差し指、半分だけの親指だ。それぞれの断面には釘が刺されている。それを芯に、布団に散らばっていた砂鉄を電気の力で集めて真っ黒な指と化す。
    「指っ、ならっ、あるやろがいっ……!」
     この、指が千切れるような痛みが幻肢痛であることを知っている。医者から説明されて理解している。……なのに、痛い。あり得ない場所が、痛い。指が『こう』なったあの時のように、痛い。砂鉄の指を握り込む。
    (もう、傷は、塞がっとる、この指は痛覚のない指や、血の通うとらん指や、痛いはずがあらへんのや……!)
     何度も自分に言い聞かせる。幻の痛みの名前の通り、この痛みは事実ではないのだと。
     それでも――痛くて。ずっと痛くて。指が抉れたあの時の痛みが消えなくて。
     苛々する。痛くてままならなくなっている自分自身に。それもこれもあの怪物のせいなのだと、ますます殺意を募らせる。その激情に呼応して、体からはバチバチと雷が漏れ、室内だというのに風が唸り渦巻いた。見開いた目で闇を睨む。惨劇の日に焼き付いた、最後に見た光景、襲いかかってくる怪物の憎き姿に、敵愾心のまま牙を剥いた。
    「クソ、が……!」
     脂汗を流しながら布団から這い上がる。薬を仕舞っている棚を乱雑に開けて、痛み止めの薬を掴み取るように取り出して、用法用量も守らずに口に放り込み、バリバリ噛み砕いて飲み込んだ。布団に倒れたら負けな気がして、でも立っていることもできなくて、そのまま片膝を突いて、噛み締める歯列で痛みをやりすごしていた。
     ――薬が効いてきたのか分からない、指の痛みは遠ざかったが、今度は意識がゆらゆらして吐き気がして頭が痛くなってくる。オーバードーズの結果だった。
    「ゔ……」
     結果的に、布団に倒れることになる。こんなことをしている場合ではないのに……そう焦るほどに体は重く、辛く、いつしか目を閉じてしまっていた――。

     ●

     ふ、と目蓋が開く。
     どれぐらい倒れていたのか、今が昼なのか夜なのかも、この暗闇では分からない。
     汗が染みた布団に横になったまま、耳を澄ませた――村人達の生活音が聞こえる――村の子供達が隣町の学校へ行く音――どうやら早朝らしい。重い溜息と共に体を起こした。

     片手の指がなくても、存外、顔は洗えるもんだ。食事やらの支度を済ませ、そして、少しもたつきながらも又鬼としての『仕事服』に着替える。擦り切れ襤褸になってきたが、男の目には劣化が見えていない。弾薬を確認し、村田銃を担ぐ。
    「いってきます」
     誰も居ない真っ暗な家にそう告げる。「いってきますとただいまはちゃんと言いなさい」と母に厳しく躾けられた名残だ。後ろ手に戸を閉める。施錠はしない、泥棒などいないだろうし、入ったところで盗むものなんて無いだろうし、もしいたら地の果てまで追い詰めて殺すまでだ。

     雪がちらついているのを、額や頬に浴びる雪粒で感じた。
     白い世界、なのだろう。真っ暗闇の中を歩きながら、故郷の景色に思いを馳せる。空を見上げた。逆様の、虚ろ穴のような、どこまでも真っ黒な、吸い込まれて落ちてしまいそうな、奈落の空。
     常人ならば上下感覚が曖昧になって身を竦ませてしまいそうな黒を、男は、どこまでも真っ直ぐ見据えていた。
     ――視線を前に戻す。神なる山に一礼、雪山へ。異様に身軽になった体は、斜面も雪も――本気を出せば崖すらも易々と登れるのだ。風が行く先を指し示す。世界に輪郭を与えてくれる。何も、この歩みは止められない。
     さて。今日こそ奴を見つけ出すのだ。



     ――ひときわの寒気が流れ込んだその日。
     男は未だ、未来を知らない。



    『了』
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    DOODLE十三 暗殺お仕事
    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
    2220

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