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    ミカド

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    『デート』の言葉にドキドキする(両)片想いの彰冬
    ⚠️🎧🐹とも取れる描写あり

    #彰冬
    akitoya
    ##彰冬

    彰冬 土曜日の午前。こはねと杏は用事があるようで、今日のチーム練習は午後から始まる。彰人達は次のイベントで着る衣装を探しに、駅近のショッピングモールに来ていた。
     先に会計を終えて店の外へ出た彰人は、出入口の自動ドアのセンサーに引っ掛からないよう、ガラス扉から横にずれて冬弥を待った。暇つぶしにズボンのポケットからスマホを取り出そうとしたが、隣の自動ドアが開く。右肩に大袋のショッパーバッグを掛けた冬弥が辺りを見渡していた。
    「冬弥。こっちだ」
     スマホを戻して冬弥に声を掛けた。冬弥は長くクラシックをやっていた経験から、鋭い聴覚を持つ。通行人の賑わう中でもすぐに彰人の声と姿を見つけ出したようで、出入口を行き交う人々をくぐり抜けて小走りで合流に来る。
    「すまない、待たせたな」
    「大して待ってねえよ。買った分で十分か? もう少し見たいんなら、別の店にハシゴしてもいいぞ」
    「俺は大丈夫だ。彰人のおかげで何着か買うことができたからな。いつもありがとう」
    「いいっての。冬弥の服を見繕うの結構楽しいしな」
    「それはアパレルのバイトをしていたからか?」
    「まぁそれもあるんだろうが、冬弥とオレは骨格や似合う色や服の系統が違うだろ? 冬弥をストリートの服に落とし込むならどうするかなとか、じゃあオレはそれに合わせてどういくかって考えるのが好きなんだよ」
    「そうだったのか。いつもパッと決めては何着も抱えているが、まさかそんなふうに考えてくれていたとは知らなかった」
    「オレが好きでやってることだから気にすんなよ。またいつでも付き合うし」
    「ああ。頼りにしている」
     会話が一区切りつくと、彰人は近くからスマホの着信音を耳にした。聞き覚えのある音にズボンのポケットに触れたが、先に冬弥が自分のスマホを取り出す。
    「電話……俺だな」
     画面を見てそう呟いた冬弥は、彰人を見てから電話に応答した。「もしもし。どうかしたか?」
     敬語を使っていないことから、電話相手はそれなりに親しい間柄の人物らしい。開口一番に「どうかしたか?」と訊ねていたことから、彰人は同じチームの彼女らを予想した。冬弥の肩に腕をまわして端に寄らせる。
    「……そうか。それは災難だったな」
     冬弥の視線が左手首の腕時計に落ち、長い前髪の下で細い眉毛が八の字をつくる。電話相手が何かトラブルに巻き込まれたのだろう。顔の見えない相手を思って落ち込んだ表情をしている。冬弥の優しい人柄が出ているなと彰人は関心した。
    「俺達は平気だ、気にしないでくれ。先にふたりで声出しをやっておく。…ああ、そうだな」
     彰人を見て微笑み、こくこくと頷く。声色が戻ったことから、電話相手との会話も前向きなものになったのだろう。そろそろ会話も終えそうだ。
    「ふふっ、そうか。実は俺たちもデート中なんだ」
    「…………は?」
    「彰人には俺から伝えておく。では、また」
     冬弥は通話を終えてスマホをズボンのポケットに入れると、肩に掛けている袋を抱え直して彰人を見た。
    「電話は白石からだった。小豆沢と白石は別々の用事で遠出をしていたらしいんだが、たまたま乗り合わせた電車にトラブルがあって遅延しているらしい。再開の目処が立たないことから、ふたりとも待ち合わせに遅れるという連絡だった」
    「へ、へぇ…。そりゃあ大変だな…」
    「ああ。なんだか周りも騒がしかったから、かなり大ごとの事態なのかもしれない。わざわざメッセージではなく電話をかけてくれたからな」
     冬弥の台詞に彰人は「そうだな」とだけ返事をする。返答に困ったというのももちろんあるが、それ以上に別の思考が頭を埋めつくしていたせいだ。
     ——冬弥のヤツ『デート』つったよな、さっき。オレの空耳か…?
     こはね達を心配する冬弥と打って代わり、彰人は前で腕組み宙を見上げていた。
     『俺たちも』と言っていたことから、電話相手の杏の台詞にのっかって真似たのだろうと彰人は考える。彰人がこうも意識してしまうのは、普段ふたりが色恋沙汰の話を一切しないためだろう。今は恋愛よりも叶えたい夢に夢中だ。
     深い意味なんてねえ、だから深く考えるんじゃねえ、と彰人は心中でそう自分に何度も言い聞かせる。高鳴る鼓動を落ち着かせるために。もしこの買い物が『デート』に分類されんなら、オレはお前と何回デートしてんだよ、と考えては緩まる表情を必死に堪える。
     冬弥とふたりで出掛けたことを振り返ると数え切れない場面が彰人の脳裏をよぎる。コンビを組んではじめて出掛けた日も、こうしてイベント用の服を買った。今の冬弥はあの頃よりもよく笑うようになったし、生き生きとした表情をしている。そう考えてしみじみとした想いになるのはもう何度目になるだろう。
     ——冬弥に告白すんのは、あの夜を超えてからだって決めてんだ。オレの、オレ達の夢が叶うまでもう少しかかるかもしれねえが、もし……もし、オレと冬弥が恋人同士になれたら、そのときもこんなふうにただの買い物も『デート』つってくれんのかな…。
    「——じゃ、オレらもデートの続き、するか」
    「…っ!」
    「…なんで冬弥が驚いた顔してんだよ」
     平然を装い明るい声色を意識した彰人だったが、両目を瞠って驚いた表情をする冬弥に内心では動揺していた。
     不快な思いをしたのならもっと嫌悪感のある表情をするはずだと思い直すが、恋心を秘めている手前、彰人は臆病なことばかり連想させてしまう。
     ズボンのポケットに手を入れて冬弥をじっと見つめた。顔色をうかがう視線に気づいたようで目を逸らされてしまったが、不機嫌になっているわけではないらしい。視線があちこちを泳いでいた。
    「…たしかに…そうだな。俺が自分で言ったんだ。——彰人の口からあまり聞き慣れない言葉を発せられて、その……。ドキドキ、してしまった…。まさか聞かれていたとは思わなかったから、改めて言われると照れくさいな」
    「…っ、」
     冬弥の頬に朱が差す過程に、彰人はごくりと喉を鳴らす。照れ笑いをする冬弥にきゅんとときめく。はじめて見る笑顔だった。
    「す、少し早いが昼食にしないか? 彰人が美味しいと言っていたパスタ屋さんがここから近い。デザートメニューのパンケーキも気に入っているんだろう?」
    「お、よく店の場所まで覚えてたな」
    「彰人が珍しく写真を撮って、俺に見せてくれたじゃないか。とても興味がある」
    「そうだったな。……あ、この店に来たのはたまたまだからな? 近いつっても駅寄りだし、言われるまで気づかなかった」
    「わかっている。ただ、俺が彰人のおすすめの店に行きたいだけなんだ」
     切れ長の瞳を細くさせてふっと上品に笑う冬弥。色白の肌にはまだ赤みが残っている。自分はどうだろう、と彰人は頭の隅で密かに想像した。
     名称を特別にしただけで、結局はいつも通りの休日だ。ただ、相棒と——好きなひととこんなふうに一緒に過ごせるのは楽しくて幸せで、きっと冬弥もそう思ってくれているんだろうなと考えれば、胸が熱くなるのを感じた。
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