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    インフィニティノヴァとオーディンアイ、ゲットだぜ!編

    #さざれゆき又鬼奇譚

    ルベドの瞳 ●

     視力を取り戻してから、侠太郎の日々は目まぐるしい。視力の問題、復讐のことで、文字も勉学も十歳で止まってしまっていたのだ。知りたいこと、学びたいことが山ほどあった。
     勉強を教えて欲しいとねだってきた侠太郎を、伊緒兵衛は無下にはしなかった。なんだったら教材を買い与えたほどだ。青年は心からの「ありがとう」を関西弁で繰り返し、本当に嬉しそうにしていた。

    「伊緒兵衛、ここってどういうこと?」
    「これなんて読むのん? これはどういう意味?」
    「なあ、この計算これで合うてる?」
    「これってどういうことなん?」
    「伊緒兵衛ちょっとええか――」

     十二年分。
     ずっと諦めていた勉強をもう一度できる喜びに、侠太郎はそれはそれは熱心だった。ひっきりなしに、伊緒兵衛にあれはこれはと質問してくる。都度、伊緒兵衛はそれに答えてやった。教える側として『生徒』が熱心なのは悪いことではなかった。
     侠太郎は意欲に見合って集中力や理解力も高く――というより一点に過集中するきらいもあって――伊緒兵衛が声をかけねば普通に夜通しやり続けることもあった。光の移ろいによる時間経過にまだ脳が慣れていなくて、体感時間に頼りがちというせいもあるが。
    「そうか……暗いと夜なんか……」とは、侠太郎がしみじみ呟いていた独り言だ。「そりゃそうでしょう」とは、伊緒兵衛が思わず返した言葉である。

     文字も、勉強の日々の中でかなり綺麗になった。侠太郎は「文字グチャグチャなんがずっと嫌やってん」と、文字の汚さと漢字の知識不足がかなりコンプレックスだったらしく、とくに文字と漢字については延々と練習をしていたし、辞書も読み漁っていたほどだ。
     文字の知識が増えてからは、侠太郎はよく読書をするようになった。伊緒兵衛の書斎の本を、比喩抜きで端から端まで読み始めたのである。
     そして外国語の本を見つけたら、今度は海外の言語まで教えろと言い出した。それなら、と伊緒兵衛は英語を教えてやる。
     侠太郎は風と音を繰る異能持ちゆえ耳が良い――というより音という大気の振動にとても敏感だ。一度声で聞かせた単語はほぼ忘れないし、完璧に音の震えを記憶している。なので文字よりも声と言葉とリズムで教えてやれば、驚くほどに上達していった。同じ要領で古語も学んだし、特に和歌や詩など音が美しいものはたいそう喜んだし「もっと教えて!」とねだってきたほどだった。

     ――知識と教養を身に着けていっても、侠太郎は相変わらず直情的で、謎の暴論と根拠のない自信と凄まじいプライドを隠しもしない、嵐のような男だった。
     一応、会話の語彙が増えた程度の変化はあったが……『理知的で落ち着きのある』、という形容からはちょっと遠かった。

