よく冷える夜のお話人を斬ることは、間違いなく悪いことだ。
じゃあ、もしその斬るべきものが、悪い人間だったら?
『斬れ、悪人ならお前らの言う魔物と何も変わらない』
ちいさいころ、大人たちはそう言った。僕はその通りにやってきた。
返り血は嫌だったけれども、ゴミ掃除が割り振られていた僕の仕事だったから。
そしてそれは昔から変わらなかった。昔からゴミというのは、大人のいう事を聞けない悪い人間のことを指していて。
だから弟も、あともう少し遅かったら、ゴミになっていたのかもしれない。
月明りの下、白い息を夜に溶かしながら、逃げ遅れた悪い人が何か叫んでいる。
でも何を?もうすぐ自分がどうなるか、分からない訳でもないはずなのに。
「でも、これが仕事なので」
微笑んでみるけれど、相手の様子は何も変わらない。
月明りで上手く見えないのかな。せめて安心してもらえるように、笑わないと。
「大丈夫、せめて痛まないようにしますから」
柄に手をかけようとしながら、笑みを作ってみても、怯えた表情は変わらない。
でもこれが仕事だから。悪いことをした貴方が悪いから。
そして僕はそれが得意だから。だから何も、悪いことじゃない。