     そうこうしている内に、季節は早々と巡り――もう冬になっていた。あのさざれ雪の日の邂逅から、もう一年が経とうとしていた。

    「綺麗えやのう〜!」
     邸宅のバルコニーから、侠太郎は冬の星空を見上げる。かつて焦がれて焦がれて焦がれ続けた、澄み渡る空気の中の煌めき、またたき。光の粒。吐いた命の息は白く、冬の夜空へ消えていく。
    (寒……)
     隣の伊緒兵衛は、凍てつく冬の夜に羽織ったコートを引き寄せる。今夜は「星のことを教えて欲しい」と言われたのだ。
    「……出ずっぱりだと体が冷えます。始めましょう」
    「は〜い! よろしゅう頼んます」
     二人並んで夜空を見上げる。今夜は月がなくて、星がよく見える天体観測日和だった。「あの星は、」と彼方を指さして、伊緒兵衛が星の名前や星座や、その伝承なんかを語り始める――かつて船乗りだった男は、星には詳しかった。数百年経っても、星空だけは変わらなかった。
    「俺あの星好き」
    「ああ――ベテルギウス」
     あの日の戦いで、侠太郎が名を尋ねた赤い星。オリオン座。なら、と伊緒兵衛はギリシア神話の狩人オリオンについての神話を語り始める。
    「名高き狩人のオリオンですが、彼も一度、盲目になっているんですよ」
    「へー。俺と一緒やのう。なんで目ぇ見えんくなったん?」
    「……身も蓋もなく簡潔に言うと、自分に振り向かない女を強引に姦淫したことへの報復として、彼女の父に両目をえぐられたからですね」
    「さ……最悪やな! オリオン最悪やな! タマ抉られてもおかしないでそれは」
    「まあその後、オリオンの目は無事に治るんですが」
    「誰かに治してもろたん?」
    「暁の女神エオスがオリオンに一目惚れをして、彼女が兄たる太陽神ヘリオスに治療を頼んだんですよ」
    「ほえ〜。俺にとっての伊緒兵衛やのう」
    「……エオスじゃなくてヘリオスのことですよね、……?」
    「せやけど?」
    「どのみち太陽神だなんて。……それで、オリオンは――」
     波乱万丈の人生を生きた狩人は……
     悲しい手違いから、恋人たる月の女神アルテミスの矢に射抜かれ、命を落とし……
     星座へと引き上げられ、月の女神と今も逢瀬を重ねているという。
    「……。ギリシア神話ってなんか……ロクな奴おらんくない」
    「まあ……最高神からしてかなり奔放ですから……」
    「なんかもっとこう……かっこええの想像してたのに!」
    「神話なんてそんなものですよ」
     はあ。侠太郎は溜息を白く吐いて――オリオン座を見上げていた。赤い光を、その周りの星々を見つめていた。
     そうして、ふと。目を閉じ、開けば、右目に灯る赤い光。ベテルギウスの輝き。星々の繋がりに導かれるように――その目の光の周囲に、新たな光がひとつふたつ、更に灯り、並び、連なる。両方の瞳の色が、分け与えられた血のような、鮮烈な赤に染まる。
     それは、後世において『サイドリール』と呼ばれる特殊レネゲイド因子が『インフィニティノヴァ』と呼ばれる性質へと深化した瞬間であった。

     ――人魚の呪いの血を数多受けた瞳は。
     人の業から大きく逸脱するに至った。
     無限新星の力だけではない。またそれとは異なる魔の力も。
     怪物狩りを自称する男の目が、魔眼と化したのは皮肉かそれとも。

    「侠太郎、それは……」
     流石に悠久の旅人も、異能因子の深化の瞬間は初めて見た。隣で煌々と輝く赤い光に瞠目する。
    「なんか……なんやろ、めっちゃよう見える……風の流れも光の流れも……全部がコマ送りみたいな……見える……うおお……今なら月の裏側まで狙撃できそうや……」
     侠太郎本人は驚きはしたが、己の力の高まりを純粋に喜んでいた。そして、ハッとして伊緒兵衛を真剣な顔で見やる。
    「せやっ……伊緒兵衛!」
    「な、なんだ」
    「そのまま動くな……!」
    「動くなって――」
     意図が分からないし、伊緒兵衛からすれば未知の現象が起きている。何事かと言われた通りに動かなかった――侠太郎の真紅の瞳がジッ……と彼の青い目を見つめている。星の色を宿した、射抜くような狩人の力強い眼差し。ともすれば神話のオリオンもこんな猛々しい目をしていたのかもしれない。
    「……、」
     あんまりにも見つめるから顔を逸らしたくなるが、「動くな」と言われている。伊緒兵衛はただ沈黙していた。
     そして。
    「……すげ〜〜〜〜! この状態で自分の目ぇ見たらごっつい綺麗に見えるう〜! すうっごい真っ青! 綺麗ぇ〜〜〜〜〜」
     物凄く嬉しそうな、笑顔。大はしゃぎ。
     目を見ていただけ、と分かるや伊緒兵衛は盛大な溜息と共に顔を背けた。
    「……中に戻るぞ。一応、目に異変がないか診ておく」
    「大丈夫やと思うけどなぁ? ほなよろしゅう〜」
     目蓋を閉じれば鮮烈な輝きは消える。そのまま青年は、伊緒兵衛の背中を追った。
    「あっ。授業、中途半端になってもたな? 明日もお願いしてええか?」
    「お前の目に異常がなければな」
    「やからぁ〜大丈夫やって 知らんけど」
    「根拠がないことを言うな」
    「アホ、俺の言動は俺が決めんねん」


    『了』
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    DOODLE十三 暗殺お仕事
    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
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